ブラジル、ガーナ連勝の“影の立役者”「先手を取れた」 大怪我を克服…カタール知る男の価値

日本代表の谷口彰悟【写真:徳原隆元】
日本代表の谷口彰悟【写真:徳原隆元】

谷口彰悟はブラジル戦に続くフル出場で勝利に貢献

 10月のブラジル戦(東京・味スタ)で歴史的初勝利を挙げた直後の11月シリーズ。その一発目となったのが、14日のガーナ戦(豊田)だ。

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 ご存知の通り、アフリカの強国は2026年北中米ワールドカップ(W杯)出場権を獲得済み。日本は本大会で同じグループに入る可能性もある。とはいえ、9月以降の戦いを見ると、メキシコ(0-0、オークランド)、アメリカ(0-2、コロンバス)、パラグアイ(2-2、吹田)と同格、格下レベルのチームには勝てていない。ここでガーナに取りこぼすようだと、せっかくサッカー王国撃破で盛り上がった機運も低下してしまいかねない。それだけは絶対に回避しなければならなかった。

 森保一監督もブラジル戦で掴んだいい感触をそのまま11月に持ち込みたいと思ったはず。負傷離脱中の鈴木彩艶(パルマ)とこの試合を回避した鎌田大地(クリスタルパレス)のところに、早川友基(鹿島)と田中碧(リーズ)を入れた以外は同じ陣容で戦った。

「前から行こうという意識はもともとあって、相手の3バックに対してそのまま3枚でハメていこうという話はしていた。前半から相手が嫌がっているのは感じていた」と2戦連続でキャプテンマークを巻いた南野拓実が話した通り、今回の日本はスタートから前向きな守備を前面に押し出した。

 それを最終ラインもしっかりと遂行。3バック中央に陣取った谷口彰悟(シント=トロイデン)も「前線の選手が非常にプレッシャーを強度高くやってくれてたし、相手がロングボールを蹴らざるを得ない状況というのを作ってくれた。後ろもそこで頑張ってプッシュアップして、時には数的同数というか、1対1の局面もありましたけど、前線がプレッシャーかけてやってくれたおかげで、こっちも先手を取ってバトルができた。組織力というところでも上回ってたのかなと思います」と4試合ぶりの無失点に自信をのぞかせた。

 特に、エースFWアントワーヌ・セメンヨ(ボーンマス)への対応は圧巻だった。もちろん長距離移動を強いられた相手のコンディションが今一つで、本来の凄みを出しきれていなかったとはいえ、谷口は屈強な体躯を誇る相手にひるむことなく向き合い、徹底的につぶしにいったのだ。

 最も印象的だったのが、前半16分の南野の先制点につながったシーンだろう。DFからの長いボールを受けに行ったセメンヨに激しく寄せ、佐野海舟(マインツ)が挟んでボールを奪取。そこから堂安、谷口と経由し、佐野がドリブルで前進。ラストパスを送り、背番号8がゴールというスムーズな流れからゴールに至り、谷口自身も「イケる」と感じたのではないか。

「セメンヨとぶつかった感覚はやっぱり強かったし、まともに戦ったら勝てないだろうなというところで、先手先手を取りながらポジショニングやタイミングで上回っていく。でも、局面局面はガチンコバトルもあったし、そこで負けないことはすごくこだわりを持ってのぞみました」と本人も語気を強めたが、2024年10月に左足首のアキレス腱断裂の重傷を負い、代表選手生命の危機に瀕した選手。そのことを忘れてしまいそうな進化を示しているのは確かだ。

カタールW杯を知るベテランがもたらす“安心感”

 正直言って、本人も不安はあっただろう。昨季のうちにピッチには戻ったものの、今季に突入後もスタートからフル稼働というわけにはいかなかった。スタメンに定着したのは9月中旬以降。融通の利くシント=トロイデンというクラブにいるからこそ、“じっくり調整”が叶ったわけだが、10月のブラジル戦の時はまだ手探り状態だったに違いない。

 それでも、ブラジル戦で渡辺剛(フェイエノールト)、鈴木淳之介(コペンハーゲン)という代表経験の乏しい2人と密に意思疎通を図り、彼らに思い切ってプレーしてくれる環境を作った。

 それはガーナ戦にしても同様だ。佐野があれだけ前向きなプレーを思い切って選択できたのも、後ろで谷口がどっしりと構えていることが大きかったに違いない。鈴木淳之介にしてもブラジル戦以上のタテへの攻め上がりを見せていたが、2022年カタールW杯を知る数少ないベテランDFがもたらす安心感というのはやはり絶大だ。

 吉田麻也(LAギャラクシー)と酒井宏樹(オークランドFC)という年長者が代表を離れ、冨安健洋が長期離脱。板倉滉(アヤックス)もケガがちでコンディションが上がり切らない中、カタール組の34歳・谷口が鋭さを増していることは、森保監督にとっても力強い材料にほかならないはずだ。

 最終的に日本は堂安律(フランクフルト)の追加点もあって、2-0で勝利。苦手なアフリカ勢を0封することに成功した。同格レベル相手の勝利ということを含めて、大きな成果を手にすることができた。谷口はブラジル・ガーナ戦連勝の“陰の立役者”と言っても過言ではないだろう。

「ただ、ガーナの戦い方を見ても、守備は最後まで前から行った方がよかったと思います。後ろは結構しんどくて、落ち着く時間を作れなかった。結果的によかったとしても、もう少し、試合巧者ぶりを出してもよかったなという思いはあります」

 谷口は反省点を口にしたが、彼はつねに細部に目を光らせ、小さな綻びも生じさせないように徹底的に突き詰めていくタイプ。母校の熊本・大津高校のスローガンである「凡事徹底」を身を持って実践している人格者でもある。だからこそ、大怪我を乗り越え、2度目のW杯行き目前まで来ることができた。あとはコンディションをもっと引き上げ、今回のアフリカ勢のみならず、世界の強豪相手に個で負けない守備、統率力、組織力を示していくことが肝要だ。

 負傷者続出のDF陣にあって、渡辺と鈴木淳之介の成長は朗報だが、それ以上に谷口の復調は意味あること。7か月後の大舞台に向けてプレーの幅を広げ、最高の状態を作り上げること。それを彼には強く求めたいものである。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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