58歳のカズも驚いた異例の先発「どうなのかな」 想定通りの20分…指揮官が抜擢した本当の理由

三浦知良は開幕戦に先発出場して前半20分までプレー
カズがJリーグの舞台に戻ってきた。J3福島ユナイテッドFCのFWカズ(三浦知良)が2月7日、J2甲府との「百年構想リーグ」開幕戦に58歳346日で先発出場。5年ぶりにJリーグのピッチで20分間プレーし「本当に幸せ」と話した。1-4での敗戦を悔しがりながらも先発20分という異例の起用にも手ごたえ。プロ41年目のシーズンは笑顔で始まった。
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試合前、スタメン時のルーティン通りに11人の最後にピッチに飛び出すカズに、スタンドから大きな拍手が起きた。記念撮影では「指定席」の後列右端。背番号11の前に、チームとして経験したこともない多くのカメラマンが並んだ。
3トップの真ん中、最前線で躍動した。チームが得意とする短く速いパスを受け、味方につないだ。前半7分には自陣でのスライディングタックルで相手ボールをクリア。17分に右サイドでボールを受けて得意のシザース(またぎフェイント)で中央に持ち込むと、甲府サポーターからも歓声を浴びた。
19分には縦パスをキープしたところで後方から強烈なタックルで倒される。ファウルを誘ったプレーを最後に、FW樋口寛規に交代。敵味方なくスタンド全体からの拍手を浴び、寺田周平監督(50)とのハイタッチで20分間のプレーを終えた。
シュートはなく、決定的な場面もなかった。それでも昨季までのJFL鈴鹿時代よりはプレー回数も増え「チャンスはあった」とカズ。寺田監督も「ボールを引き出すなど、かかわりは悪くなかった。もう少しゴールに近いところでプレーできればという部分はあるが、よかったと思います」と話した。
体力的な問題からプレー時間は限られると思われていただけに、先発出場は意外だった。カズ自身も2日前に寺田監督から言われた時「予想していなかったし、ずっと長い間やっていますけど、おしっこチビりそうになりましたね」とユーモアを交えて振り返った。
20分での交代も異例だ。寺田監督は「戦術的なことなので」と言葉をにごしたが、カズは「最初から言われていた」と明かした。「最初に出て20分から30分で変わるというのは、自分の中ではどうなのかと。交代枠を前半で使って、後半いろいろなことが起きた時にどうなのかと思った」が、監督からの返答は「大丈夫、問題ない」だったという。
長い経験を持つカズらしい心配でもある。Jリーグが始まった1993年、交代枠は延長戦を含めても1試合で2人だった。3人になったのは95年、それでも「先発選手は最後まで」が基本だった。新型コロナ禍で暫定5人交代が恒久的なルールになったのは2022年。交代枠の戦術的な利用幅が広がったことで「スタメン20分」という起用が可能になったのだ。
カズにとって重要な「試合に向けて準備をする」
「出場時間や起用法も含めて考えていく」とカズ起用について話していた寺田監督の狙いを持った先発抜擢だった。「練習の時からカズさんにボールが入って回りが生きるシーンがあった。開幕戦という雰囲気の中で、チームにとってプラスになると思って起用した」と説明。戦力として、さらにチームにもたらす影響力として、勝つために58歳を先発起用した。だからこそ、J2相手の敗戦を「悔しい、残念」と振り返った。
カズは「最初からで、チームを勢いをもたらすなど期待されていることは分かった」と話す。そして「先発したけれど出場時間は短かった。体力面で自分が進化、進歩していかなければならないと感じた」。開始3分で失点したことも含め、チームが敗れたことを反省した。
59歳を目前にしての先発出場。今大会はシーズン移行をふまえての特別大会だけにJリーグ最年長記録更新とはならないが、それでもJリーグ公式戦で考えれば自身のルヴァン杯で持つ記録を大幅に更新する。もっとも本人は「記録のことは意識していない」。JFLでも毎週更新する最年長記録に「もう、いいんじゃないですか」と話したこともある。
目標はブレることなく試合出場。もっとも、カズにとって重要なのは「試合出場に向けて準備をする」ことだ。「高い強度で毎日練習して出る準備をする。それができなかったら、ピッチに立つ資格はなくなる。それが一番大事で、結果として出られたらうれしい」と話した。
「スタメンでも交代出場でも準備することは変わらない」と起用法には言及しなかったカズだが、もともとは先発タイプ。スピードや高さやパワーなど並外れた武器で流れを変えるタイプではなく、序盤から試合の流れを作り、それに乗っていくタイプだ。ずいぶん前の話ではあるが「先発の方がやりやすい」と話していたこともある。
シーズン開幕戦はただの試合ではなく、監督の、チームの1年を占う上での重要な1戦だ。寺田監督の「時間限定の先発起用」という大胆采配に見通しがたったことで、活躍するチャンスは増える。これまでは試合終盤、言葉は悪いが「アリバイ」のように出ることもあったが、体力が戻ってきたこともあり、今季はと戦力としてもチームに貢献できそうだ。
次節は15日のJ2いわきFC戦。公式戦では3年ぶりの「福島ダービー」に向けて、寺田監督はカズ起用について「何も決めていない」と話した。フィジカルを前面に押し出す相手は、福島とは真逆のスタイル。58歳への負荷が大きくなるだけに、寺田監督の起用法も楽しみになる。
「このスタジアムは横浜FCでも来ましたし、懐かしさと新鮮さとが入り混じった感覚でした」と話し「Jリーグの雰囲気は素晴らしいと感じた」と言った。前所属の鈴鹿にも気を遣ってJFLとの直接的な比較は避けたが「やはりプロのリーグ。運営とかサポーターの規模とか雰囲気も全然違う」。試合結果については「残念。勝つために役に立ちたい」と言いながらも「ピッチに立てたのは楽しかった」と笑みもみせた。プロ41年目、Jリーグの舞台にカズが戻ってきた。
荻島弘一
おぎしま・ひろかず/1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者として五輪競技を担当。サッカーは日本リーグ時代からJリーグ発足、日本代表などを取材する。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰。20年に同新聞社を退社。



















