1年前の悪夢「あのとき、もっと」 J1複数クラブがオファー…大学屈指のCBが示す成長

筑波大の小川遼也【写真:安藤隆人】
筑波大の小川遼也【写真:安藤隆人】

筑波大の小川遼也「もっと一歩踏み込めていたら、ステップで準備できていたら」

 関東大学サッカーリーグ1部もいよいよ佳境に入ってきた。第18節を終了して、優勝の可能性を残したのは1位・筑波大学と2位・国士舘大学の2チームのみ。2位と3位の勝ち点差は16という、まさにこの2チームの“一騎討ち”状態となっている。

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 第18節、筆者は東洋大vs筑波大の取材に行った。この試合で筑波大は試合終盤まで1-0のリードを奪っていたが、後半41分に痛恨の同点弾を浴び、1-1のドローに終わった。一方で同時刻に行われていた東海大vs国士舘大の一戦で、国士舘大は1-1で迎えた後半アディショナルタイム3分にPKを獲得し、これをFW田中祉同がきっちりと決めて、劇的逆転勝利。これで両チームの勝ち点差は1に縮まった。

 次節、11月1日に両チームは直接対決を迎える。まさに“天王山”となった大一番を控えて、筑波大の選手に思いを聞いた。

 第3回目は池谷銀姿郎とともに2センターバックとして筑波大の防波堤となっている3年生CB小川遼也について。1年前、明治大との優勝争いに敗れて味わった教訓を活かすときがやってきた――。

「あの試合のことは忘れられません。目の前でFW渡邉啓吾(桐蔭横浜大から今季、湘南ベルマーレに加入)にクロスを合わされて失点をして……。あのとき、もっと一歩踏み込めていたら、もっとステップで準備できていたら。あのときの悔しさは今も鮮明に残っています」

 昨年度の関東大学サッカーリーグ1部。明治大との激しい優勝争いをしていた筑波大は、最終節前の第21節で大きなチャンスを手にしていた。前日の試合で首位の明治大が日本大に引き分けたことで、桐蔭横浜大との試合で勝利をすれば、勝ち点差で並ぶチャンスが巡ってきた。だが、勝たなければならない試合で0-1の敗戦。最終戦で勝利を収めるも、勝ち点3差の2位でフィニッシュした。

「あの試合で感じたのは自分たちが積み重ねて信じてきたものをやるだけではなく、最後は大胆さや思い切りの良さが必要だということです。サッカーには理論では片づけられないものもあって、即興的な無意識に出るプレーが最後の物を言う。そのためには日々の練習から何がなんでも打たせない守備とか、あと一歩足が出る守備とか、そう言う本能的な部分をギリギリのところで引き出せるように取り組むことが大事だと感じました。その気持ちを持って1年間やってきたつもりです」

 小川はこの言葉通り、今年に入ってより際のところで非常に勝負強さを発揮するセンターバックに成長をした。

 185センチのサイズと屈強なフィジカル、精度の高い両足のキックと明晰な頭脳と、センターバックとして必要な能力をトータルで兼ね揃えた素材に、闘うメンタリティーや一瞬の集中力の精度が加わったことで、すでにJ1の複数クラブが正式オファーをして争奪戦を繰り広げる逸材となった。

 大学サッカー界屈指のセンターバックだが、優勝をピッチ上で経験したことはない。2年前のリーグ優勝はスタンドで味わった。

「置かれている立場が2年前と違いすぎて、正直想像ができません。ただ、2年前は1グラ(筑波大学第一グラウンド)で決まったのですが、いろんな人が喜んでいたし、僕もメガホンを持って喜んだ。それが実際にピッチで実現できたらどういう感情になるのか、どういう景色が見えるのか分からないからこそ楽しみだし、何がなんでも実現させたいです」

 前節の東洋大戦、2位の国士舘大と勝ち点3差をつけた状態で臨んだが、1-1のドロー決着に終わった。タイムアップのホイッスルが鳴ったときは大きく天を見上げたが、試合後にバスに乗り込む際はすでに気持ちは国士舘大との天王山に切り替わっていた。

「東洋大戦は必要以上にネガティブになる試合ではなかったと思う。もちろん課題は課題として真摯に受け止めながらも、中2日の決戦に引きずってもいいことはない。国士舘は劇的な逆転勝利で、間違いなく勢いに乗っているからこそ、僕らは彼ら以上の気迫と執念で勝つ気持ちでぶつからないといけない。(このドローで)次勝つだけの舞台が整ったと思っています」

 もちろんこの試合に勝てば優勝というわけではないが、勝つことで確実に近づくし、落とせばよりデッドヒートとなる。勝たなければいけない一戦で、昨年の苦い思いを全てぶつけるつもりだ。

「大胆さを失わない。僕らはいるはずだった4年生3人(諏訪間幸成・横浜Fマリノス、加藤玄・名古屋グランパス、安藤寿岐・サガン鳥栖)や、ウッチー(内野航太郎、7月にブレンビーに加入)、(廣井)蘭人(7月に負傷離脱)たちの想いも背負っているし、何よりホームで運営や企画をしてくれる同期や仲間たちの想いも背負っている。その人たちを喜ばせるために、まずは国士舘戦で絶対に勝って、みんなで優勝したいと思っています」

 思いは揺るがない。歓喜と落胆を味わってきた小川の目にはいろいろな人たちの顔が見えていて、その先にある勝利への集中力はますます研ぎ澄まされている。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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