シーズン移行で変わる“常識”「移籍金は高い」 Jリーグに転換期…鹿島の重鎮が語る「カネとヒト」

常勝鹿島を支え続けた鈴木満氏に聞くシーズン移行による補強動向
Jリーグは2026-27シーズンから、秋春制へのシーズン移行という大改革に舵を切る。雪国での開催問題や、既存の学校制度とのズレなど、議論は尽きない。クラブの実務を取り仕切る「強化」の現場は、この変化をどう捉えているのだろうか。その答えを知るために、鹿島アントラーズフットボールアドバイザーの鈴木満(すずき・みつる)氏を取材。1993年にJリーグが開幕する以前の前身・住友金属蹴球団の時代から鹿島アントラーズに関わり、1996年から強化の中枢に君臨し続けてきた人物に話を聞いた。(取材・文=森雅史/全5回の1回目)
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ジーコと共に「常勝軍団」の礎を築き、強化責任者として、数多のタイトルをクラブにもたらした。現在はフットボールアドバイザーとして、深い知見をクラブに還元している。30年以上にわたり、日本の移籍市場の酸いも甘いも噛み分けてきた強化のレジェンドは、シーズン移行についてポジティブな見解を口にした。
「シーズン移行は、クラブにとっていい方向に行っていると思いますよ」
かつてはシーズン移行に慎重な姿勢を見せていた鈴木氏が、なぜ今は肯定的なのか。その理由の一つは実利的な「カネとヒト」の動きにあった。
最大のメリットは、ヨーロッパとのカレンダー統合だ。「日本からヨーロッパに行きやすくなる」というのは選手側の視点だが、クラブ側にとっても「シーズン中に主力を引き抜かれるダメージが少なくなる」という恩恵は計り知れない。
この変化は、クラブの金庫番としての戦略も劇的に変える。これまでの春開幕(2月~12月)のシーズンでは、日本のクラブは常に夏に備えなければならなかった。シーズン中の7、8月に、海外のクラブから主力を引き抜かれるリスクがあったからだ。
鈴木氏は小笠原満男にイタリア・レッチェへの移籍話が持ち上がった2005年に「優勝争いをしていたので、次のウインドウまで待ってほしい」と交渉したと振り返った。小笠原は翌夏の移籍期間まで待ち、イタリア・メッシーナへと旅立った。
「(以前は)シーズンが違うと、夏に出ていく(移籍する)選手が多くなります。そのために急遽補強しなければいけないっていうような状況になることを考えなければいけませんでした。(開幕するときに)その夏のバジェットを準備しなければいけないというところはありましたね」と、これまでの苦労を振り返った。
シーズンの明暗を分ける夏場に主力が抜け、慌てて代わりの選手を探す。そのための“緊急補強費”をプールしておかなければならない。クラブ経営にとって非効率な資金の寝かせ方だったが、シーズン移行後は資金運用が変わる。
続いて鈴木氏が明かした真実は、さらに踏み込んだところにあった。それは移籍金だ。一般的に、ヨーロッパのシーズン途中である冬の移籍市場は、主力に怪我人が発生した際の緊急補強の要素が強く、移籍金が高騰しやすい傾向にある。逆に夏の移籍市場は、多くの選手が動くため価格が落ち着く傾向が通説だった。ただ鈴木氏は「今はもう、そういう時代ではない」と首を振る。
「移籍金も夏のほうが取りやすいんですよ。ヨーロッパは夏の移籍がメインです。だから向こうのバジェット(予算)は、夏の移籍のための準備が多いんですよね。だから夏と冬に同じ選手が移籍するにしても、過去の事例から言っても、夏のほうが金額が高いんですよ。冬はバジェットが少ないので、移籍金まで抑えられるんです」
ヨーロッパのクラブは、新シーズンが始まる夏に欲しい選手がいれば、最大の強化予算を用意する。対して冬は、あくまで微修正の場であり、残った予算でやり繰りするケースが増えている。冬のほうが高く売れるといった常識は、現代の移籍マーケットでは過去の遺物なのかもしれない。シーズン移行によって、日本のクラブは最も高く売れる時期に、海外へ選手を送り出せるようになる。
「チーム編成をするのは、シーズンが終わって次のシーズンが始まるまでが一番メイン。そこに(これまでより)バジェットを使うことができるんです」
ヨーロッパと同じサイクルになれば、日本のクラブも「夏の開幕前」にメインの予算を投じてチームを作り上げればいい。夏に主力をごっそり抜かれるリスクが減る分、不確定な「予備費」に頭を悩ませる必要性は薄れる。経営資源をより計画的に、より効率的に使えるようになるのだ。
では、これで強化担当者の仕事は楽になるのかといえば、そうではないらしい。苦笑しながら“リアル”を語った。
「今の選手の契約はウインドウが開くたびにある。だから一年中そういう作業をやらなければいけないという時代です。強化の仕事はウインドウの時期に集中していたのが、今は一年を通して行う方向になってきました」
かつては移籍ウインドウが開く時期に仕事が集中していたが、現在は代理人との交渉、契約内容の詰め、スカウティングと、一年を通して休む暇がない。「契約更新はどうする」といった駆け引きはウインドウが閉まっている間も水面下で続いている。
シーズン移行は、日本のクラブ経営をヨーロッパ基準の「グローバル・スタンダード」へと強制的にアップデートさせる。それは単なる日程変更ではない。予算の組み方、選手の売り方、そして強化担当の働き方まで、すべてを変える“構造改革”なのだ。鈴木満氏という稀代の勝負師は、その激動の変化すらも、クラブを強くするための好機と捉えているようだった。
(森雅史 / Masafumi Mori)

森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。



















