鈴木彩艶の骨折でどうなる…日本の武器を生かす“役割” アルゼンチンを救った控えGK

日本代表GKたちの活躍にも注目だ【写真:Belga Image/アフロ & 徳原隆元】
日本代表GKたちの活躍にも注目だ【写真:Belga Image/アフロ & 徳原隆元】

日本の長所であるハイプレスを活かすための起点としてGKの果たす役割は大きい

 セリエAのパルマに所属するGK鈴木彩艶が負傷した。日本代表のガーナ、ボリビアとの2試合に欠場することになった。

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 負傷は左手薬指と舟状骨の複雑骨折。欠場期間は3か月程度と報道されているので、そのとおりなら来年3月の代表戦には復帰できるはずだ。鈴木は今や日本代表に不可欠な存在になっているだけに、骨折のニュースに心配したファンは多かったのではないか。

 ワールドカップ(W杯)で日本代表が勝ち上がるにはGKの活躍が不可欠だと思う。どんな試合でも1つや2つのピンチは訪れるものだ。勝ち上がるにつれて日本が守勢に追い込まれる試合も出てくるだろうからGKの活躍はどうしても必要になるだろう。

 失点するはずのない場面でのミスは当然避けなければならないが、失点必至のケースを救ってくれるGKが勝敗を左右することは少なくない。

 1990年W杯でアルゼンチン代表が決勝まで進めたのはGKセルヒオ・ゴイコチェアのおかげだった。満身創痍だったディエゴ・マラドーナの奮闘はあったが、準々決勝のユーゴスラビア戦と準決勝のイタリア戦はPK戦だったのだ。ゴイコチェアはPKストッパーとして知られていて、準々決勝と準決勝ではそれぞれ2本のPKを止めている。

 ただ、ゴイコチェアはアルゼンチンの第一GKではなかった。ファーストチョイスはネリー・プンピードだったのだが、グループリーグ第2戦のソビエト連邦戦で負傷したためにゴイコチェアに出番が回ってきたのだ。

 負傷で招集外となった鈴木に代わり野澤大志ブランドン(アントワープ)が追加招集されている。GKは早川友基(鹿島アントラーズ)、小久保玲央ブライアン(シント=トロイデン)、野澤の3人体制。常連だった大迫敬之(サンフレッチェ広島)は天皇杯準決勝があるため招集外になっている。

 早川はJ1で首位に立つ鹿島で傑出したプレーを続けている。小久保と野澤はパリ五輪世代。小久保はその勝負強さからSNSで「国防ブライアン」と称賛されていた。

 日本の武器はハイプレスだが、その前提として敵陣にボールがなければならない。ビルドアップで丁寧に運んで押し込む、ロングキックでとりあえず敵陣に攻め込む、いずれにしてもGKの果たす役割は大きい。

 相手がマンツーマンでハイプレスしてくる場合、GKはキーマンになる。フィールドプレーヤー10人を10人でマークすることはできるが、攻撃側にはGKがプラス1人として数的優位を作れるからだ。ビルドアップでGKを経由させることで数的優位を活かせる。

 例えば、CBがGKにバックパスする。CBをマークしていた相手がボールを追ってGKにプレスする際、CBへのパスコースを切りながら寄せていけば攻撃側の数的優位はなくなるわけだが、そこでGKしだいで数的優位を復活させられる。

 バックパスの時点でフリーになっているCBが外へ開き、新たなパスコースを作ればGKからのパスをフリーで受けられる。もし、相手が気づいてそちらのコースを切れば、GKは正面のMFにパス。MFはマークされているが、ワンタッチでフリーのCBにパスすればCBはフリーでプレーできる。

 相手がGKへのプレスをしなければ10人のフィールドプレーヤーすべてをマークできるが、GKがフリーなので余裕をもってフィードできる。

 いずれにしても、マンマークのプレスを外すためにはGKが関与する必要があり、日本の長所であるハイプレスを活かすための起点としてGKの果たす役割は大きい。今回は代表経験の少ないGKになるが、自信を持って的確にプレーすることが求められる。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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