遅咲きの森保J戦士と無敗を誇るプロ7年目 「ここまで成長するのか」…金明輝監督が指摘する共通点

今季より福岡の監督に就任した金明輝監督
2025年J1は12位でフィニッシュしたアビスパ福岡。ご存知の通り、シーズン開幕当初、目標に掲げていた6位以内には届かなかった。それでも最低ノルマのJ1残留を果たし、クラブは金明輝監督の続投を決断した。そんな福岡で金監督が今季チームで成長した2人の選手を挙げた。(取材・文=元川悦子/全7回の第2回目)
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「我々は勝って結果を出してこそ、皆さんに認めていただき、期待に応えられる存在になれると思います。福岡というのは非常にポテンシャルのある町で、たくさんのお客さんが来てくれる可能性がある。実際、11月30日のガンバ大阪戦も1万7587人という今季最多となるお客さんが来てくださいました。
そういう方々への一番のファンサービスになるのはやはり勝利。この試合は何とか勝てましたが、シーズン通して勝ちを届けていくことが本当に大事。そういう意味では十分に応えきれなかったという自覚はあります」と今季1年間を指揮した金明輝監督は神妙な面持ちで言う。
それでも、全く成果がなかったわけではない。ジェフユナイテッド千葉で長くプレーしていた見木友哉がJ1キャリア最多となる6ゴールをマークし、金監督の鳥栖U-18時代からの教え子である松岡大起もJ1走行距離2位にランクイン。個人個人にフォーカスすれば、伸びている選手も少なくないのだ。
その代表格と言えるのが、今年、日本代表デビューした安藤智哉だろう。ご存知の通り、安藤は愛知学院大学から2021年にJリーグ入りした選手。最初のクラブは当時J3・FC今治だった。そこで2年を過ごし、2023年にJ2・大分トリニータに個人昇格。そこでも2年プレーし、今季最高峰リーグに初参戦したのだ。
「安藤に関して言うと、実は獲得した時点では『完全な主力』というわけではありませんでした。大分時代も随所に良さはありましたが、プレーに波があるという見方もあったからです。DFというのは、10回中9回いいプレーをしても、1回ミスをしてしまえば、それが致命傷になりかねない。FWとは全く逆の評価基準がある。僕自身も現役時代はDFでしたから、その厳しさを身に染みて分かっていました。
実際、アビスパに来てからも、2月22日の第2節・ガンバ大阪戦で、彼の周辺のエリアを相手にうまく崩される場面もあり、結果として失点につながってしまうシーンもありました。ただ、その現実を本人は真摯に受け止めて、課題を克服しようと粘り強く取り組んでいました。あの謙虚さや集中力は安藤の素晴らしい持ち味なんです。
僕は監督ですから、選手たちの伸ばせる部分や改善点は、しっかり言葉にして伝えるようにしています。それは時に選手にとっては耳の痛い話になることもあると思いますが、彼は真っ直ぐに受け止める。トレーニングに対しても貪欲で身体もシャープに動くようになっていったし、今季始動時と今では”別人のように成長した”。自信が選手を大きく変えるんでしょうけど、そういう印象を受けています」と指揮官は絶賛する。
191センチの長身というだけでも魅力的ではあるが、安藤はそれを生かして今季J1で4ゴールという数字も残している。守備で体を張り、攻撃にも参加し、ゴールも奪うのだから、日本代表の森保一監督が見逃すはずがない。7月のE-1選手権(龍仁)・香港戦で初キャップを飾り、欧州組トップ選手が参戦した9月以降もコンスタントに呼ばれ、2026年北中米ワールドカップに手をかける手前まで来ているのだ。
となれば、2026年は次のステップに進む可能性が大きい。かなり前から欧州移籍の噂があったが、そうなることも十分に考えられる。
「我々のようなクラブの規模感を考えると、他チームから高い評価を受けてオファーが届くのはクラブにとっても本人にとってもプラスだと思っています。もし誰かが抜けることがあっても、その分若い選手や新たな選手を伸ばして戦力として成長していくチャンスにもなります。全てがマイナスではないと僕自身は考えています」と金監督は言う。
指揮官がそういう話をするのも、サガン鳥栖時代に原川力(柏)、森下龍矢(ブラックバーン)、原輝綺(名古屋)ら主力級が大量に抜けたにもかかわらず、J1優勝争いを演じた2021年シーズンの経験が大きいのだろう。“第2・第3の安藤”が攻守両面で出てくれば、来季以降の福岡はもっと上の領域にたどり着けるかもしれないのだ。
金監督がこの1年で成長を遂げた選手としてもう1人、名前を挙げたのが、福岡のアカデミー出身でプロ7年目を迎えた北島祐二。今季は負傷で何度も離脱したため、J1出場実績は11試合1ゴールと数字的には物足りない部分があるものの、彼が出場したゲームは7勝2分と無敗で推移しているのだ。
「彼はシーズン通してレギュラーではなかったんですけど、開幕3連敗から抜け出した第4節のヴィッセル神戸戦からスタメン入りし、チームの好調を支えてくれました。その後、6月の無敗時も彼が復帰したのが大きかった。その後は長期離脱を強いられましたけど、状態のいい時はレギュラーとしていいパフォーマンスを見せてくれたし、僕のフィーリングともピッタリあったかなと感じます。
北島は僕が鳥栖でU-15の指導をしていた頃、アビスパのU-15にいて、ずっと対戦相手として見てきたんで、どういう選手なのかよく分かっていた。それも大きかったと思います。昨季はなかなか力を発揮しきれない部分もあり、レンタル移籍の選択肢もありましたが、僕自身がぜひ残してほしいとお願いしましたし、期待通りの働きを見せてくれた。コンディションが整えば、もっともっと存在感を示してくれると思います」
彼を筆頭にそこまで知名度の高くない発展途上の選手をしっかり伸ばし、有効活用できるのが金監督の手腕の高さだ。長く育成年代に携わり、JFA公認S級ライセンスの再取得をするなど、自分自身を客観視する機会に恵まれたことも大きかったのだろう。
「伸びる選手に共通するのは素直さですね。『うまくなるためだったら何でもやる』『とにかく1回やってみる』という積極性が成長の原動力になる。成功体験の多い選手は感覚である程度のところまでは行けるかもしれないけど、どこかで頭打ちになる時が来る。自分の固定概念をひっくり返すような勇気も必要ですね」
金監督が名前を挙げた安藤にしても、北島にしても、”素直さ”と”勇気”を持ち合わせているからこそ、評価をグッと引き上げることができた。そういう資質を発揮できる環境を整え、伸びる選手の要素をもった人材が来季以降も福岡から次々と出てきてくれれば理想的。チームも大きく飛躍するはずだ。(3に続く)
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。




















