岡崎慎司も注目…J2で即監督「ビックリ」 欧州で感じた指導者のリアル「どんだけクレイジーなのか」

岡崎慎司がライセンス獲得に意欲「死ぬ気で取らなきゃいけないな」
サッカー大国で指導者として経験を積み、かの地でUEFA上位ライセンスを獲得し、さまざまなクラブで監督を歴任する。そんな日本人もいる。ドイツでいえば、UEFA-Aレベルに当たるドイツサッカー協会公認A級ライセンスをこの20年の間に獲得している日本人は、僕が知る限り10人ほどいる。(取材・文=中野吉之伴/全4回の第2回目)
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海外で学んだこと、実践したことを日本へ持ち帰り、日本サッカーのさらなる向上に貢献したいと口にする人はかなりいると思われる。ただ、海外で指導者修行している人がみんな優れた指導者かというとそういうわけでもないし、UEFAライセンスと一言でいっても、CレベルとBレベルは違うし、AとSレベルはやはり違う。海外経験・談話=成長の秘訣、というわけでもない。本質を図りそこなったアプローチでは、残念ながら選手にポジティブには響かないのだ。日本の現場における取り組みと、海外におけるそもそもの習慣や環境、考え方の違いがそれなりにある中、うまく順応、適応、修正、構成ができずに苦しむ関係性も、少なくはないのが現状だろう。
でも、本気で学び、取り組み、成長している人もいるし、本気で学びたい、変わりたい、成長したいと思う人もいる。それだけに、届けたい側にとっても、受け取りたい側にとっても、最適な関係性を築ける前例やアプローチ方法が増えてくることが望まれる。
J2のRB大宮アルディージャで新監督となった宮沢悠生は、そのきっかけを作ってくれる人物となるかもしれない。宮沢とは以前から親交があり、ドイツで指導者として奮闘する元日本代表FW岡崎慎司もこう語る。
「宮沢さん、日本で監督ですね。メールをもらいました。急な展開で僕もびっくりでしたけど、でも楽しみやなと思います。クラブでどういうふうに受け入れられるのかな、どんなアプローチをするのかなって」
宮沢は85年生まれの40歳。ブンデスリーガの古豪1.FCケルンで大迫勇也と長澤和輝、オーストリアの名門クラブRBザルツブルクでは南野拓実と奥川雅也の通訳を務めた経験を持つ。そして指導者としてRBザルツブルクでU15からU21までコーチを歴任。U18では監督も務めた。ザルツブルクU-18といえば、U19欧州チャンピオンズリーグであるUEFAユースリーグで上位常連だ。U-21はオーストリア2部に所属し、プロクラブ相手にリーグを戦っている。そこでの経験値がもたらすものは相当大きいだろう。
トップチームでの経験がないまま、J2でいきなり監督をやることになった宮沢に対して、岡崎は「プレッシャーとの向き合い方」をポイントの1つに挙げていた。
「チームの勝敗で評価が決まってしまうというプレッシャーは、育成でやってるのとは全然違うかなと思うんです。育成だったら選手の成長がメインテーマにある。もちろんプロクラブの育成として、結果も求められるでしょうけど、そこへのプレッシャーは全然違う。その狭間でのバランス感覚が、たぶんめちゃくちゃ難しいんじゃないかなと思うんです。自分の持ってるサッカー哲学とチームの状況と立ち位置のなかで、どうアプローチするのか。ご自身わかっているし、覚悟してやっていると思いますが、やっぱり実際にやってみないと分からないことは多いと思う。
そんな環境でも、楽しめるかどうかなのかな。僕自身、現役時代にいろんな監督のもとでプレーしてきましたが、『プロクラブの監督って、どんだけクレイジーな人なのか』っていうのを見てきたんで(苦笑)。レスターで優勝した時の(クラウディオ・)ラニエリ監督は、73歳でまだ指導者としてやろうとしてる。彼だけじゃなくて、いろんなプロクラブの指導者を見てると、本当に根気強さが必要で、あれほどのプレッシャーでも、その緊張感を楽しめる人なのかなと思います。監督をやっていると、SNSとかいろんな声が聞こえてくるじゃないですか。正当な評価だけじゃなくて、あれこれいろんなことを言われる。それでもサッカーへの愛、情熱、楽しさを持っていられる人なんだと、今改めて思いますね。
僕も監督という立場になってみて、 見方が変わるっていうのは、もう経験しました。やっぱりどのカテゴリーに行っても、すぐそこにアジャストできるかどうかって大事だし、そのためには選手の特徴とか性格とか、相性とかも全部含めて、サッカーを考えないといけないんですよね。それを僕も日々思っています」
また、宮沢はドイツでA級ライセンスまで獲得したのち、RBザルツブルクで指導者をしている段階で、日本サッカー協会のS級ライセンス講習会を受講し、無事所得している。こうしたステップアップのやり方は、今後日本人指導者にとってひとつのやり方になるかもしれない。
というのも、欧州でS級ライセンスを獲得するのが、年々困難になってきているという事情があるからだ。A級ライセンスまでは枠も多いので、元プロ選手で、指導者としてもしっかりと経験を積んできた人であれば比較的取りやすいかもしれない。
ただ、UEFAは各国S級に関して、年間の参加人数を熟考する時期としている。実際にS級を持っていないとなれない職種とその需要バランスを考えたときに、年間多くて8人ほどしかなれないのが現実だという。S級ライセンス講習会は費用もかなり高く、期間も長い。それだけの投資をして、結果それに見合う仕事につけない人がたくさんでているのはよろしくないのではないか、というのがUEFAの言い分だ。
実際、これまでドイツでは年間25人だったのが、ここ数年では17~18人。今後さらに減っていく可能性は十分にある。ドイツだけではなく、欧州全般にこうした指導者ライセンスの改善傾向はみられている。ドイツ人の実力ある指導者であってもなかなかS級が取れないとなると、日本人が取るのはさらに難しい。
AFCとUEFAにおけるライセンス互換が数年のうちに実現されるとしても、将来的に欧州で指導者をやるためには欧州での指導歴と経験は必要不可欠。そうなると欧州でA級まで獲得し、その後日本をはじめとするアジア諸国でS級にチャレンジ。そして欧州で可能性を探るというのが、これからの指導者海外挑戦における1つの戦略になるかもしれない。岡崎もそこについて言及していた。
「僕は宮沢さんが日本のS級を持っているのを知らなかったので、ビックリしましたね。欧州でA級もめっちゃきついって聞いています。やっぱり理論的なこととか、いろいろやらなきゃいけないことが多い。でも僕もまずはA級まで頑張って、死ぬ気で取らなきゃいけないな」
いま、日本人指導者の新時代が始まっているのかもしれない。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。




















