岡崎慎司が掲げる理想「7対3で海外選手」 指導者2年目で得た気付き…土台作りに集中も「直感を大事に」

岡崎慎司はバサラマインツ2季目のシーズンを送っている
日本代表FW岡崎慎司が指導者に転身して2年目となる。自身が設立したバサラマインツ(ドイツ6部)で監督になったのが昨シーズン。「いろんなことを試しながら、いろんなことにチャレンジしています」と2年目で取り組みたい土台作りについて話した。(取材・文=中野吉之伴/全4回の第1回目)
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監督1年目のシーズンは最終的に5位で終わったが、まず1シーズンを通して、監督として過ごしたことが大事だった。まず経験をする。いいことも悪いことも。できることもできないことも。それが指針となり、ではクラブとしてより成長するためにはどうすればいいのかを考えるきっかけとする。
「ちょっとずつサッカークラブとして地力をつけている段階だと思います。選手にGPSをつけたりとか、トレーニングキットもそれぞれ2着にして、毎練習みんながトレーニング着を着れるようにしたり。あとブンデスリーガ2部マグデブルクでアナリストをしていた桝谷至良に加わってもらいました。
チーム分析も個人分析もしてもらっている。1人1人のビデオ分析を毎試合後に『こういうのを改善してほしい』っていうのを送ってもらったりしています。僕も『自分だったらこうする』っていうのがあるなかで、彼の視線での指摘を聞きながら進んでいて、僕も成長できているし、チームを作れている実感があります。
プロサッカークラブに近くして、周りから『バサラ行ったら成長できるね』って思われるクラブにしたいんですね。ドイツの6部でそこまでやっているクラブはないと思う。5部に昇格したいと思ってるクラブはあるけど、その目標を3部とかまで置いているクラブはない」
日本人が設立したクラブとしてマインツで生まれて10年。アマチュアクラブでも100年の歴史を持つクラブがそこら中にあるドイツにおいて、新興クラブなのは間違いない。岡崎自身も地元の人たちとの交流を丁寧にとり、試合に足を運んでもらえるファンを増やすための活動を精力的にこなしている。やれることはなんでもやる。自分達だけではなく、相手にもメリットがある関係性を大事にする岡崎の人間性に魅かれ、サポートしてくれる企業も少しずつ増えてきている。
「新戦力が結構うまく順応してくれて、今は6位ですけど、昇格圏の2位までは勝ち点3(11節終了時)。前半戦終わった時に3位以内に入っておきたいなっていうのはあります。チーム力も雰囲気も変わってきているのは確か。練習のクオリティもよくなっているし、モチベーションが高い選手がそろってきている。コンディションはよりフィットしてきてる。昨季よりも全然いい。ストレスも少なくなりました」
1年間指導者をやってみて、指導者としての自身の特徴にも気づきがあったようだ。誰でも得意な分野と苦手とする分野がある。どれがいいかではなく、それらを自己分析したうえで、どのように生かし、どのようにサポートを受けて、自分達の目標を達成するための道を作るのかが重要になる。
「僕はどちらかというと感覚で動いている人間。常に研ぎ澄まされている状態で、直感的なところを大事にしています。いま監督をやってても一緒で、とにかく選手の状態をすごくみていますね。選手の状態とか、雰囲気とか、感触とか、そこを全部研ぎ澄ましてみているという感じがあります。
戦術的なセオリーの話をしていると、『なるほど』と思うところもあるけど、でも僕は選手を見ているので、『そんなセオリー通りにはできないぞ?』というのが見えてくる。じゃあセオリー通りにできないからこの選手を外すのか、あるいはこの選手が持っている別の長所を取るのか。例えば得点力に秀でた選手だったら、そこを活かしつつ、チームバランスを崩さないように、うまくサポートできる選手をこのポジションに入れた方がいいんじゃないかとか、こういうフォーメーションにした方がいいんじゃないか、というふうに考えています。その辺りの感覚は、僕もいろいろ現場で見てきているので、分かるところがあるんだと思うんです。
僕はまだ監督として、これとこれとこれやってという段階を踏んでいない。パソコンを前に分析に時間をかけてというのは今はできる人に任せて、僕は『バサラがどうやったら将来に向けての土台を作れるのか』っていうのを大事に、この2年目は取り組んでいます」
土台を作りながら、狙うは5部昇格。クラブ創立からドイツ記録タイとなる5年連続リーグ昇格を果たしたあと、6年間6部で奮闘している。ここで昇格できるかどうかが、クラブの今後へ向けて大きなターニングポイントになる。5部に上がるとスポンサー集めもより加速度が増すだろうし、資金力があがってクラブ規模が大きくなれば、4部、そして3部昇格への道も開けてくる。
「いまは日本人選手のパフォーマンスに助けられている部分もある。クラブ的にもインターン生に支えられています。だからこそ、成長できる場を作るっていうのは僕らにとって大事なキーワードなんです。ドイツ人でも、日本人でも、誰に対しても、このクラブに来たら成長できるよね、いろんなところとつながれるよねっていう風になっていきたい。
あと、今は日本人選手の方が多い状況だけど、5部や4部にあがれたら、7対3でドイツ人や海外選手という割合がいいのかなと思っています。欧州クラブとしての雰囲気があるなかで、日本人選手がスムーズにストレス少なくプレーできる関係性が望ましい。シントトロイデンでプレー経験ありますが、少し多いぐらいかなとは思うので、うちとしてもレギュラー争いをする日本人選手が6人ぐらいというのが、将来的にクラブとしてはいいバランスになるとは感じています。
そしていまのトップチームの立ち位置にセカンドチームがあるというのが理想的ですね。日本人選手が多くて、そこでドイツの5-6部リーグを戦って、成長した選手がトップチームに昇格できる。トップチームは毎回、20-22人くらいでハイクオリティのトレーニングができるようになるというのが、僕が持っているイメージですね」
その道のりはまだまだ険しく、長い。だが、現役時代、どんな苦難をも乗り越えて、最前線を走り続けた岡崎だ。例え時間がかかってもやり遂げる覚悟をもって戦っている。あの目の輝きは今も変わらない。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。





















