プロ内定なしも「Jリーグは狙い続けたい」 脳震盪で引退した先輩の分まで「僕がやらないと」

国士舘大学の4年生MF須藤太一
大学サッカー界の年内最後の試合となる第74回全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)が開幕した。今年は全国7地域のリーグ戦で上位となったチームが12月8日に一発勝負のプレーオフを戦い、勝者が関東王者の筑波大学、九州王者の福岡大学、関西王者の関西学院大学、東海王者の東海学園大学がいるそれぞれのリーグに入って決勝ラウンドへ。敗者が強化ラウンドとなるリーグ戦に移行するという方式で覇権を争う。
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ここではインカレで輝いた選手たちの物語を描いていく。第17回はベスト4進出を果たした国士舘大学の4年生MF須藤太一について。阪南大との準々決勝でスタートは右サイドハーフで鋭い縦突破を見せ、後半途中からは左サイドハーフとしてカットインや献身的な守備を見せた彼が大切にしている先輩の言葉とは――。
「この大会に懸ける思いは人一倍強いと思います。今の僕にはこの大会しかないので」
抜群のスピードとボールコントロールを持ち、素早いボディシェイプから縦に中に一気にドリブルで持ち込んでチャンスを作り出すサイドアタッカーは、この大会が大学最後となるが進路はまだ決まっていない。
「Jリーグでプレーしたいとずっと思っていますが、まだ具体的な話はないからこそ、この大会で結果を出して掴み取りたい。仮に掴めなくても、サッカーは続けるつもりですし、常にJリーグは狙い続けていきたいと思っています」
大学2年時に関東大学サッカーリーグでデビューを果たしたが、出場は2試合に留まった。昨年はリーグ前期こそコンスタントにスタメン出場を果たしたが、後期はベンチスタートが増え、終盤はわずかな出場時間しか掴めなかった。
最終学年となった今年はスタメン出場が増え、右サイドをメインにアジリティとスピード溢れる突破などを見せて、リーグ2位の原動力となるも、厳しい現実を突きつけられている。
だが、「最後の最後まで絶対に諦めない」という気持ちを持てているのは、これまで自分がサッカーを続ける上で支えてくれた家族をはじめ、関わってくれたスタッフへの思いと、もう1つ、三菱養和SCユースと国士舘大で1学年上の先輩である影山秀人への想いもあった。
「物凄く仲がいいんです。ピッチ外では本当に優しくて、物凄く人思いの先輩なのですが、ピッチに立つと物凄く厳しい要求や的確な言葉をくれるんです。この厳しさは僕に期待をしてくれている証拠だと受け止めていたので、僕もそれに応えたいと一生懸命食らいついてプレーすることができた。だからこそ、秀人さんがサッカーができなくなったと聞いたときは本当にショックでした」
影山は昨年の3月に練習中にシュートブロックに入った際に、顔面にボールが当たって脳震盪を起こした。短期間に2度、脳に衝撃を受けることで起こる「セカンドインパクト症候群」と診断され、これ以上フィジカルコンタクトの激しい競技サッカーを続けていくのは困難と判断し、大学ラストイヤーを待たずして、現役生活に幕を閉じたのだった。
「秀人さんが倒れた時も一緒にいて、本当に心配で仕方がなかったし、あれだけ努力家で他人のことを思いやれる人なのに、不本意な形でサッカーを辞めざるを得なくなってしまったことは本当に『なぜ秀人さんが…』と思いました。いま自分が過ごしている日常が当たり前じゃないとも思ったし、秀人さんの分も後輩である僕がやらないといけないと強く思いました」
現在は起業家としても、来季から東京都1部リーグを戦うシュワーボ東京の執行役員としても活動をしている影山は、進路が決まらず苦しんでいる須藤の相談に乗ってくれているという。
インカレを迎える際にも、「どうしても焦る気持ちは分かるけど、お前は頑張れる人間なのは分かっているから、もっと楽しんで気楽にやればいいよ」とアドバイスをもらい、「ずっとこの言葉が僕の中でも心の支えになっています」と、雑念を入れずに自分を信じて精一杯プレーすることを誓えた。
「サッカーを不本意な形でやれなくなっても、それを受け入れて前に進んでいる秀人くんの言葉は本当に心の底まで届いたので、僕はどんなことがあっても折れずにやるだけです」
決勝ラウンド初戦の福岡大学戦は残り7分での出場に留まり、第2戦の日本体育大学戦では出場のチャンスは巡ってこなかったが、彼の闘争心は衰えるどころかチャンスに備えてより燃え上がっていた。
そして、勝たなければ大学ラストゲームとなってしまう重要な第3戦の日本大学戦でスタメンのチャンスが巡ってきた。
これまでの思いを爆発させるかのように立ち上がりから前への推進力を存分に発揮すると、0-0で迎えた20分にゴール前の混戦からのこぼれを執念で蹴り込んで先制点をマーク。2-0で迎えた40分には左からのクロスをニアに飛び込んでヘッドでファーサイドに走り込んだDF川原颯斗に繋いで、試合を決定づける3点目のアシストをマーク。
1ゴール1アシストと見事に重要な一戦での起用に結果で応え、前述したとおり阪南大との準々決勝でもスタメンの座をつかみ、左右のサイドハーフとして延長後半2分まで献身的な守備と積極的な仕掛けでリズムを作り続けた。
「まだ僕は何も手にしたわけではないですし、この仲間たちと1試合でも多く試合がしたいですし、優勝する姿を秀人さんにも観てもらいたいので、最後まで強い気持ちを持って戦い抜きたいと思います」
次なる相手は明治大を撃破した総理大臣杯準優勝の関西学院大学。相手にとって不足はない。
「力んでも何も始まらないので、出番がきたら全力を尽くす。仮にベンチでも準備を怠らないで臨んでいきたいです」
機運は高まった。これまで通り自分を信じて、どんな結果になっても受け入れて前に進むのみ。須藤はあふれる思いを胸に、自分らしく次なる戦いに臨む。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。



















