「みんな好きなんだ」現地で大人気の日本代表 「数字が足りない」も…課題克服で見据える北中米行き

バーミンガム・シティ戦でアシストを記録した斉藤光毅【写真:REX/アフロ】
バーミンガム・シティ戦でアシストを記録した斉藤光毅【写真:REX/アフロ】

「みんな、サイトーが好きなんだ」 英国で高まる斉藤光毅の人気

「斉藤がウイングを駆け上がり、ゴールを決めて、レンジャーズを盛り上げる」――クイーンズ・パーク・レンジャーズ(QPR)のファンが、斉藤光毅を称えるチャントの一節だ。

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 12月9日のチャンピオンシップ(2部)第20節、ホームでのバーミンガム・シティ戦でのこと。クラブ職員から、所属の日本人選手について話し掛けられることは多々あるが、応援歌の歌詞まで教えられたのは初めてだった。

 筆者にとっては、今季初のQPR戦取材。メディア控え室に入ると、以前から顔見知りのスタッフが、「サイトー、凄い人気だよ」と声を掛けてきた。「チャント、聞いたことあるか?」と訊くので、「名前を連呼するやつは聞いたことがある」と答えると、「もっと本格的なチャントがある」と言い、通り掛った別のスタッフに「おい、歌詞覚えてるか?」と話を振った。すると、クラブ公報カメラマンと思しき彼が口ずさんでくれた。「ウチの子供に教え込まれた(苦笑)。みんな、サイトーが好きなんだ」と、言いながら。

 ベルギーのロンメルSCから期限付き移籍中だった昨季も、斉藤がスピードとテクニックを駆使したドリブルに入れば、ホームの観衆は沸いていた。今季の人気は、その上をいく。8月後半に完全移籍が決まり、2度目のQPRデビュー戦となった第4節チャールトン戦(8月30日/3-1)の後半、1-1と追いつかれた数分後にベンチを出たロンドンダービーで、独走ゴールを披露した衝撃も手伝っているのだろう。ジュリアン・ステファン新体制下のチームが、1引分け2敗で迎えたホームゲームで、今季初勝利への勢いを与える勝ち越しゴールでもあった。

 同節の翌日、犬の散歩仲間でもあるQPRファンの隣人に出くわすと、「“サイトーさん”のゴール、見た?」と、シーズンチケットを持つ彼。試合当日の筆者は、同じ西ロンドンだがチェルシー戦の会場にいた。QPR戦は、まだハイライト映像も見ていなかった。すると、一夜明けても興奮冷めやらぬ口調で、得点シーンを説明してくれたのだった。センターサークル内からドリブルで中央を走り抜け、1人かわしてボックス内に入ると、綺麗に左足でゴール右下隅に決めたのだと。「あのゴールだけでも、獲ったかいがあった!」と、喜んでいた。

絶好のクロスで数字を残したバーミンガム戦

 ただし、そのひと月半ほど前の時点では、同じ隣人が「数字が足りない」と言っていた選手が斉藤でもある。ファンの間には、チームの攻撃にクオリティを追加できる戦力として獲得を望む意見と同時に、前線の主戦力となるには、結果につながる仕事が怪しいという声もあったのだ。人気者と実力者は、別物。所属1年目の昨季は、リーグ戦39試合出場で3ゴール2アシストに留まっていた。

 その意味でも、今季11度目のリーグ戦先発となったバーミンガム戦での79分間は、意義ある勝利(2-1)への貢献となった。QPRが、後半アディショナルタイムに追いつかれ、土壇場で勝ち越すという終了間際のドラマに関わってはいない。しかし、ボール支配に勝る相手との一戦で流れを引き寄せたのは、斉藤が今季2アシスト目を記録した前半40分の先制点だった。

 コーナーキックの流れから、斉藤がファーサイドへと放り込んだ、「合わせてください!」と言うかのような絶好のクロス。CBで主将のジミー・ダンが、ヘディングで応えた。

「アシストとかゴールという結果を、本当に残したかったので、ずっと。だから、凄く嬉しかったですね。ああいうクロスが増えていけば、自分の評価も上がってくると思うので」

 そう試合後に話してくれた斉藤は、きっかけとなったコーナーの獲得にも寄与していた。左アウトサイドで、敵のプレッシャーに耐えてボールをキープした結果としての1本だったのだ。距離を詰めてきた相手選手には、2ボランチの一角で先発していた岩田智輝もいた。

