中3で負傷判明→高2で復帰 代表も経験…190cmストライカーが空白の2年乗り越え「いま本当に楽しい」 

ンワディケ・ウチェ・ブライアン世羅【写真:安藤隆人 】
ンワディケ・ウチェ・ブライアン世羅【写真:安藤隆人 】

桐蔭横浜大学の2年生大型ストライカーのンワディケ・ウチェ・ブライアン世羅

 大学サッカー界の年内最後の試合となる第74回全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)が開幕した。今年は全国7地域のリーグ戦で上位となったチームが12月8日に一発勝負のプレーオフを戦い、勝者が関東王者の筑波大学、九州王者の福岡大学、関西王者の関西学院大学、東海王者の東海学園大学がいるそれぞれのリーグに入って決勝ラウンドへ。敗者が強化ラウンドとなるリーグ戦に移行するという方式で覇権を争う。

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 ここではインカレで輝いた選手たちの物語を描いていく。第12回は桐蔭横浜大学のプロ注目の2年生大型ストライカーのンワディケ・ウチェ・ブライアン世羅について。190cmのサイズと屈強なフィジカルを持つストライカーは、「今サッカーがめちゃくちゃ楽しい」と笑顔を見せた。

 FW肥田野蓮治(浦和レッズ内定)、櫻井稜(大分トリニータ内定)、DF関富貫太(横浜Fマリノス内定)、GK高橋一平(ベガルタ仙台内定)とタレント揃いの桐蔭横浜大の中で、長いリーチを駆使した懐の深いボールキープとずば抜けたスピード、そして前への推進力を持つンワディケの存在は際立っている。

 インカレではプレーオフで仙台大に2-3とまさかの敗戦を喫したが、2点を奪い取った。強化ラウンドでも甲南大に2ゴールを決めて3-1の勝利、2-2で引き分けた第2戦の桃山学院大戦でも1ゴールを叩き出し、今大会5ゴールと勢いは止まらない。

「優勝を狙って臨んで、結果として強化ラウンドに回ってしまいましたが、その中で自分とチームが来年にいい形でつなげるために、なるべくここで自分の課題と向き合って全力で取り組んでいきたいと思っています」

 モチベーションは一切落ちていない。むしろ燃え上がっている。それはプレーの端々に感じ取ることができた。桃山学院大戦では攻守において足を止めなかった。常に相手のCBと駆け引きをして裏のスペースを狙ったり、足元にボールを収めて周りの選手を使ったりと、前線で起点を作り出すと、守備面でもショートスプリントを繰り返して質の高い前線からの守備を見せた。33分にはMF伊藤ロミオのパスに抜け出してゴールを射抜くなど、69分に交代を告げられるまで攻撃を牽引し続けた。

「僕の課題は後半にプレスやハードワークの質が落ちてしまうところだったので、そこは1年をかけて向き合ってきました」

 自分の課題に向き合う上で大事にしたのは、年代別日本代表活動を経て得た『基準』だった。これまで年代別日本代表とは無縁だったが、今年に入ってU-22日本代表として7月のウズベキスタン遠征、9月のAFC U23アジアカップ予選(ミャンマー)に参加をして経験を積んだ。

「例えばサウジアラビアなどと試合した時に感じたのは、裏抜けをしたり、相手より一歩前に出ることができたシーンだったりで、大学サッカーだったらスピードをマックスまで持っていかなくても、ゴール前まで持っていけたのですが、国際大会では抜け出せた瞬間にフルでスピードを上げないと、すぐに身体を入れられたり、足を出されたり、防がれてしまうシーンが多かったということです。もう自分がオンになったらスピードを緩めずに、一気に加速してそのままゴールに持っていかないとゴールに到達しないので、そこは大学に戻っても常に意識をするようになりました。あとは球際も足先で行ったら交わされるし、ボールに触れられても持っていかれてしまう。もう身体を投げ出すくらいまで迫力を持っていかないと奪えない感覚は、ずっと大事にしています」

 側から見てもこの1年間で驚くほどの成長曲線を描いた。何よりンワディケは自分の成長の実感はもちろんのこと、サッカーを思い切りできていることに大きな喜びを抱いていた。

 実はFC東京U-15深川に所属していた中学3年生の時に大腿骨頭すべり症が判明し、そこから2年間思うようにサッカーができなかった。U-18に昇格できず、進学した修徳高でも最初の1年半はリハビリの日々が続き、高校2年生からようやくプレーできるようになった。だが、2年のブランクは大きく、そこから成長を遂げたが、大学経由でプロを目指すことになった。

 桐蔭横浜大では身体作りとより考えてプレーすることを徹底して叩き込まれたことで、2年生になってその才能が一気に開花の時を迎えた。

「いま、本当にサッカーが楽しい。中学、高校の時はやりたくてもできなかったり、思い切り走りたくても走れなかったりしたことが多かったので、今は自分がイメージしている通りに体が動くので、本当にプレーしていて楽しいですね」

 この言葉に重みがある。苦しくて悩む中でも、大好きなサッカーへの情熱は灯し続け、周りのサポートを受けながら自分を信じてきたからこそ掴んだ今。感謝の気持ちを抱きながら、「もっと、もっと」と自分を磨いている。

「プレスの掛け方とか、前進させない守備の課題により向き合えるようになってきて、ゴールパターンも増えてきました。だからこそ、ここからもっと自分にベクトルを向けて力を磨いていきたい。2トップを組んでいる相方の動きを見て、それに合わせて自分は後出しで正しい位置に入るというところなど、考えながらプレーする質をもっと上げて、いずれかは『考えなくても本能で正しい位置に動ける』自分を思い描いています」

 そのポテンシャル、底知れぬ。無限の可能性を秘めた大型ストライカーから目が離せない。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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