低調なプレーに…想像もできなかったリーグ制覇 新監督が引き出した“常勝軍団の姿”

今年の鹿島を評すれば、決して芸術的な集団といった華麗さはなかった
J1リーグ開幕を2週間後に控えた2月1日、鹿島アントラーズは毎年恒例となった水戸ホーリーホックとのプレシーズンマッチに臨んだ。正直に言えば1-1のスコア以上に、低調なプレー内容に終わったこの日の鹿島からは、シーズンの最後に歓喜のリーグ制覇を成し遂げるとは想像もできなかった。(文=徳原隆元)
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だが、いま振り返ってみればこの試合はあくまでも、選手の組み合わせや連携を試していたテストに過ぎなかったのだ。実際、鹿島は試合を重ねるごとに連携を深め、戦える集団へと進歩していきタイトル獲得へと到達したのだった。
それでもリーグ制覇へと結実するまでの道のりは、決して平坦なものではなかった。勝敗がどちらに転んでもおかしくない際どい試合をなんとかモノにしていく、綱渡りの連続であった。そこで9年ぶりに手にしたリーグ優勝へのストーリーを紡ぐなかで、躍進へのターニングポイントとなった試合をここに挙げ、鹿島の成長を振り返ってみる。
まず、かつての勝負強い鹿島らしさを垣間見せたのが、第11節のファジアーノ岡山との一戦だ。直近の試合で3連敗を喫して迎えたこのアウェー戦で、鹿島は前半に得たPKのチャンスを決められず、さらに先制点を許す苦しい展開を強いられることになる。
ここで鹿島はJリーグ発足の初年度から、日本サッカーを牽引してきたクラブとしての意地を見せ、後半に2得点を奪い逆転勝利を挙げる。J1初登場で選手、サポーターともに士気が上がる岡山をまさに力でねじ伏せた、逞しさを感じさせる内容の勝利だった。
リーグは夏場へと突入し、鹿島は7月20日の第24節で最後まで優勝の座を争うことになる柏レイソルをホームに迎える。試合後、敗れた柏のリカルド・ロドリゲス監督が、スタンドのサポーターへと挨拶に向かった選手たちと、そこに陣取る12番目の仲間たちに向かって、ひとつの敗戦くらいで落ち込んでどうするんだ、と言うように激しく鼓舞する感動的な姿がハイライトとなった試合だ。
しかし、翻って鹿島側から見れば2-0から同点とされ、さらに終盤にPKを与える絶体絶命のピンチを迎えながらも、それを乗り越えて後半アディショナルタイムに決勝点をもぎ取った勝利は、チームに勝負強さが身に付いてきていることを証明する90分となった。
リーグ優勝の行方も絞られてきた、終盤に突入した第31節のセレッソ大阪戦では、チームの完成度の高さを印象付けるサッカーをピッチに描いて見せる。お互いに相手の選手がボールを持ったときの寄せの強さとスピードで、鹿島はC大阪に対して圧倒的な違いを見せる。激しいボール奪取を前面に出すスタイルによる3-1の完勝劇は、ヴィッセル神戸やサンフレッチェ広島、町田ゼルビアといった、ここ数年でJリーグの主役となっているチームの、まずは相手にサッカーを自由にやらせないというスタイルを鹿島も実践する能力があることを知らしめた。
そして、鹿島の成長をもっとも感じさせたのが第37節の対東京ヴェルディ戦である。昨年の同じアウェー戦での敗戦(1-2)と比較して、選手たちの精神面における充実ぶりが伝わってくる試合となった。2024年の同カードでの鹿島は東京Vの激しい守備に手を焼き、思い通りにいかない展開に選手たちは苛立ちを露わにし、集中力を失って自滅している。見るべきものがない敗戦という、厳しい現実を突き付けられる結果となった。
今年の試合も全体を通して鹿島は昨年と同じく、東京Vのアグレッシブなマークに突破口をなかなか開けなかった。さらに攻撃に転じた際のボールをつなぐ技術のうまさでも鹿島は東京Vに遅れをとる。必然的に攻撃の流れは停滞し、決定的なチャンスを作れない時間帯が続いた。
しかし、鹿島は辛抱強く、東京Vと同じくフィジカルを武器に局地戦で激しいつばぜり合いを演じ、ついに後半29分にゴールをこじ開けて勝利する。このゲームをコントロールできない状況でも、根負けすることなく勝利へと結び付けたサッカーは、鹿島の選手たちの精神面での大きな成長を表していたと言える。
こうして最終節にも勝利し、リーグ優勝を果たした鹿島だが、1年間さまざまなスタッフたちと会話を交わしていくなかで感じたことがある。それは鬼木達監督が選手たちをフラットな目線で評価し続けていたということだ。そうした姿勢はすべての指導者が持っている心構えだろうが、鬼木監督は特にこの鹿島で強く示していたように思われた。たとえエース級の選手でも例外とせず、誰に対してもレギュラーを保証していないように見えた。
この指揮官の毅然とした決意は、リーグ優勝という最大の結果が示すように選手との関係でプラスに作用し、勝利を目指すうえで建設的な調和の萌芽になったようだ。選手たちの競争心に火が付き、試合に出たときの爆発力を生んだ。苦しい展開に追い込まれても、彼らは勝利への渇望に支えられた力強いプレーで結果を出していった。
今年の鹿島を評すれば、決して芸術的な集団といった華麗さはなかった。逆境に直面しても真正面から立ち向かう、勝負強い強者の集合体という言葉が符合するだろうか。
小手先のうまさなど必要とせず、ただひたすらに勝利を目指す。このスタイルこそが常勝軍団と謡われたかつての鹿島の姿なのだ。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。





















