7年間で1200万人増…劇的変化の“最新市場” 日本人の1/4が課金するスポーツ有料配信

カタール・ワールドカップで快進撃を見せた日本代表【写真:徳原隆元】
カタール・ワールドカップで快進撃を見せた日本代表【写真:徳原隆元】

“無料で観る”から“応援するために観る”へ

 サッカーや野球を含めて、スポーツの“観戦の形”が、確実に変わり始めている。有料配信を視聴する層が2018年から現在までの7年間で約1200万人が増加。そのなかで、来年に開催される北中米ワールドカップ(W杯)など世界的なビッグイベントの配信権を有料視聴サービスが獲得する可能性がある。その傾向を分析すべく幅広い年代の1万人を対象に国内最大手の調査会社「インテージ(https://www.intage.co.jp)」がさまざまな角度でリサーチした。野球でもワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が行われる“お祭りイヤー”に向け、スポーツ観戦の実態に迫る。(取材・文=インテージ・中川大輔)

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 2026年WBCの放映権をNetflixが獲得した。日本中が歓喜に沸いた前回大会(2023年)の記憶がまだ鮮明に残っている中、次回大会(2026年)が「配信で観る大会」になるというニュースは、多くのファンに衝撃を与えた。地上波で観ていた大会が“配信専用”の舞台に移る。このニュースは、いま日本のスポーツ視聴が大きな転換点を迎えていることを象徴している。その波は、野球だけでなく、サッカーをはじめとするすべてのスポーツに及んでいる。

 実際、全国1万人を対象にした2025年の定量調査によると、スポーツを観たくて有料スポーツ視聴サービスに加入した人の割合は全国で23.2%。2018年の13.3%から10ポイント増加と、明確な伸びを示した。人数に換算すると、2018年では有料スポーツ視聴者は約1680万人。それが2025年では約2880万人へと増加。わずか7年間で約1200万人が「スポーツを有料サービスで観る層」に加わったことになる。WBCのNetflix独占は、この流れの延長線上にある。

 2018年頃、スポーツ観戦といえば地上波やBS放送が中心だった。「無料で観られる範囲」で楽しむのが当たり前で、月額課金してまで試合を追うのは一部の熱狂的ファンに限られていた。しかし2025年の今、ファンの行動は大きく変わっている。「好きなチームを応援するために、自ら選んで課金する」。スマホで動画を観ることが日常になった世代にとって、月1000〜2000円のサブスクは高くない。「好きなチームの試合が全部観られるなら安い」。そんな感覚が、新しい観戦スタンダードになっている。

 視聴は受け身から能動的へ。そして“無料で観る”から“応援するために観る”へ。スポーツ観戦の意味が、根本から変わり始めている。

2018年から劇的な変化…サッカーが牽引する有料スポーツ視聴文化

 この変化を牽引するのが、20〜30代の若い世代だ。有料スポーツ視聴サービスの加入率は2018年から12ポイント上昇。中でも男性20代は17.1%から32.7%へとほぼ倍増している。彼らにとって、スポーツを「観る」ことは“趣味”ではなく“日常”となり、生活の一部になっている。

 加えて注目したいのが、有料スポーツ視聴サービスの加入理由だ。「スポーツ文化やリーグを応援したい」と答えた人は全国平均で8.1%にとどまるが、男性20代では18.1%と10ポイントも高い。男性30代(12.0%)、女性20代(10.5%)、女性30代(12.0%)もいずれも平均を上回る。チームや選手の枠を超えて、“スポーツそのものを支えたい”という意識が、若い世代に確実に広がっている。

 有料スポーツ視聴の中心にあるのは、やはりサッカーだ。Jリーグ、欧州5大リーグ、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)、日本代表戦――。1年を通して常にどこかで試合が行われており、ファンの「見たい」が途切れない。この需要に応えるように、「DAZN」「U-NEXT」「ABEMA」「WOWOW」などが配信権を獲得し、サッカーコンテンツを拡充してきた。2022年のカタールW杯を機に、配信で観戦する文化が一気に一般層にも広がったことも大きい。SNS上では、試合中のリアルタイム投稿やハイライト動画が飛び交い、ファン同士が即座に反応し合う。「試合を観る」ことが「一緒に盛り上がる体験」へと変化し、サッカーが有料配信の拡大を後押ししている。

 配信サービスの魅力は、何といってもその自由度だ。多くの人の配信サービスへの加入きっかけは「地上波では放送されないスポーツを観るため」だが、いざ利用し始めると、見逃し配信やハイライト視聴、戦術分析動画など、テレビ中継では得られなかった多様なコンテンツが揃うことに気づく。仕事終わりに後半戦だけスマホでチェックする、通勤中にダイジェストを観る、など家だけでなく外出先や移動中でも視聴できる。そういった“ながら観戦”が一般化した。「好きな試合を繰り返し観たい」「推し選手のプレーだけをまとめて観たい」といった個別ニーズにも応え、視聴体験そのものがパーソナライズされている。

サッカーファンが作る新しい“観戦経済圏”

 一方で、課題も見えてきた。複数サービスによる独占配信の進行だ。JリーグはDAZN、プレミアリーグはU-NEXT、CLはWOWOWと、観たい試合をすべてカバーしようとすれば月5000円を超える。視聴コストの増加により、「1リーグだけ観る層」と「複数サービスを契約するコア層」に二極化が進んでいる。配信の拡大は進むものの、ファンの視聴体験をどう一本化・最適化していくかが、今後の課題となりそうだ。

 有料サービスにお金を払うことが「当たり前」になった今、スポーツ観戦は“消費”から“投資”へと変わりつつある。ファンはチームを支援し、リーグを育て、選手のプレー環境を支える。7年前、課金してスポーツを観ている人は1680万人だった。いまは2880万人。つまり、日本人のおよそ4人に1人が課金してスポーツを観ている計算になる。この新しい1200万人の観戦層には、20~30代の若い世代も多く含まれているサッカーを中心に、この新しい観戦層がスポーツビジネスの成長を後押ししている。

 有料配信が当たり前になった今、観戦スタイルは多様化している。変わらないのは、サッカーを通して心を揺さぶられる瞬間を求めるファンの情熱だ。2025年――“好きなチームを、好きな場所で、好きな時間に観る”ことができる時代。サッカーは、有料配信サービスを通じて、スポーツ視聴の新しい文化を築きつつある。

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株式会社インテージ

 株式会社インテージは1960年に創業。インテージグループとしてアジアNo.1*であるマーケティングリサーチ/インサイト事業に加えてマーケティングソリューション事業を展開し、9か国の海外拠点とともに国内外の企業・団体のマーケティング活動を総合的に支援している。事業ビジョンとして“Create Consumer-centric Values”を掲げ、深い生活者理解とデータ活用の高度化による顧客企業支援を通じ、生活者の幸せの実現を目指している。
*「ESOMAR’s Global Top-50 Insights Companies 2025」に基づく(グループ連結売上高ベース)

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