12歳で親元離れ寮生活「家事を妹や弟に」 J2→J1移籍…感謝の思い込めた背番号「39」

ジェフユナイテッド千葉に完全移籍で加入した石尾陸登【写真:藤江直人】
ジェフユナイテッド千葉に完全移籍で加入した石尾陸登【写真:藤江直人】

千葉の石尾陸登「日常的にコミュニケーションを取るのが個人的にすごく苦手」

 プロ選手ならば誰でも背番号に大きなこだわりをもっている。J2のベガルタ仙台から17年ぶりにJ1へ復帰するジェフユナイテッド千葉へ完全移籍で加入したプロ3年目の24歳、石尾陸登もその一人だ。仙台時代に続いて新天地・千葉でも「39」を自ら選んだサイドバックが、背番号に込めた熱い思いに迫った。(取材・文=藤江直人)

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 新天地の千葉に完全移籍で加入しても、石尾は迷わずに「39」を背番号に選んだ。プロの第一歩を踏み出した仙台時代から一貫して、24歳のディフェンダーは同じ番号を背負い続けている。

 千葉市内のクラブハウスで1月17日に行われた新体制発表会見。石尾は「39」に込めた思いを明かしている。

「これまでの自分のサッカー人生において苦しいときが何度もありました。そういうときに支えてくれた家族のみんなや、サッカー関係者のみなさん、そして友だちへの感謝の気持ちという意味で付けています」

 数字の「39」は、実は「サンキュー」と読める。ここまでのサッカー人生に関わってくれたすべての人々へ、背中を介して「ありがとう」とメッセージを発信してきた石尾は、さらにこんな言葉を紡いでいる。

「僕は小学校を卒業してから寮生活に入った関係で、家事(の手伝い)を妹や弟にすべて任せてしまったので」

 愛知県で生まれ、岐阜県多治見市で育った石尾はプロサッカー選手を夢見て、小学校卒業後にJFAアカデミー福島に入校。中学、高校の6年間を完全寄宿制のもとで過ごし、卒団後は仙台大学に進んだ。

 仙台でプレーした2024シーズン以降の2年間を含めて、親元を離れてからすでに13年目に入っている。アマチュア時代は金銭面で両親に大きな負担をかけ、弟妹たちにもさまざまな我慢を強いらせてきた。

 石尾自身も何度も逆境に直面し、心が折れかけた。そのたびに家族、特に弟妹たちを思い出しながら「負けてたまるか」と奮起してきた。応援してくれる人がいるから頑張ってこられたといまでも万感の思いを抱く。

 念願のプロになったときの初心はもちろん忘れていない。17年ぶりにJ1へ復帰する千葉からオファーが届き、熟慮した末に国内のトップカテゴリーでプレーする選手になって、感謝の二文字はさらに強くなった。

 昨シーズンの千葉では、J1の横浜FCから6月に期限付き移籍で加入したFW森海渡が「39」をつけた。オフになって森が古巣へ復帰し、空き番になっていた状況もあって千葉でも引き続き「39」を背負えた。

 右利きながら、仙台での2シーズンは左サイドバックを主戦場にリーグ戦で54試合に出場した。そして石尾の生を一躍有名にしたのが、ルーキーイヤーだった2024シーズンの第2節、V・ファーレン長崎戦となる。

 両チームともに無得点で迎えた前半22分。敵陣に攻め込んだ仙台が左サイドでスローインを獲得し、左サイドバックで先発していた石尾が武器とするロングスローを投じるための準備に入った直後だった。

 当時の長崎のホーム、トランスコスモススタジアム長崎には陸上トラックの内側にも、観客がパイプ椅子に座って観戦していた。そして、ボールの表面をタオルで拭いていた石尾が、観客に対して何度も頭を下げた。

 ロングスローを投じるためには、勢いをつけるうえで助走が必要となる。助走のための距離を取ろうと石尾は座っている観客へ「すみません。ちょっといいですか」と頭を下げて、椅子の間隔を空けてもらった。

 最終的には相手の守備陣形を見て、石尾は投げる直前でロングスローをキャンセルして後方の選手へ普通にボールを預けた。それまでの礼儀正しさと虚を突くキャンセルのすべてが、ファンの間で大きな注目を集めた。

 Jリーグの公式X(旧ツイッター)へ「すみません、失礼します!」という文言とともに投稿された30秒ほどの動画は瞬く間に拡散される。いわゆる“バズった”一挙手一投足に仙台も、そして石尾も驚かされた。

 常に礼儀を欠かさない生き方を両親から厳しく教えられてきた石尾にとって、椅子をずらしてくれた観客に頭を下げるのは当たり前の行為だった。心優しき好青年の石尾は、自身の性格を次のように描写している。

「日常的にコミュニケーションを取るのが個人的にすごく苦手なので、知り合いがまったくいない環境に飛び込んだのはすごく不安でした。そのなかでみんながすごく優しく接してくれるし、練習を重ねていくなかでしっかりコミュニケーションを取りながら、気がついたら馴染めている、という感じになっていると思います」

 そのうえで個人昇格する形で、J1に復帰する千葉への加入を決めた理由をこう語った。

「僕自身は攻撃が得意で、ビルドアップの出口になって自分1人で相手を1枚、2枚と剥がして相手ゴール前まで行けるところと、守備ではカバーリング能力やカバーできる範囲の広さ、そして対人の強さにも自信がある。自分のよさがジェフに組み合わさったら特に攻撃面でどのようなパターンが増えていくのか、どのようなコンビネーションが増えていくとか、といった点ですごく楽しみな部分もあって加入を決めました」

 今オフに就任した大久保裕樹テクニカルダイレクターも、サイドバックとしては大柄な身長181センチ、体重72キロのサイズながらスピードがあり、センターバックでもプレーできる石尾に大きな期待をかけている。

「昨シーズンまでのウチになかった、サイドバックのところでの攻守の高さがまずあります。なおかつ非常に攻撃的な選手で、小林慶行監督が考える攻撃的なサッカーにすごくマッチした選手になると思いました」

 例年の沖縄キャンプを実施しない千葉は、千葉市内のユナイテッドパークで調整を続ける。今年は柏レイソルのホームに乗り込む31日の伝統のちばぎんカップをへて、浦和レッズをホームに迎える2月7日の百年構想リーグ開幕戦へ。石尾は「39番」を介して感謝の思いをパワーに変えながら、新天地での戦いを加速させていく。

(藤江直人 / Fujie Naoto)



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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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