売上高J2平均の約半分…水戸が躍進する理由 異色経歴の社長「現場に一切、口を出さない」

水戸の小島耕社長「毎週末が近づいてくると眠れなくなるのも事実ですけど」
まさにカウントダウン状態に突入している2025年J1昇格争い。ラスト4試合の時点で首位に立つのは、7月5日の第20節・ブラウブリッツ秋田戦から10月5日の第32節・愛媛FC戦まで3か月間トップを走り、一時は2位転落を余儀なくされながら、再びトップに浮上した水戸ホーリーホックである。
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10月19日の第33節・ジェフユナイテッド千葉戦で後半アディショナルタイムにまさかの失点。7試合ぶりの敗戦を喫し、V・ファーレン長崎に首位の座を奪われた。しかしながら、10月26日の第34節・北海道コンサドーレ札幌戦をMF齋藤俊輔のスーパー弾で1-0と快勝。勝ち点を64に伸ばし、長崎に1ポイント差の首位返り咲きに成功。3位・千葉とは5ポイント差で、史上初の最高峰リーグ昇格に大きく前進した格好だ。
「我々は2000年からJ2にいますが、プレーオフには一度も参戦したことがありません。最近2シーズンも残留争いを強いられていました。その現状を踏まえ、まずは一度、プレーオフを経験するところまで辿り着き、次の段階で2位以内を狙うシナリオを描いていた。そのフェーズに至るには、正直なところあと5年はかかると見ていました。そういうなか、今季は現場が想像以上の結果を出してくれている。本当に頭が下がります」
このように前向きに語るのは、水戸の小島耕社長である。J2のなかでも資金力の低いクラブが、なぜここまで躍進できたのか。今、目指すところは何なのか。就任5年目のクラブトップの本音に迫った。(取材・文=元川悦子/全6回の第1回目)
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「今季のJ2を見ると、J1経験クラブが半数以上を占めていて、売上高も平均20億円前後です。けれども、水戸は2024年度の売上高が12億2400万円。決して潤沢とは言えません。近年の成績を見ても、2023年が17位、2024年が15位と、2年連続で残留争いを強いられました。そこで、今季はまずJ2残留を確実にし、あわよくばJ1昇格プレーオフ圏内の6位以内を狙うというのが、当初の目標でした。
経営面で毎年10%ずつ売上高を伸ばしていけば、5年で平均レベルに到達する。その段階で初めてJ1を狙える状況になると思っていたので、今季は森直樹監督以下、現場の頑張りには本当に有難い限りです」
小島社長はしみじみとこう語る。コロナ禍真っ只中の2020年7月に社長に就任し、5年以上の月日が経過したが、水戸がこれだけの注目を浴びるのは初めてだ。
通常のクラブであれば、J1昇格争いの渦中にいる今、社長がメディアの取材に応じるケースは非常に少ないのだが、水戸の場合は「ぜひ取り上げてほしい」と積極的に表に出る。それも社長自身がメディア出身ということが大きいのだろう。
小島社長は1974年、茨城県鉾田市生まれの51歳。明治大学卒業後、出版社から仕事人生をスタートさせ、2004年にはサッカー専門紙「エルゴラッソ」を発行するスクワッドに入社。創業メンバーとして活躍した。2000年から横浜FCのマッチデープログラムに寄稿する「フリエライター」としても活動していたこともあり、しばらくは横浜FCを担当した。
「2006~2007年にかけて指揮を執った高木琢也さん(現長崎監督)のときには担当記者をしていたので、高木さんとはすごく懇意にさせていただいています。まさか相手チームの監督になって首位を争う間柄になるとは考えていませんでしたけど、これも何かの縁でしょう」
その後、映像制作会社で、Jリーグ応援番組制作などを手掛けるなかで、水戸と接点を持った。沼田邦郎前社長からの誘いで2019年に社外取締役となり、1年後に社長に就任。これだけでもドラマティックな人生ではあるが、社長になって5年目でまさかのJ1昇格チャンスが巡ってきたのである。
「昇格争いしている千葉にはウチで長く頑張ってくれた椿(直起)選手がいて、島田(亮)社長とも親しかったりしますし、大宮アルディージャの原博実社長には前職を含めて大変お世話になった。そういう関わりのある人がいるクラブと今、昇格争いができているのは、個人的にすごく嬉しいことですね。
地方の小規模クラブである水戸が健闘しているのを見て、他クラブ関係者からも水戸には注目しています』という声をよくかけられます。
僕は現場に一切、口を出さないのがポリシーで、西村(卓朗)GMともしっかり仕事の線引きをしているので、選手をピッチに送り出してからは全くの無力です(苦笑)。本当に今は願うしかない状況。毎週末が近づいてくると眠れなくなるのも事実ですけど、この経験が会社やスタッフを劇的に成長させているのは確か。結果はどうなるか分かりませんけど、これだけの緊迫感を感じられることをプラスに捉えています」
小島社長はどこまでもポジティブに前を見据えている。とはいえ、8~9月にかけて5戦未勝利のトンネルに入り込んだときには、さすがに「何かをしなければいけない」と感じたのだろう。小島社長と西村GMが音頭を取り、監督・選手ら現場、フロントスタッフ、アカデミー関係者も含めて100人近くを集めて、9月25日に決起集会を実施。一体感を高めたという。
「練習拠点のアツマーレ(城里町七会町民センター)の会議室にみんなを集めて、まず自分が今の思いを話して、森監督にも喋ってもらいましたね。『最終的に勝った者が強い。だからこそ、このチャンスを逃さずにみんなで一つになって戦おう』と語気を強めていたのが印象的でした。
その一言もあって、次の藤枝、愛媛と連勝できましたけど、千葉戦の敗戦もあった。この先もまだまだ厳しい状況は続くと思います。でも水戸はとにかく団結力の強いチーム。そこだけは僕も自信を持っていますし、最後まで一丸となって戦い続けられると信じています」
小島社長の作る全社一丸の雰囲気は確実に今季の水戸の強さにつながっている。そこはひとつ、特筆すべき点と言っていいはずだ。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。






