「めっちゃ強くて、チャンピオンシップの中でもめっちゃ強い感じだと思うので、凄くやりづらかったですけど、負けたくないし、そこは勝っていかなきゃいけないと思うので、そういうなかで結果を残せるように、もっとやっていきたいなと思います」と斉藤。

 だが、後半には右SBに回ってマッチアップも増えた岩田も、斉藤について次のように言っている。

「ボールの隠し方だったり、上手いなと思いました。賢いなって。ファウルのもらい方だったり、そういう賢いプレーで、サイドでも時間を作れる選手だなと思いましたね。1点目のアシストはす凄くいいボールでしたし、あのクロスでちょっとゲームが苦しくなったっていうのはあるので、そういう部分でも上手かったと思います」

 この日の岩田は、フル出場のなかで3つのポジションをこなして万能性も発揮していたのだが、今季の斉藤も、左右のウイングに加えてトップ下でも新監督に試されてきている。

「いろいろなポジションの中でも、自分がこういうプレーヤーだと思ってもらえたり、自分で確信を持つことができれば、どこのポジションでも同じ(レベルの)プレーはできると思うので、そこは意識していきたい」

 そう語る斉藤にとって、新体制下のQPRは好ましい環境と理解できる。マルティ・シフエンテス前監督(現レスター/2部)時代との目に見える違いは、攻守におけるインテンシティの高さだが、同じポゼッション志向ではあっても、縦に速い攻撃や、選手のリスクテイクも奨励するステファンは、集団を重んじながら「個」を輝かせることのできる監督でもある。斉藤は、在籍2年目のQPRを「別のチーム」とまで表現している。

「まず、戦術とかサッカー自体が全然違う。あと、チームの雰囲気も。なんか別のチームになった感じはありますね。そのなかで、途中から出たり、先発になったり、まだ自分の役割が確立し切れていない感じなので、そこを確立すれば、もう全部、自分がしたいプレーだったり、思うようなプレーができると思う。そこはしっかり狙わないといけないですし、そうならないといけない」

進化して結果を残しW杯のメンバー入りへ

 斉藤も感じている前向きな変化には、昨年1月に就任したクリスティアン・ヌーリーCEOの色が強まっている影響もあるに違いない。まだ24歳だが欧州5年目の斉藤は、先見の明のある補強で若いタレントを使いながら育て、健全で長期的な成功をもたらす経営を目指す、クラブの方針に即した戦力だと言える。

 自身もまだ20代で、ベンチコートを着ているとチームスタッフと見間違う同CEOが、「非常に優れた選手。ウチにいてくれてとても嬉しいよ」と言いながら、囲み取材に応じる斉藤の背後を通り過ぎっていったのは、QPRでの2年目に目標として意識している数字を尋ねていた最中だった。斉藤は、こう答えている。

「あると言えばありますけど、意識しすぎて焦り出しちゃったりもするので、そこは作りすぎないようにしなきゃなと思い始めたところです。本当に目の前の試合で、やることをやっていれば結果はついてくるという感じで思いたい。だから今は、目の前のことを1つ1つやっていきたい」

 試合を通して改善していくべき部分もある。極上の1本でゴールを演出したクロスにしても、前半早々にクリアボールを拾って放った最初の1本は、距離も高さも足りずに難なくクリアされていた。終盤の交代間際は「むちゃくちゃキツかったです」と苦笑していたウインガーには、より高いインテンシティを求められるピッチ上で、90分間仕事をする体力と集中力も必要だ。

 そうした2年目の精進の先には、2026年W杯がある。もちろん、今年10月に日本代表デビューを果たしたばかりの当人も意識している。

「オランダとチュニジア、どこと当たっても難しいってなると思うんですけど、多分、向こうからしたら日本が一番難しいと思っているとも思うので、そこは自信を持ってやれればいいかなと思うし、まずは自分が選ばれなきゃ、こんなこと言っていられないので、しっかりと結果を残して選ばれて、そこから(さらに)結果を残せば世界が変わると思うので、本当に狙っていきたいと思います」

 そのためにも、所属クラブの人気者から主戦力へ。チームは、団子状態のリーグでバーミンガムとの中位対決に勝ち、6位に浮上した。下馬評以上の昇格プレーオフ出場圏(3〜6位)争いを期待させる今季QPRで、斉藤自身の進化も注目される。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)



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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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