欧州名門は「ステップアップが難しいクラブ」 日本人の初挑戦には不向き…貫く“真逆の姿勢”

セルティックのロジャーズ監督は成績不振で辞任した
現在4人の日本人選手を保有するセルティックだが、ヨーロッパリーグ第3節のシュトルム・グラーツ戦でプレーをしたのは旗手怜央ただ一人だった。故障中の前田大然はスタンドから観戦し、今シーズン加入の山田新、稲村隼翔は、いずれも大会の登録から外されていた。ブレンダン・ロジャーズ監督は成績不振により辞任したが、新加入の2人が評価を覆せるかは未知数だ。
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かつてJリーグで横浜F・マリノスを優勝に導いたアンジェ・ポステコグルー監督が着任したこともあり、セルティックには一時6人もの日本人選手たちが在籍することになった。だがその後の彼らの推移を辿れば、必ずしも順風満帆な選手生活を送れているとは言い難い。セルティックで伝説を築いた古橋享梧は、4シーズンで63ゴールを積み上げたが、結局30歳でフランス1部レンヌへ移籍。さらに今シーズンはイングランド2部のバーミンガムと契約をしたが、セルティックを離れてからリーグ戦ではゴールがない。また前田大然は、昨シーズン公式戦通算で33ゴールと大ブレイクを遂げ、旗手も3シーズン半にわたりコンスタントな貢献を果たしてきたが、希望通りの移籍は実現していない。
一方、JリーグMVPの実績を持つ岩田智輝は、セルティックを離れるとイングランド3部(当時)のバーミンガム、1シーズン半でリーグ戦6試合の出場に止まった小林友希は、ポルトガル2部(当時)のポルティモネンセへ移籍することになった。
2年前に本サイトでは、現在オーストリアのザンクト・ペルテンでテクニカル・ダイレクターとアカデミー・ダイレクターを兼任するモラス雅輝氏のコメントを紹介した。
「セルティックは確かに素晴らしい伝統を持つクラブなので、日本人選手たちが移籍できたことも素晴らしい。しかし選手を売って利益を得るより、常に勝ち続けることを宿命づけられています。当然移籍金も高く設定されており、欧州では次のステップアップが難しいクラブとして知れ渡っています」
つまりセルティックは、多くの日本人選手が欧州への登竜門として移籍していくオランダ、ベルギー以下のクラブとは、真逆の姿勢を貫いている。英国圏でイングランドに先駆けて欧州制覇を成し遂げた名門は、今勝ち続けることを最優先するので、チームの看板選手は売却するのではなく引き留めておくことが使命になる。
例えば、同じように日本人選手たちの登竜門として活用されているシント=トロイデンなどは、長く居座るのでなくステップアップしていくことを奨励されている。冨安健洋に始まり遠藤航、鎌田大地、鈴木彩艶らは、いずれも短期間で5大リーグへと羽ばたいていった。育った選手がステップアップしていくことが、そのままクラブの利益につながった。
だがセルティックは、未来への投資ではなく目の前の勝利へと邁進する。かつて世紀を跨ぎ7シーズンで174ゴールを量産したヘンリク・ラーション(スウェーデン代表)というレジェンドがいた。ラーションは25歳で加入すると、セルティックからバルセロナのユニフォームに着替えることになったのは32歳の時だった。また中村俊輔が活躍したのも20歳代後半の円熟期で、むしろクラブは選手として最盛期に入る即戦力を求めており、逆に育成の猶予は与えてくれない。そういう意味ではプロ入り1年目の稲村のような有望株の選択としては、あまり適切とは言えなかったかもしれない。
セルティックは、スコットランドでは至高のクラブだ。だからタイトル獲得や、CLやEL出場の機会に恵まれる可能性は高い。しかしくれぐれもその先のステップアップを目指すのに適した場所ではない。もしそれ以上の高みを見据えるなら、別ルートから挑戦する方が賢明かもしれない。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)

加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。






















