岡崎慎司「僕の言葉で辞めるかも」 指導者目線で感じる「プロになりたい」のギャップ…伝えたい“危機感”

バサラマインツで監督を務める岡崎慎司【写真:産経新聞社】
バサラマインツで監督を務める岡崎慎司【写真:産経新聞社】

岡崎慎司は現在ドイツ6部バサラマインツで監督2年目を迎えている

「プロになるために、一生懸命頑張ります」

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 そう口にする選手は多い。プロ選手を夢見て、日々努力を重ねる子供たちは世界中にたくさんいる。でも、プロ選手になれるのは一握り中の一握り。そして実際にプロ選手となるだけではなく、長く選手生活をつづけ、トップリーグで活躍し、代表選手になるには、果てしなく長い道を歩み続け、無数のハードルを乗り越えられなければならない。(取材・文=中野吉之伴/全4回の第4回目)

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 どれだけボールコントロールがうまくても、どれだけ視野が広くても、どれだけフィジカル能力が高くても、資質があるだけでは大成しない。成長期は誰にでもあるが、成長し続けるというのは誰にでもできることではない。

 元日本代表FWで、現在ドイツ6部バサラマインツで監督として奮闘する岡崎慎司が、成長し続けるためには普段からの心構えがいかに大切かについて、熱っぽく語ってくれた。

「いま僕のクラブでアナリストをしてくれている桝谷至良と一緒に、マインツの練習を見学してきたんです。佐野海舟や川崎颯太の様子を見て、練習後に話をしたんですね。川崎はマインツでまだなかなか試合に出れなくて、でもその時はブンデスデビューを飾った直後だったんです。『なかなか大変だよなぁ』というふうに話を振ったら、『いや、まだまだ全然です』といって、現状への危機感をすごい持っている言葉をいろいろ口にしていたんです」

 同じ舞台で戦ったことがある岡崎にだからこそ分かることがあるし、だからこそ話せることがあるのだろう。あの舞台に立つための戦いの過酷さがある。そして練習見学からの帰りに何気なく桝谷が口にしたことに、岡崎は心から同意したという。

「ブンデスリーガで戦っているレベルの選手が、危機感を持って必死に取り組んでいるという話をしているのに、下部リーグでやっている選手が、『いやー、なんかもっと上のレベルでやりたいんですよね』とか、『俺、もっと上のリーグでやれるんですけどね』みたいな話をよくするのを聞いたときに、『いや、逆じゃないかな』ってすごい思ったんです」(桝谷)

「確かにそうなんですよね。下部リーグでやっている選手こそ、育成で将来に向けて戦っている選手こそがもっと危機感をもったり、上昇志向や成長意欲をもって、自分と向き合えていないといけないですよね。事実として、その年齢でいまアマチュアリーグにいて、上に行きたい思いがあるなら、もっともっと自分でやるべきこと見つけて、必死になって取り組まなきゃ、プロの世界でやっている人たちに追いついたりすることなんて絶対にできない。桝谷が言うように、トップレベルで生き残っている選手というのは、自信を持っているけど、その中で危機感も常に持っているなというのは僕の経験からもすごい感じます」(岡崎)

 これはとても興味深いテーマだ。少し岡崎に現役時代を振り返ってもらった。自身への自信と、現状への危機感。そして将来への取り組み。どんな感覚で向き合っていたのだろう?

「余裕を持ったことはなかったですね。できるという思いは常にあるけど、もっとうまくなりたいという思いの方がいつだって強かった。自分のことをめちゃくちゃ下手だとは思ってはいなかったですよ。もしそうだったら、それこそプロ選手としてのチャレンジとか、サッカーで勝負するのはやめていたと思います。自分にはやれるとは思っていたし、自分の資質への自信はあった。でもそれとは別で、『もっとうまくなりたい』とか『周りにはもっとうまい選手がたくさんいる。このままだとやばい』という危機感というのは、いつでもありました。

 どれだけ経験を積んで、成長して、余裕が持ててたとしても、上には上がいると思っていたし、実際に上には上がいた。だからもっと今やっておかないと、この先出場機会を得るのは難しいんだぞ!っていう危機感が同居していました。そこの現実的分析は、自分の中でいつもできていたと思うんです」

 自己肯定感はベースにある。ただそれは潜在意識的なところだけにあるものだったと、岡崎は語る。自己肯定するとは、自分への欠点から目を背けたり、自分の立ち位置を見誤ることと同意ではないのだ。自分は今どこにいるのか。何ができて、何ができないのか。どうすればできるようになるのか。もっと成長するために何ができるのか。そこへの貪欲さがあるかないかこそが、成長力と密接に結びついている。

「自分のいまのレベルとか、いま自分がやるべきことというのは、はっきりと見えた方がいいと思うんですよね。『頑張っています』『本気でやっています』ってみんな言うんです。でも、例えばそれは僕の熱量とはやっぱり違う。 僕らが思う『プロになりたい』っていうこの気持ちと大きく違う。だからギャップが生じている。ただその辺の感覚を人に伝えるのは難しいですね。

 どう伝えたら響くのか。場合によっては、僕の言葉で自信をなくしてサッカーを辞めるくらいなことになってしまうかもしれない。這い上がってこいと言っちゃえばそうかもしれないけど、でもそうやって相手の心に火をつけるためにはどうしたらいいんだろうってすごく考えます。ピッチのところではめちゃくちゃ厳しく言ってるんですよ。パスコントロールとか、動きながらのテクニカルトレーニングを増やして、スペースでうまく受けるイメージとか、パスにしてもちゃんと前足に出すようにしようとか、それを動きながらスピード・テンポを持ってやるっていうのをずっとやっています。

 みんなやろうとはしているんだろうけど、ただミスの仕方を観察していると、何気なくパスを出してミスしてるのが気になるんです。めちゃくちゃ本気で取り組んで生じたミスとは全然違うんです。そこに気づけるかどうか。だから同じようなミスをしている。僕からしたらこれまで7割ぐらいの意識でプレーしてきたのかなと思ってしまう。

 ピシっと出さなきゃいけない場面でパスがふわっと浮いてしまったり、パスを受ける瞬間に準備を怠って、トラップが少し流れてしまう。そういう細かいところにまで厳しく取り組めるか。それが上のレベルにいくかどうかで大きく響いてくると思っています」

 指導者が指摘したことをどのように受け止めるのか。言われたらやろうとはする。でも1週間、2週間と時間が経つとまた元に戻ってしまう。習慣化できないのは、どこかで「なんとかなるだろう」の思いに甘えているからだろう。これは育成年代における取り組みで、とても大切なテーマでもある。取り組みのベースを身につけるだけの環境と十分な時間があるかどうか。誰かに言われたことをやるのではなく、なぜ、どのようにやるのかを自分で理解して、把握して、実践することは、どのジャンルにおいても欠かせない本質的な能力。岡崎の熱く価値あるメッセージ。多くの人に響いてほしい。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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