ベンチ外続くカズ「大した話はしていないよ」 4か月ぶり勝利…同僚が実感した”言葉の重み”

試合後、円陣を組んでカズの話を聞く鈴鹿の選手たち【写真:荻島弘一】
試合後、円陣を組んでカズの話を聞く鈴鹿の選手たち【写真:荻島弘一】

アトレチコ鈴鹿が12試合ぶりの勝利

 JFLのアトレチコ鈴鹿が12試合ぶりの勝利をあげた。13位に低迷する鈴鹿は13日、ホームのAGF鈴鹿で4位の沖縄SVと対戦。開始直後に先制点をあげると後半に追加点、課題だった終盤も粘り強い守備で乗り切り2-0で4カ月ぶりの白星を手にした。

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 負傷で戦列を離れているFWカズ(三浦知良、58)が、チームの勝利に貢献した。1点のリードで迎えた後半の給水タイム、主将のFW福元友哉(26)に声をかける。「苦しい時間帯だけど、集中して守ろう」。この日開始2分に左クロスに合わせて先制点を奪ったエースは、チーム全体に伝え、自らもDFラインまで下がって体を張った。最後まで気持ちが切れることなく11試合ぶりの完封。チームは貴重な勝ち点3を手にした。

「少し声をかけただけ。大した話はしていないよ」とカズは話したが、福元は「いろいろと経験しているから、カズさんの言葉は重みが違う。すぐにチームメートと共有して、集中することができました」。バラバラになりかけていた選手たちが積極的に「守る」ことで1つになった。相手ゴール前の混戦から追加点も奪い、最後まで集中を切らさず逃げ切った。

 長いトンネルだった。シーズン序盤こそ白星先行で上位を狙える位置につけたが、6月15日の12節YSCC戦に勝ったのを最後に勝利から見放された。13節のヴェルスパ大分戦で引き分けたのを皮切りに、前節のラインメール青森戦まで11試合で3分け8敗。試合終盤に判で押したように失点し、勝ち試合を引き分け、引き分ける試合で星を落とした。気がつけば地域リーグ降格圏の15位まで勝ち点1差と崖っぷちだった。

 勝ち星から遠ざかっている間に、チームも揺れた。「顔」としても期待されるカズは右足首の負傷で長期離脱。J3クラブライセンスもスタジアム照明の問題で交付が認められず継続審議となった。ライセンスは来季再申請を目指す予定だが、仮にJFLから地域リーグに降格すればJリーグへの挑戦権さえ失うことになる。後のない戦いが続いていた。

「きっかけが欲しい」と力なく話していた山本富士雄監督は、12試合ぶりの勝利にようやく安堵の表情。「立ち上がりから受け身にならず積極的に前に出るという選手たちの考えが実った。いい勝利でした」と話した。もっとも、降格のピンチを完全に脱したわけではない。「1勝で満足と言うことはない。次の試合が大切」と気を引き締めた。

 もちろん、思いは選手も同じだ。福元主将は「J3昇格を目指してシーズンをスタートしたのに、残留争いしているのが現状。今日勝ったからと言って喜んではいられない。残留すればいいというのではない。来季につながる試合をしないと」と厳しい表情で言った。カズも「まだ1試合、次が大事になる」と話した。

 山本監督が「起爆剤」として期待しているカズの復帰は見通しが立っていない。チーム練習できるのは一部だけ。復帰時期について、本人も「分からない」と言った。「戻ってきて欲しいし、戻ってくることを期待している」と山本監督は話したが、カズ抜きの戦いは続く。

 勝利で勝ち点を24にした鈴鹿だが、順位は13位で変わらない。14位YSCC横浜(勝ち点21)、15位横河武蔵野FC(同21)、16位飛鳥FC(同19)で、地域リーグ降格圏の15位はすぐ下。残り6試合で、YSCCと飛鳥とは直接対決も残る。カズと鈴鹿の苦しい戦いは最終節の11月23日まで続く。

(荻島弘一/ Hirokazu Ogishima)



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荻島弘一

おぎしま・ひろかず/1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者として五輪競技を担当。サッカーは日本リーグ時代からJリーグ発足、日本代表などを取材する。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰。20年に同新聞社を退社。

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