練習中の大怪我「膝に力が入らない」 手術→地元に帰省…リハビリで芽生えた「使命感」

筑波大学3年生の廣井蘭人「精一杯やれることをやろうと」
関東大学サッカーリーグ1部もいよいよ佳境に入ってきた。第18節を終了して、優勝の可能性を残したのは1位・筑波大学と2位・国士舘大学の2チームのみ。2位と3位の勝ち点差は16という、まさにこの2チームの「一騎討ち」状態となっている。
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第18節、筆者は東洋大vs筑波大の取材に行ったが、この試合で筑波大は試合終盤まで1-0のリードを奪っていたが、86分に痛恨の同点弾を浴び、1-1のドローに終わった。一方で同時刻に行われていた東海大vs国士舘大の一戦で、国士舘大は1-1で迎えた後半アディショナルタイム3分にPKを獲得し、これをFW田中祉同がきっちりと決めて、劇的逆転勝利。これで両チームの勝ち点差は1に縮まった。
次節、11月1日に両チームは直接対決を迎える。まさに「天王山」となった大一番を控えて、筑波大の4選手に思いを聞いた。
第1回目は東洋大戦において、ピッチサイドで声を枯らしながら応援をしていた3年生MF廣井蘭人。前期躍進の立役者となったアタッカーは、7月に大怪我を負っていた――。
「毎試合、プレーしている仲間の姿を見て、羨ましい気持ちは正直あります。でも逆に仲間たちのプレーで励まされている。だからこそ、絶対に優勝をしてほしいし、僕は応援という形ですが、精一杯やれることをやろうと思っています」
前期は5ゴール2アシストと、内野航太郎(ブレンビーIF)と共にチームのトップスコアラーで、天皇杯1回戦でも大宮アルディージャを撃破する決勝ゴールを挙げるなど、チームの中心選手だった廣井に悪夢が襲ったのは7月のことだった。
練習の最後の紅白戦、後ろからのボールをトラップして前を向こうとしたが、トラップがずれて後ろにボールがこぼれた。それを回収しようと右足を踏み込んだ瞬間、ストンと力が抜けた。その場に倒れ込むと、軽傷ではないことをすぐに理解した。
「痛みはなかったのですが、膝に力が入らない状態だった」と、駆け寄るトレーナーの声が聞こえないほど大粒の涙がこぼれた。
翌日に病院に行くと、右膝前十字靭帯断裂と半月板損傷の診断を受け、長期離脱を強いられることとなった。
「ちょうどリーグ中断期間でチームメイトの多くがJリーグの練習参加でいないなかで、ちょっと焦りがあった状態での怪我だったので、しばらくは『俺は一体何をしているんだろう』と呆然としていました。もう落ち込むところまで落ち込みました」
切り替えることは簡単ではなかったが、手術後に故郷である新潟に戻って家族や友人たちと会い、いろいろな話をするなかで「復帰したらもっといいプレーを見せられるようにしないといけない」と使命感が生まれてきた。
新潟でリハビリをスタートさせ、筑波大に戻ってきてからは上村孝弘トレーナーと徹底して肉体改造に取り組んだ。
「もう『これは最初から与えられた試練だった』と思って、自分が課題と感じていたことを洗い出して、上村さんとピラティスやコアトレーニングなどを含めて、自分の身体操作や強度の部分を改善するためにしっかりとメニューをこなしながら、自分の身体に向き合いました」
今では筋力的には復帰できるレベルまで引き上げることができたが、まだ復帰は先だ。冒頭のコメントにもあったように、プレーする仲間への羨ましさと励まされている気持ちが同居する中で、彼は将来のためとチームのために顔を上げている。
「毎日リハビリを全力でやっている姿を見せたら、誰かが『あいつも頑張っているんだから、俺も頑張ろう』と思ってくれるかもしれない。だからこそ、リハビリも応援も全力でやる。僕にとって筑波大は大切な場所で、筑波大は優勝するチームであるべきだと思う。(戸田)伊吹(ヘッドコーチ)くんを優勝させたいし、みんなで喜び合いたい。その上で、僕は来年、王者のチームの一員としてピッチに立ちたいです」
練習でみんなの前で自分の思いを伝える機会もあった。ピッチには立てないが、彼はチームにとって大事な戦力であり、かけがえのない存在であることを仲間たちも理解している。
「この思いは将来、絶対に役に立つと思う。まずは国士舘大戦、スタンドから精一杯の声を出して勝ちたいです」
廣井の思いは常にピッチ上の仲間たちとともにある。あふれる思いを声に変えて、決戦に挑もうとしている。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。


















