出れない選手への説明「現実的には難しい」 金明輝監督が実施した”言わないマネジメント”

金明輝は福岡就任1年目で12位フィニッシュ
2025年のJ1タイトル争いは鹿島アントラーズと柏レイソルの一騎打ちの構図となり、最終的に鹿島がタイトルを獲得した。アビスパ福岡はラスト6試合で3勝2分1敗と尻上がりに調子を上げる形となり、2026年に弾みをつけたと言っていい。福岡で1年目のシーズンを12位で終えた金明輝監督に来季の目標を聞いた。(取材・文=元川悦子/全7回の第6回目)
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ご存じの通り、2026年はシーズン移行の節目の年。前半戦は明治安田Jリーグ百年構想リーグに挑むことになる。これは2月7日~5月24日の地域リーグラウンド、その後のプレーオフラウンドという二段階の構成になっていて、最終順位が決定する仕組み。優勝すればAFCチャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)の出場権を手にできるという意味で、1つのモチベーションになるはずだ。
「降格がないということで、我々にとっては新たに何かを獲得するチャンスだと思っています。その中でも勝つというところはしっかり念頭に置いて、チーム作りをしていかなければいけない。『降格がないから半年間、負けまくっていい』ということは絶対にないので、勝てるチームを作るのが最優先です」と金明輝監督は語気を強める。
サッカーの内容をブラッシュアップさせていくのも当然のこと。シーズン通して強調していた「相手コートでサッカーする」という部分を突き詰めて、攻守両面でよりアグレッシブなチームにしていくことが肝心だろう。
「相手コートでサッカーをしようと思うなら、高い位置で奪って前に入れられれば一番いい。ボール保持をするにしてもまずは敵の背後を突く意識を持つことが重要です。もちろん何でも蹴りまくればいいということではなくて、ボール保持もできるし、カウンターもできる、速攻も仕掛けられるという具合に何でもできるのが僕の理想なんです。
そのためにも、GKを含めて全員にベースの技術が必要。そのうえで、1人1人が自立したプレーヤーにならなければいけない。僕が選手に極めて難しいことを求めているのは間違いないですよね(苦笑)。そのうえで勝ちにこだわることを忘れてはいけない。勝利を追求しないチームはチームじゃないと僕は思っているんで、どんな方法でもしっかり勝つという信念を持って、突き進んでいくつもりです」と金監督は目をギラつかせた。
2026年北中米ワールドカップ終了後の8月からは26-27シーズンが開幕。夏開幕・春閉幕という新たなサイクルになる分、未知数な部分も少なくない。金監督にとっての新たなチャレンジになるはずだ。
「サッカーというのは本当に短いサイクルでトレンドが変わるスポーツ。少し前まではポゼッションが主だったところから、今は縦に速くなり、ハイプレスが主流になってきています。そういう変化を敏感に察知し、理解を深めつつ、選手にもアプローチしなければいけないと肝に銘じています」と金監督は2026年W杯も含め、最先端の戦術・トレンドにアンテナを張ることの重要性を口にする。
ただ、世界基準を追い求めるだけでなく、目の前にいる選手たちをしっかり見て、コミュニケーションを密にし、彼らの良さを引き出していくことも大切だ。それは長く育成年代に携わり、トップチームを見るようになってからも若手を大きく伸ばしてきた金監督が常に大事にしていること。2025年の福岡でも始動時に1人1人と面談し、お互いを理解し合うように努めてきたというが、そういった試みも継続していく構えだ。
「最初の個人面談に加え、シーズンに入ってからもところどころで個人的に話したり、グループで話したりということはやってきました。僕も選手だったから分かりますけど、選手というのは監督と話せたりすると精神的に落ち着くところはありますからね。
ただ、試合に出ていない選手全員に毎回、細かく理由を説明することは現実的には難しい場面もあります。一方で”逆に言わないことによるマネジメント”というのもあります。一時的に説明して納得してもらえたとしても、次の試合にまた出られなければ、不安が倍増することもあり得ますし、逆効果になりかねない。それは育成年代を教えていた時にすごく感じたことです。
子どもたちは僕ら指導者の一挙手一投足をすごく気にするんで、自分の立ち振る舞いに注意しなければいけないと常に自覚していました。今はプロの選手で自立した大人が相手なので、そこまでナーバスになる必要はありませんが、選手個々のキャラクターを見ながら、一番いい関係性を築いていくことが大事だと考えています」と金監督は言う。
さらに指揮官は、日々、支えてくれる選手たちへの思いを改めて口にした。
「どんな状況であっても不満を表に出さず、日々のトレーニングで全力を注いでくれる選手たちには、本当に頭が下がる思いです。自分の役割を理解し、チームのために力を貸してくれる――その姿勢には何度も救われました。
僕自身のマネジメントが完璧ではなかった部分もあると思いますが、それでも前を向き、最後まで必死に戦ってくれた選手たちには、感謝しかありません。彼ら一人ひとりの姿勢があったからこそ、今季を戦い抜くことができた。シーズンを通して、本当に感謝の気持ちでいっぱいです」
指導している1人1人と真摯な姿勢で向き合い、能力を引き上げ、強い組織を築き上げていければ、来季以降のタイトル獲得も見えてくるのではないか。福岡というチームはそれだけのポテンシャルを秘めている。
実際、前任の長谷部茂利監督も2023年YBCルヴァンカップを制し、クラブに初タイトルをもたらした。そのベースを金監督がさらに上積みし、毎年のようにリーグタイトル、カップ戦タイトルを争えるような強豪に引き上げていければ、福岡のサッカーは確実に盛り上がる。そういう意味で、2026年は勝負の年になるだろう。(第7回に続く)
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。



















