Jリーガーの兄と「ずっと比べ続けられた」 プロ内定も…「自分が決まったから良いというのではない」

IPU環太平洋大学の松岡響祈【写真:安藤隆人 】
IPU環太平洋大学の松岡響祈【写真:安藤隆人 】

IPU環太平洋大学の3年生ボランチ・松岡響祈

 大学サッカー界の年内最後の試合となる第74回全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)が開幕した。今年は全国7地域のリーグ戦で上位となったチームが12月8日に一発勝負のプレーオフを戦い、勝者が関東王者の筑波大学、九州王者の福岡大学、関西王者の関西学院大学、東海王者の東海学園大学がいるそれぞれのリーグに入って決勝ラウンドへ。敗者が強化ラウンドとなるリーグ戦に移行するという方式で覇権を争う。

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 ここではインカレで輝いた選手たちの物語を描いていく。今回は強化ラウンドに進んだIPU環太平洋大学の3年生ボランチ・松岡響祈。ずっと追いかけている背中は今も憧れで、最大のライバル。彼の心の内に迫った。

「ずっと出たくて仕方がなかった舞台。2年生まで掴めなくて、ようやく掴んだ舞台だからこそ、自分のプレーを発揮したかった。今、改めて自分の力不足を痛感したというか、もっと何かできたんじゃないか、こんなプレーで良かったのか。精神的にも支柱にならないといけないのに、自分がぶれてしまって、みんなに余計な不安を与えてしまったのかもしれない。今は自問自答ばかりしています」

 強化ラウンド2日目の富士大戦では、48分に決勝弾を叩き込んで今大会初勝利をチームにもたらした。だが、プレーオフにおいて日本体育大に2-3で敗れたこと、強化ラウンド初戦で京都産業大に0-3の完敗を喫したこともあり、松岡の表情は曇ったまま、このような言葉となって現れた。それだけ彼にとってこの舞台はずっと欲していた貴重な舞台で、ここに懸ける思いは人一倍強かった。

「やっぱり関東や関西と比べるのはもちろん、九州や東海と比べても中国地区はあまり注目をされない。だからこそ、僕ら中国地区の選手はデンソーチャレンジカップ(以下・デンチャレ)や総理大臣杯、インカレでアピールしないとプロのスカウトや周りになかなか見てもらえないんです」

 IPU環太平洋大は岡山県にあり、中国大学サッカーリーグ1部に所属している。その中で松岡はすでに2027年シーズンからサガン鳥栖入りを内定させている。

「自分が決まったから良いというのではなく、チームメイトにもっと見てもらいたい選手がたくさんいる。内定したことで、例年よりも見てもらう回数というのは増えたと思うし、価値も少しずつ上がってきていると思う。だからこそ、簡単には出られないこういう舞台で自分が力を発揮してチームを勝たせないと、注目度は上がらない。だからこそ、もっとできたんじゃないかという自問自答が強いんです」

 責任感、自覚、そして価値の認識。松岡は本当に多くのものを背負って、IPUでコツコツと努力を積み重ねてきた。だからこそ、彼はプロ内定を掴むことができたとも言える。

 出身は熊本県で九州の強豪であるソレッソ熊本U-15からサガン鳥栖U-18に進んだ。これは3歳上の兄である松岡大起(アビスパ福岡)が歩んできたラインだ。同じボランチとしてプレーする兄の背中をずっと追いかけてきたが、大起はクラブ史上初の高校3年生でトップ昇格を果たし、その年にすでにJ1リーグで23試合に出場するなど、「鳥栖期待の星」として躍動を続けた。

 一方で響祈は高校3年生の時に兄もなし得なかった高円宮杯プレミアリーグファイナルを制してユース年代日本一に輝いたが、トップ昇格は叶わず。

「ポジションが同じなのでずっと比べ続けられましたが、常に『絶対に負けない』という気持ちがあったので、トップに上がれなくても、『大学在学中にプロになる』という目標にすぐ切り替えて、前を向くことができたと思います」

 大学進学の際も関西1部リーグの大学から声がかかっていたが、「1年から活躍をして主軸になって、デンチャレで中国選抜として出場してスカウトに見てもらう」と、確固たるビジョンを持ち、誘いを断って中国地区のIPUを自ら選んだ。

 実際にその言葉通りになり、今年のデンチャレにはU-20全日本大学選抜に中国地区で唯一選ばれた。そして、古巣の鳥栖の練習に3度参加をし、9月の3回目の練習参加後に正式オファーが届いた。

「1回目行かせてもらった時は、あんまり自分を出せなかった。ありがたく2回目に呼んでいただいた時は『やってやるぞ』という気持ちで、自分のプレーにも手応えを感じたので、『これはオファーもらえるかも』と思ったのですが、引き続き様子を見たいとなり、悔しさもありました。でも、3回目のチャンスも頂いたので、『ここで絶対に掴み取ってやる』という気持ちで挑みました」

 大分トリニータとのトレーニングマッチでボランチとして攻撃のリズムを作り、自分らしさを発揮したことで、正式オファーを掴み取ることができた。その上で臨んだインカレは、強化ラウンド最終戦で新潟医療福祉大に1-1の引き分けてのグループ3位で幕を閉じた。

「来季のことはまだ分からないですが、僕の中では大学と鳥栖の2足の草鞋を履きながらも、鳥栖で出番を掴みたいし、欠かせない存在になりたいと思っています。それくらいの気持ちでやらないと鳥栖のためにも、自分のためにもならないと思っています」

 有言実行をしたからこそ、それをより正解にしていくためにも、ここで自己研鑽の手と鳥栖への熱い思いを弱めてはいけない。最後に松岡はこう意思を口にした。

「かつて兄が袖を通したトップのユニフォームに袖を通せるまでには辿り着きましたが、まだまだ兄には勝てていない。僕にとって兄はやっぱり憧れであり、目標であり、絶対に負けたくないライバルでありますが、兄の背中を追うのではなく、追い越せるように地に足をつけて努力をしていきたいと思います。それに他の古巣に戻りたい大学生の人たちにも伝えたいのですが、ひたすらに思いを前面に出して必死にやり続けていれば、見ている人は必ずいる。でも、ただ『ユース出身の子だから』と見ているので終わるのか、そんなの関係なく『戻って来て欲しい』と思ってもらえるかは、全ては自分次第だと思います」

 望めば叶う。ただし、本気で強く思い続けないと叶わない。彼の姿勢から大事なことを学ぶことができた。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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