名手ベッカムを彷彿の一撃クロス 無から決定機を演出…森保J最大の武器となる”必殺技”

伊東純也のクロスに脚光【写真:徳原隆元】
伊東純也のクロスに脚光【写真:徳原隆元】

伊東純也のクロスで何度もチャンスを演出

 日本代表は10月シリーズでパラグアイ代表(2-2)、ブラジル代表(3-2)と対戦し、1勝1分で終えた。パラグアイ戦の同点アシストに続き、ブラジル戦でも2つのアシスト。伊東純也のクロスボールは冴えわたっていた。

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 伊東のクロスボールが優れているのは、精度だけでなく速度があること。

 正確でも速度が遅いクロスボールはDFが対応しやすい。ボールの到達までに時間がかかれば味方も合わせやすいがDFも準備ができる。ゴール前の味方が完全にフリーになっているか、圧倒的に競り合いに強い選手がいれば別だが、正確でも遅いクロスは得点になりにくい。

 一方、速度があっても精度がなければやはり得点にはなりにくい。クロスボールが速いためにクリアミスが起こる、あるいは偶然でも味方と合えば点につながることもあるので、速度だけでも守備側には脅威を与えられるけれどもベストではない。

 精度と速度の接点。伊東のクロスボールは精度を損なわず、なおかつ速い。さらにカーブもかけられる。高低もコントロールできる。蹴り入れるたびに得点の匂いのするクロスボールになっている。

 稀代のクロッサーとして名高いデイビッド・ベッカムがマンチェスター・ユナイテッドのトップチームに抜擢されたのは、クロスボールを買われてのことだったという。

 若手のベッカムは当時ユナイテッドのエースだったエリック・カントナのシュート練習に付き合わされていた。ベッカムのクロスをカントナがシュートする。後にベッカムはカントナのシュート練習について「お金をとれるレベル」と称賛していたが、クラブハウスから練習を眺めていたアレックス・ファーガソン監督は速くて正確なクロスに着目したという。

 ベッカムのクロスボールのスピードは体重移動によって生み出されていた。体の軸を左に傾けながら、ひねりの遠心力をボールに集約させる。足首に近い反発力の強い部分でのインパクトも強さと精度の両面に作用している。筋力ではなくパワーの使い方で球威を出していて、インパクトまでがすべてなのでフォロースルーはほぼない。ボールのある場所に足を置いて押し出すような格好の蹴り方だった。

 伊東のクロスの球筋はベッカムとよく似ているが蹴り方は同じではない。ウエイトの載せ方よりインパクトの強さで蹴っている感じ。体の傾きは少なく、フォロースルーもあったりなかったり。蹴った後に軸足が前方にズズッと動いている時もあって、何らかの体重移動を上手く使っているようだが、見た目には正直よくわからない。

 ともあれ、伊東のキックは正確で速い。縦に速いドリブルが印象的だったが、最近はむしろクロッサーになっている。少しでもDFとの間合いがあれば巻いていく軌道でクロスを供給できてしまう。それでいてベッカムにはなかった足の速さがあるので、クロスとみせて縦へのドリブルで置き去りにすることもできる。

 ブラジル戦では、久保建英と堂安律がドリブル突破からチャンスを作っていた。ゴールライン際まで食い込んでのクロスは形としては決定的だったが、DFにコースを読まれて遮断されていた。一方、外から殴りつけるような伊東のクロスはさほどチャンスとも見えない状況から決定機を生み出している。語弊があるかもしれないが、楽にチャンスを作れてしまう。キックの質を使っての問答無用のチャンスメークだ。スタッド・ランスで両翼を担っていた中村敬斗に上田綺世というターゲットが加わり、日本代表の必殺技的な武器になっている。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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