北中米W杯賞金は“負担”に見合わない? 32強敗退では赤字か…巨大で複雑化した大会の弊害

北中米W杯の大会賞金を考察【写真:ロイター】
北中米W杯の大会賞金を考察【写真:ロイター】

賞金総額は8億9600万ドル(約1299億円)

 2026年に開催される北中米ワールドカップの抽選会が現地時間12月5日、アメリカのワシントンで行われた。まだ正式な金額は発表されていないものの、過去大会を参照に今大会の賞金について注目する。

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 知り合いの海外の記者から「今度のワールドカップはこれまでよりもはるかに金がかかるぞ」と連絡が来た。報道陣についての話ではない。どうやら出場チームにこれまで以上の負担がかかるということだ。

 というのも、取材を進めると、FIFAが各国のサッカー協会に対して、これまでとは異なる要求を突きつけているということなのだ。今回は出場各国に対し、ベースキャンプ地となるトレーニング場の費用などの負担を求めているというのだ。

 一方で、今回はこれまでと桁違いの賞金が用意されている。もしかするとその賞金で費用を賄うようにするというのが、大会の設計かもしれない。確かにサッカービジネスの桁は変わった。

 その例が2025年に開催された新フォーマットのクラブワールドカップだった。賞金総額は約10億ドル(約1450億円)。優勝クラブには最大で約180億円近くが転がり込むという、以前では考えられないマネーゲームが展開された。

 その大きな潮流は2026年アメリカ・カナダ・メキシコワールドカップにも流れ込んでいる。史上最大規模となる48か国が出場するこの大会、国際サッカー連盟(FIFA)が用意した賞金総額は、8億9600万ドル(約1299億円)。2022年カタール大会の総額が4億4000万ドルだったことを考えれば、実に2倍以上に膨れ上がっている。

 従来、ワールドカップではFIFAが移動費や滞在費の多くをカバーし、協会側は利益を持ち帰るのが通例だった。しかし、大会規模の拡大と世界的なインフレ、そして3か国共催によるロジスティクスの複雑化は、FIFAの財布の紐さえも引き締めさせたのかもしれない。「賞金は倍にする。だが、経費も自分たちで払ってくれ」。そんなビジネスライクな通達が聞こえてきそうだ。だからこそ、日本サッカー協会(JFA)、そして日本代表にとっては、これまで以上に「勝ち上がること」が、名誉だけでなく、実利として死活問題になってくる。

 では、実際に日本代表が目標とする「ベスト8」、そしてその先の「未踏の地」へ進んだ場合、どれほどの賞金が手に入るのか。2025年クラブワールドカップの配分比率や、賞金総額の倍増率(約2.03倍)を基に、2026年大会の「獲得賞金」を試算してみた(※1ドル=145円で換算)。

 まず、基準となる2022年カタール大会の数字をおさらいしておこう。ベスト16で敗退した日本が手にしたのは1300万ドル(当時のレートとは異なるが、今回の換算では約18億8500万円)。優勝したアルゼンチンは4200万ドル(約60億9000万円)だった。

 2026年、総額が約2倍になったとはいえ、参加国は32から48へと1.5倍に増えている。単純に全ての賞金が2倍になるわけではないが、2025年クラブワールドカップが示した「勝者総取り」に近い傾斜配分が採用される可能性は高い。

■ベスト16進出:約26億円(推定1800万ドル)
 参加国増に伴い新設される「ラウンド32」を突破し、カタール大会と同じベスト16に到達した場合だ。参加チームが増えたことによる希釈を考慮しても、ベースアップは確実。カタール大会のベスト8(1700万ドル)並みの金額が、ベスト16の段階で手に入る計算になる。費用の持ち出しが増えたとしても、十分に黒字が見込めるラインだ。

■ベスト8進出(新しい景色):約36億円(推定2500万ドル)
 日本が長年悲願としてきたベスト8。ここに到達すれば、カタール大会の4位(2500万ドル)と同等の賞金額が見えてくる。36億円あれば、JFAが推進するユース育成や施設整備に巨大な投資ができる。まさに日本サッカーの未来を変える資金だ。

■ベスト4・準決勝進出:約58億円(推定4000万ドル)
 ここまで来れば、カタール大会の「優勝賞金」にほぼ匹敵する額になる。2025年クラブワールドカップでも準決勝進出には約30億円のボーナスが付与されていたが、国を背負うワールドカップの重みはさらにその上を行くだろう。

■決勝進出・優勝:約108億円(推定7500万ドル)以上
 夢物語と思われるかもしれないが、計算上、優勝国への賞金は日本円にして100億円の大台を突破する可能性が高い。

 目の眩むような金額が並ぶが、手放しで喜べない現実も最後に付け加えなければならない。出場国が48か国に増えたことによる弊害だ。

 アメリカ、カナダ、メキシコの3か国にまたがる広大な開催地。移動距離はカタール大会の比ではない。かつてない長距離移動と時差調整は、選手のコンディションを確実に蝕む。さらに、出場枠拡大によって実力差のあるマッチメイクが増えれば、グループリーグの強度は下がる一方で、決勝までの試合数は増える。「賞金は増えたが、選手の消耗と経費も増えた」――大会が終わった後、そんな疲弊感だけが残る可能性も否定できない。

 トレーニング場の費用負担増という厳しい現実を突きつけられ、大陸を横断する過酷な移動を強いられる2026年大会。日本代表がその「コスト」に見合うだけの「リターン(結果と賞金)」を持ち帰るためには、ピッチ外の周到な準備と、ピッチ内でのタフな躍進が不可欠になる。1300億円という巨大なパイの分け前は、強者にのみ、その権利が与えられるのだ。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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