独名門の日本人コーチ「上限をどこに設定するか」 育成年代の練習に持論「元も子もないです」

ライプツィヒ育成アカデミーでフィジカルコーチを務める荒岡修帆
ドイツ1部ブンデスリーガのRBライプツィヒで育成現場に関わる荒岡修帆。現在ライプツィヒ育成アカデミーのU12-U16でフィジカルコーチとして活躍中だ。そんな彼に育成年代のフィジカルトレーニングについて語ってもらった。(取材・文=中野吉之伴/全3回の2回目)
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フィジカルトレーニングという言葉には、どこか《厳しい追い込み》というイメージがつきまとうことがある。何度も走らせる。何度も筋トレをする。休みなく毎日やる。途方もなく長時間取り組む。
《厳しい追い込み期》があること自体は、間違いではない。そうすることで心身ともに成長することもある。
ただ、RBライプツィヒ育成アカデミーのU12-U16でフィジカルコーチを務める荒岡修帆は、フィジカルトレーニングによって成長するポイントは、「《強くしようとする》以前に《壊さないようにする》ことのほうが大事だ」と伝えてくれた。
育成年代であれば、身体は成長途中。精神的にも不安定になる時期は普通にある。負荷が積み重なった時に、パフォーマンスだけでなく心身そのものが崩れることもある。
だからこそ、現場の基本線はこうなる。
「フィジカルトレーニングというのも、できる限りやった方がいいっていうのはベースにあると思うんですよね」
ただし、その直後に続く言葉が重要だ。
《できる限り》とは、無理をさせ続けることではなく、どこまでが成長への取り組みで、どこからが破綻への悪手なのかを見定めて設計すること。だから、フィジカルコーチとして最初に考えるのは、メニューの中身そのものではなく、「選手個々の成長具合に適した上限をどこに設定するか」だという。
「フィジカルトレーニングのやりすぎで、チームトレーニングへ悪影響をもたらしてしまったら、元も子もないです。だから、子どもたちがリカバリーするためにはどれぐらいの時間が必要なのか、どれぐらいの余力を残しておく必要があるのか、をこちらは丁寧に設計しなければなりません。確かな回復のフェーズがあってはじめて成長します」
ここで語られているのは、トレーニングの強度の話だけではない。生活全体を含めた余白の必要性についてだ。週や月、年間の設計に落とし込むと、視点はより立体的になる。
試合とトレーニングの関係性は、育成年代では特に難しい。大人の世界なら、試合で結果を出すために、可能な限りフレッシュな状態で臨む設計が極めて重要だ。だが育成の場合、目的は選手それぞれの成長。となると、考え方は一つではない。
「フレッシュな状態で試合に臨むことで自身のパフォーマンスを最大限に発揮する術と向き合うのも大事ですし、目先の試合結果よりも長い目で成長するのが目的なら、少し疲労した状態で試合に臨むことがあっても構わないという考え方もあります。そこを考慮して、どの時期にどのやり方をするかが設計されているのが大事だと思います」
荒岡が主張するフィジカルコーチとしての指摘で興味深いのは、こうした議論が「根性論」ではなく「設計」の話として進むところだ。
そして、その設計はサッカーの練習だけで完結しない。学校生活や私生活が必ず絡む。
「選手が学校でテスト期間がありますっていうタイミングとかだと、集中できなかったり、練習をやったとしても疲れるスピードが速かったり、走れなくなるっていうのは見て取れます」
疲労は身体の問題だけではない。精神的な負荷、集中力の枯渇、睡眠の質。そういったものが走力やパフォーマンスに直結する。それはトレーニング効果にも影響する。そうした中でもあえてトレーニングをすべきか、あるいはしっかりと休むべきか。それを一緒に考えてくれる存在として、フィジカルコーチの仕事は、筋肉を鍛えることだけではなく、日々の状態を読み取って調整することが重要だ。
「選手それぞれの負荷耐性は違うし、回復力だって違う。あと全員が同じ学校に行って同じスケジュールであればもちろんいいですけど、そうじゃない場合の方が多い。『この子はこの曜日に何時に来れるから、ここの時間で個人プログラムをやろう』とか、「寮に住んでいるなら練習後に少し時間を作ってやっていこう』とか、うまくアジャストするようにしています」
できる限りやるとは、全員一律で押し込むことではない。個人の生活に合わせて調整すること。その視点があるから、同じクラブの同じ育成年代でも、負荷のかけ方、取り組み方は選手ごとに変わる。
またドイツの特徴として語られたのが、休暇の存在だ。
春休み、夏休み、秋休み、クリスマス休暇、イースター休暇……学校も休みになる休暇がそもそも多い。そしてその期間に1週間から数週間まとまった休みを取ることは少なくない。
ここは日本の育成年代を考えるうえで示唆が大きい。日本では休み期間も活動が続きやすく、休みが休みにならないケースがまだ珍しくない。だが彼は、休暇の価値を「競技から離れる時間」として捉えていた。
「サッカーも学校もない期間がどれぐらいあるかというのは、子どもたちの成長にとってとても大事なことだと思います。リフレッシュする、旅行に行って新しい景色を見る、新しい文化に触れる、普段できないことをして遊ぶ、友達と遊び、遊びでサッカーをする。そういう時間はすごい大事です」
休むことは、サボることではない。むしろ次にまた走るための大事な準備だ。そしてこの話は、フィジカル論から育成論へとつながっていく。
「限界は超えなきゃいけないとは思うんですけど、限界を超えてずっとやり続けたら、出力は保てなくなる。成長には絶対にリカバリーが必要になる。やって、やって、やって、ではなくて、負荷と休養のバランスがとれたサイクルが重要なんです」
さらに踏み込んで、彼はこう言った。
「子どもたちは本当に毎回、『今日も練習に来たい!』と思って来れてるのか。小学生、中学生で『行かなきゃいけない』が増えるのは健康的じゃない。サッカー以外のこともやる時間がある中で、やっぱりサッカーがいいな、練習に行きたいなって思える心のサイクルが大事なんです」
伸び続けるための余白。心が燃え尽きないためのサイクル。育成年代においては、そこまで含めてトレーニング設計なのだろう。
改めてまとめよう。追い込む厳しいトレーニングそのものが悪だといっているのではない。ただ、追い込むだけでは人は成長しないのだ。負荷高く追い込む時期があるなら、そこから十分に回復できる時間もセットに組み込まなければならない。
フィジカルアプローチとは鍛えるだけではなく、壊さない設計がなにより大事なのだ。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。



















