スタンド騒然の超絶パス 5年ぶりの決勝進出…1秒に凝縮された判断力「狙って出した」

絶妙スルーパスでゴールをアシストした鈴木悠生【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
絶妙スルーパスでゴールをアシストした鈴木悠生【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

東海学園の3年生MF鈴木悠生

 第104回全国高校サッカー選手権の都道府県予選も佳境に入り、各地では代表校が決まり始めている。ここでは全国各地で繰り広げられている激戦の主役たちのエピソード、プレーなどをより細かくお届けしていきたい。

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 第3回は愛知県予選準決勝から。第2試合は県1部リーグ1位であり、一昨年度の覇者&全国ベスト8の名古屋高と、県1部・3位の東海学園高との一戦。この試合で値千金の決勝弾を超絶スルーパスでアシストした東海学園の3年生MF鈴木悠生について。あの瞬間、鈴木は2度、直前で判断を変えていた―。

 0-0で迎えた前半33分、自陣右サイドからのロングボールにFW廣川拓海が競り合ったこぼれを、FW小田嶋俊介がセンターラインを超えて走り込んできた中根へ落とす。

 ボールが少しずれて差し込まれる形になったが中根は右足で鮮やかなワンタッチで、スピードを落とさずに左前のスペースに出すと、次の瞬間、真っ二つに割れていた相手の右CBと右サイドバックの間のスペースに迷わず右足インサイドでロングスルーパスを通す。

 その先には左外からペナルティーエリア中央のスペースにトップスピードで回り込んできたMF瀬古隼大の姿があった。

 パスが通った瞬間、大勢の観客が詰めかけたスタンドからは大きなどよめきが起こった。正直、見ている人は誰もがあのタイミングで鈴木がロングスルーパスを出すとは思っていなかった。筆者も鳥肌が出るほどの極上のパスに追いついた瀬古は、ワンタッチで飛び出してきたGKを交わして、ガラ空きのゴールにスライディングで押し込んだ。

 2人の息がぴったりとあったスーパーゴール。このゴールが決勝点となり、東海学園が5年ぶりの決勝進出を果たした。

「俊介の落としを受けた時、そのままドリブルで運んで行こうと思ったのですが、左サイドで隼大がフリーだったのが見えたので、パスに切り替えました。そのパスも最初は隼大の足元に出そうとしたのですが、相手のサイドバックが食いつこうとしているのが見えたので、逆に裏に出したらチャンスになると思って、強いボールをサイドバックとCBの間の背後のスペースを狙って出しました」

 この判断の切り替えの間の時間は1秒も満たない。あの緊迫した状態で鈴木は瞬時に状況を把握して頭をフル回転させ、即時決断で一連の無駄のないプレーを完結させた。

「昔から周りを見てスペースや足元にパスを出すことが好きで、得意でした。高校進学もパスをつなげて、自分のプレースタイルと合うチームがいいと思ったので、この高校にしました」

 中学時代、FCブリンカール安城でプレー。鈴木が4年生の時に全日本U-15フットサル選手権で日本一に輝くなど、技術力に重きを置いたチームで、小学5年、6年生の時に2年連続で全日本U-15フットサル選手権に出場。狭い局面を打開する力、判断の連続でプレーを瞬間的に選択して行く頭脳を培った。

 高校は県外からも誘いがあったが、県内に残ってプレーすることを選択。その中で東海学園にその才を見出された。

「もっと相手の逆をとったり、意表をついてボールを運んだり、味方をタイミングよく使っていくプレーを磨いていきたいです」と意欲を口にする鈴木にとって、高校選手権は憧れの舞台だった。

「ずっと小さい頃からテレビで見ていて、立ちたいと思っていた場所。東海学園高は小さい頃は全国に出ていたのに、最近は遠ざかっているからこそ、僕がここに入って勝たせる存在になって歴史を塗り替えたいとずっと思っていました。ラストチャンスが来たので、必ずチームのためのパスを出して、夏の王者を倒して選手権に出たいと思っています」

 飄々とした表情とは裏腹に、心の中では燃え盛る闘志を持つ。東海学園の司令塔はよりアンテナを高くして、決戦に挑まんとしている。

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