前回大会は「僕のせいで負けた」 悪夢の一発退場…乗り越えた173センチの守護神「証明ができるように」

帝京大可児高の水野稜【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
帝京大可児高の水野稜【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

帝京大可児高のGK水野稜「あの経験があったからこそ、精神的に強くなった」

 悪夢の瞬間だった。第103回全国高校サッカー選手権大会3回戦、駒沢陸上競技場で行われた前橋育英高校vs帝京大可児高校の一戦。帝京大可児は立ち上がりに2失点を喫するが、前半27分に2-2の同点に追いついた。この勢いのまま一気に逆転へ。そう思っていた同33分、前橋育英のロングボールが帝京大可児のハイラインの裏に届くと、抜け出した相手FW平林尊琉をペナルティーエリア外まで飛び出したGK水野稜が倒してしまった。その瞬間、主審の笛が鳴り響き、水野には決定的な得点機会の阻止としてレッドカードが提示されてしまった。

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 ショックのあまり号泣をしながらピッチを後にする水野。多くの選手、スタッフが励ましの声をかけるが、あふれる涙は止まらなかった。10人になったチームは試合終盤まで前橋育英の攻撃を凌ぎ、逆にカウンターからチャンスをいくつか作るも決められず。後半36分に痛恨の勝ち越し弾を浴びて2-3の敗戦を喫した。

 あれから9か月。水野は絶対的な守護神としてチームを牽引している。10月11日に行われたプリンスリーグ東海・第14節の富士市立戦(4-1)で勝利に貢献した後に話を聞くと、あの時の悪夢をこう振り返った。

「正直、僕のせいで負けたと思っているので、先輩たちに申し訳ない気持ちが強かったです。あのシーン、飛び出す時に一瞬だけ迷いがあったんです。ボールが裏のスペースに出た瞬間は出るべきタイミングだと思って出たのですが、次の瞬間に『せっかく2-2になってこれ以上は絶対に失点したくない』と思ってしまい、そこでセーフティーに待つのか、チャレンジしに行くべきなのかを少し考えてしまった。結果的にはそのまま飛び出して行ったのですが、あの一瞬の迷いが出るべきタイミングを出るべきではないタイミングに変えてしまいました」

 状況が状況だっただけにあのシーンは本当に難しい判断だった。飛び出した際に迷いが生じてしまうのも理解できる。だが、勝負の世界は残酷なもので、その一瞬の迷いが命取りになる。

 起こってしまったことはもう取り返せない。大事なのはこの悪夢を引きずるのではなく、前を向いて次に向かって歩み続けること。失敗は誰もがあることだからこそ、その後の「リバウンドメンタリティー」が重要になってくる。水野はそこもしっかりと理解していた。

「あの時、チームメイトや仲井(正剛)監督からも『気にするな』と励ましの声をいただいたので、ここで変に自信を失わないようにしないといけないと思いました。僕はサイズがない(173センチ)からこそ、自分の特徴である守備範囲の広さをもっと伸ばして、新チームから勝利に貢献していこうと強く思いました」

 GKが自信を失ったらチームの根幹が崩れる。それだけGKというポジションは重い。だからこそ、自分の武器を出さないと、その重みに耐えられる選手にはなれない。

 特に帝京大可児のサッカーの最大の魅力は攻撃にあり、コンパクトな陣形からボランチや最終ラインから縦パスを積極的に送り込み、そこからアタッカー陣が2列目以降のサポートを受けて、最終ラインをドリブルやワンタッチパスで切り崩して行く。

 ラインが高くなる分、GKが機動力とキックセンスを駆使して、広範囲のスペースをカバーしないといけない。裏を返せば、前橋育英戦のような現象は起こる可能性は高い。だからこそ、あの悪夢でいつまでも下を見ていたら帝京大可児のGKは務まらない。

「帝京大可児の良さを出すために、僕がしっかりと自信を持って背後を守る。そこはより強い気持ちを持つようになりました。特に今年は昨年の経験者がチームを引っ張っていかないといけないと思っているので、強気な姿勢を持つことを大事にしています」

 ここからいよいよ選手権岐阜県予選が始まる。水野にとってはリベンジの大会だ。

「とにかく勝ちたいです。勝ちたいが一番強いです。駒沢陸上競技場に借りを残してきたので、できれば駒沢で試合をしたいですが、まずは出場すること。予選の1試合1試合を大事に戦いたいと思っています。あの経験があったからこそ、精神的に強くなったと思っているので、その証明ができるようにしたいと思います」

 失敗は人を強くする。水野は決意新たにチームの守護神としての存在感を研ぎ澄ませている。

(FOOTBALL ZONE編集部)

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