監督・岡崎慎司の苦悩「軽率なことは口にできない」 認識すべき”チームスポーツ”「大事な一員なんだと」

現在はドイツ6部で指揮を執る岡崎慎司
サッカーはチームスポーツで、コミュニケーションスポーツだ。そしてコミュニケーションとは選手間だけではなく、指導者と選手との関係性においても極めて重要だ。元日本代表FW岡崎慎司は現役時代に、イングランドのレスターでプレミアリーグ優勝をはじめ、欧州各国さまざまなクラブでプレーしていた。コミュニケーションに関して印象に残っている指揮官はいたのだろうか? 選手としての感じ方、そして指導者として考慮していることを尋ねてみた。(取材・文=中野吉之伴/全4回の第3回目)
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コミュニケーションを取るとは、言葉を交わすだけではなく、視線を合わせる、ジェスチャーをとることも含まれる。大事なのは自分の意図を相手に伝えることと、相手の意図を理解すること。
サッカーのゲームでは状況が瞬時に変わっていく。ピッチ上で攻守にコンビネーションが機能するためには、日頃からお互いのイメージを共有する作業が欠かせない。
岡崎は「ちょっと難しいのが、僕自身あんまり監督やコーチからのコミュニケーションを必要としないタイプだったことですね(笑)。僕はどんなトレーニングでも、それこそどんなシンプルなパス&コントロールの練習でも、プランクや腕立て伏せといった筋トレでも、そのやり方とかやる意味をいろんな人から学んできてたんで、どう意識しながら取り組むと自分にとってプラスになるか、うまく自分の身体にフィットさせることができるのかというのが、自然とできていたんだと思います。どれもが自分の成長に必要なことって思って、トレーニングを一生懸命やっていましたから。だからコミュニケーションがうまい監督っていうと、パッと思いつかない。でも……、そうですね、ロジャース(元レスター監督)は、いろんな選手たちと丁寧にコミュニケーションをとっていた印象がありますね。
いま振り返ると、コミュニケーションが取れているチーム作りというか、それこそ試合に出てない選手からも大きな不満が出てこずに、こうチームみんなでやってるなぁっていう雰囲気ができていたときは、やっぱりいいサッカーができているんですよね」
チーム一丸という言葉は誰もが口にするし、そうであろうとする。でも、試合に出てない選手がその事実を飲み込むことは簡単なことではなく、心のどこかでネガティブな思いがあっても不思議ではない。その方が人間的と言えるかもしれない。ただ岡崎が言うように、試合に出ていなくてもそれぞれが「自分も本当にチームの大事な一員なんだ」と感じられるチーム作りをしている指揮官は確かにいるし、そうしたチームには大きな力が宿るものだ。
「だからいま監督として軽率なことは口にできないなと思ってます。それよりも僕らしく、というとあれですけど、試合にあまり出てない選手には、正直に僕の考えを伝えるようにしています。『これとこれが足らない』というのをはっきりと伝える。『レギュラー組と別にすごい差があるわけじゃない。けど、今あるこの差が大きいんだ』というのは、ちゃんと言っています」
選手が持っている自己評価基準と監督が思っている評価基準は、合致しないことが多い。みている景色も、持っている感覚も、求めている役割も、分かっているようで分かっていないことが多い。バサラマインツでこんなことがあったという。
サブ組の選手が岡崎にダイレクトでメールで連絡を取ってきたという。「プレシーズンで調子よかったし、トレーニングでも調子がいいのに、何でベンチに座っているんだ。アンフェアじゃないか?」と。
「チームは勝っているのに不満の態度が見られていたんです。僕からするとまだレベル的にも足らないところがあったり、シンプルにスタミナがなかったり。 本人はトレーニングでいいって思っているかもしれないけど、こっちにはこっちの視点と評価基準があるわけです。『試合に出た時にこういうところがまだ不十分だから』とか、『試合ではこれとこれとこれが必要だから。そこにまずフォーカスしてほしい』というのを説明して、『今の取り組みが自分の成長になるになるから』という思いも添えてメールを返したら、もう一回元気を取り戻してくれました。選手の心境としては、監督には見てほしい、構ってほしいという思いがあるのは当然だろうし、こうしたやり取りは必要なんだなと感じています」
コミュニケーションはプロクラブであっても、アマチュアクラブであっても、大人のチームであっても、育成年代であっても、パフォーマンスの根幹にある重要な要素だ。選手個々で性格も違えば、受け取り方だって違う。うまく自分の中で処理してポジティブに取り組める人もいれば、どれだけ説明しても理解してもらえない人だっている。
チームマネジメントを、監督1人で全てをやるのは大変すぎる。だからコーチングスタッフサイドが同じビジョンでチームを見て、明確な方向へ導く支えがあることが重要だ。選手の気持ちに寄り添うのは必要。でもそこで一緒になって、監督のやり方への不満を許してしまったら、チーム内の関係バランスが壊れやすい。岡崎も昨シーズン、そこのマネジメントに苦労したと明かしてくれる。
「1年目はあんまり僕もその辺りをあまり分かっていなくて、結構周りに任せていたんです。ドイツ人選手がドイツ人のスポーツディレクターやコーチに愚痴を言ったとします。その時に『俺が何とかするから』みたいな感じで選手側に立つのはやめてほしいわけです。
僕が孤立するような感じになるのは本当に良くない。いま僕が監督としてクラブの指針を考えて、みんなが成長できる環境作りをしようとしているのだから、選手にもそこへ100%の気持ちで向き合って、『どうすれば出場機会をつかめるようになるのか』『どんな努力が必要なのか』を一緒に考えてほしいんです。そこへの相談にはどんどん乗ってほしい。ただどんな時でも、なぜいまチームの取り組みを変えようとしているのかを説明してほしいし、『このクラブはシンジが監督なんだ。君は彼の要求に本気で応えようとしてるのか』たいな話をしてほしい。選手が自分でそこにフォーカスできるようになれたら、もっといいクラブになれるんですから」
こうしたチームビルディングの取り組みは、日本の育成年代ではどれくらい重要視されているだろう。昨今、個々へのアプローチを重要視するサッカースクールに通う子供たちが増えてきている。そこで培うスキルや戦術理解も成長へとつながる。だが、サッカーはチームスポーツだ。チームの一員としてプレーすることを知り、仲間をサポートし、仲間にサポートされる感覚を身に着けることはとても大切なのだ。サッカーでも人生でも、うまくいかないことなんてたくさん起こる。そんな時にどんな対処をするかが、その後の歩みさえも左右しうる。声を出せっていうけど、いつどこで、どんな声を出すのがチームにとってプラスになるのか。そこが分からないとせっかくの声も生きてこない。
「そこはめちゃくちゃ大事なことだと思います。その場限りでごまかさないで、自分でモチベーションをあげるとか、『もっとこうしていこうよ』とか、未来につながる行動を今、僕も日本人選手に求めています。
厳しく接するときももちろん必要だと思うんですよね。追い込まれた時、苦しい時に、『もっとこうやれ。ああやれ』って言いたくなる気持ちも分かる。でも怒り任せの行動は継続していかない。だからどんな苦しい時も変えるところがあれば、いくらでもポジティブになれる、もっと強くなれるというのを知ってほしいなと思います」
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。













