Jクラブが手にした本当のポテンシャル「相当あるのでは」 本場のRBを熟知…日本人が明かす“真の強さ”

ライプツィヒの育成組織でコーチを務める荒岡修帆【写真:中野吉之伴】
ライプツィヒの育成組織でコーチを務める荒岡修帆【写真:中野吉之伴】

大宮アルディージャは2025年にRB傘下に入った

 レッドブル(RB)といえば、ワールドワイドで様々なスポーツを活用した活動を手掛ける企業だ。サッカー界に本格的に参入したのは2005年。日本でも大宮アルディージャが、RB大宮アルディージャとして傘下に入ったことで、注目を集めている。

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 敵陣から矢継ぎ早にボールを奪いに行き、ダイナミックにゴールを狙うのが特徴なRBスタイルのサッカーには爽快感がある。インテンシティが極めて高く、それでいて様々なプレー原則が設計されている。

 日本代表MF南野拓実が、アーリング・ハーランド、ドミニク・ソボスライらとともに、欧州に旋風を巻き起こしたRBザルツブルクのようなサッカーが日本でも見られたら、日本のサッカー界に新たなトレンドが生まれるかもしれない。

 一方でレッドブルの特徴は、ライプツィヒ、ザルツブルク、ニューヨーク、ブラガンチーノ(ブラジル)、そして大宮というサッカークラブだけのグループではない点にある。F1チームを持ち、アイスホッケー、自転車ロードレース、ラグビーといった複数競技にまたがってチームを保有する。さらに個人アスリートの支援も広く行い、スポーツを包括的に扱っている。

 もちろん、似たような動きは世界にある。シティ・フットボール・グループのようにサッカーに特化して複数クラブを持つ例もあれば、国や地域を跨いで投資する例もある。だがレッドブルの競技横断という点は、異質といえるかもしれない。

「ここまで様々なスポーツを包括的に見て、何かしようとしてるグループは、世界中探しても、他になかなかないのかなと思ってます」

 そう語るのは、RBライプツィヒ育成アカデミーのU12からU16でフィジカルコーチを務める荒岡修帆(30)だ。実際にRBグループの中で働く彼だからこそ感じるものがある。RB大宮アルディージャはいま変化の渦中にあるが、将来的にどんなポテンシャルを持っているのだろう?

「RBグループの特徴というか、ライプツィヒもザルツブルクもそうだと思いますが、組織としての確かなコンセプトとそれに沿った継続性があります。どんなサッカーを表現したくて、そのためにどんな選手、コーチングスタッフや他のスタッフが必要かを考えるし、それを丁寧に積み上げていきます。

 このように長期スパンで一貫して取り組み続けるクラブは、日本ではまだ少ないのではないかと思うんです。資金があっても、内部が毎年のように変わるクラブも少なくはない。それこそ2部で優勝して水戸ホーリーホックが1部に初めて昇格しますが、クラブ規模の大きい・小さいではなく、クラブとしての方向性を明確にして、それをベースに工夫しながら、着実に積み重ねてきたクラブが結果を出したりしています。RB大宮アルディージャもコンセプトをもって、コンスタントに取り組んで、プラスアルファでリソースが伴ってくるクラブとして、ポテンシャルは相当あるのではないかと思います」

パフォーマンスユニットのヘッドを配置した理由

 そんなクラブとしてのコンセプトや取り組みの一例として、彼が関わるフィジカル部門の話をしてくれた。ライプツィヒでは大きくパフォーマンスユニットがあり、そこにはフィジカルだけでなく、理学療法、スポーツ心理、栄養といった複数の専門領域がある。専門性を高めて、選手の成長をさらにサポート。それらを束ねる立場にいるのがパフォーマンスユニットのヘッドであり、このポストができたことで、パフォーマンスユニット全体の意思決定プロセスがだいぶ改善されたという。

 その背景にあったのは、専門領域が分かれているがゆえに起きていた“正しさの衝突”だった。

「それまでは4つの部門がそれぞれ分かれていました。そうなると、どうしてもそれぞれの立場でそれぞれの正しい意見を主張し合います。それでまとまることもありますが、一つのケースに対して意見が一致しない、ということも往々にして起こります」

 専門性がある組織ほど、こういう状況は起こりやすい。全員が「正しい」ことを言ってはいるが、「フィジカルコーチはこう言ってるけど、フィジオはこう言う。栄養士も違うことを口にしている」というふうに、専門性があるが故のずれが生じることもある。だが、それぞれのケースに対して互いに“正しさ”を主張したり、あるいは折り合いをつける時の基準が明確にないと、スピード感を伴った最適な決断が難しくなる。そうなると選手のサポートも、停滞してしまう。

 だからこそ、そこにヘッドが置かれ、統合が進んだ。

 組織としての方向性と優先順位が明確になる。ディスカッションの目的が明瞭になる。それぞれの役割がわかりやすくなる。この3つが揃っているから、先にスムーズに進むことができるのだ。

 そのほかで育成年代の現場で起きた変化として挙げられたのが、U-16以下のフィジカルサポート体制だ。以前は「1チームに1人」ついていたものが、今は「U-16からU-12を4.5人で見る」形に変わったという。

「1チームを1人で見るっていう形ではなくて、ウォーミングアップとかジムのセッションにおいて1チームを2人以上で見れるような形にしています。組織として選手をサポートする環境が築かれているなと思います」

 そういえばRBグループのグローバルサッカー部門の責任者に元ドルトムント、リバープール監督のユルゲン・クロップが就任したが、そのクロップがドイツの国際コーチカンファレンスでこんなことを口にしていた。

「スタッフ全体の雰囲気をよくするのが自分の大事な役割の一つ。関係性をうまく築き、それぞれに責任ある仕事を任せる。最後の決断をするのは私だし、歩むべき道は自分が歩いてみせなければならない。優れた心理マネジメントはこれからの時代に欠かせない」

 レッドブルの強さは、派手な戦術や補強だけではない。RB大宮アルディージャが手にするのは、サッカースタイルだけではなく、より本質的な積み上げが可能となる組織構造のあり方なのかもしれない。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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