プロ23年目も新たな発見「できることまだある」 同僚も驚愕の”タフさ”…同年代の活躍が「大きな刺激」

プロ23年目矢野貴章【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
プロ23年目矢野貴章【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

41歳で現役を続ける矢野貴章「まだまだ成長できる」

 日本代表として2010年の南アフリカ・ワールドカップにも出場し、ドイツ・ブンデスリーガのフライブルクでプレーをしたFW矢野貴章。41歳になった今でも現役を続ける大ベテランのキャリアについて話を聞いた。第2回は栃木SCで感じた「まだまだ成長できる」想いについて。(取材・文=元川悦子/全8回の第2回目)

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 1年でのJ2復帰を目指し、ラスト7試合に全てを賭けている栃木SC。J2自動昇格圏までは17ポイント差で、残り試合数を考えるとかなり厳しいが、J2昇格プレーオフ圏内は2ポイント差。まだまだ十分に可能性はあるはずだ。

 プロサッカー選手23年目の矢野がこのリーグで戦うのは今年が初めてだが、J3は着実にレベルが上がっている。かつてJ1で戦っていた選手も年々増えているし、2014年ブラジルワールドカップ(W杯)に参戦した斎藤学(アスルクラロ沼津)、2015年E-1選手権(武漢)に出場した武藤雄樹(SC相模原)、2019年E-1選手権(東京)に出場した川又堅碁(沼津)のような日の丸経験者も何人かいる。矢野もカテゴリーを落としながら、現役を続けている1人である。

「堅碁や学にしてもそうでしょうけど、みんな現状には満足していないし、『這い上がってやろう』という気持ちは絶対持っていると思います」と彼自身も語気を強める。

 とはいえ、年齢を重ねていくと、身体が思うように動かなくなったり、メンタル的に難しくなったりするケースは少なくない。矢野とともに2010年南アフリカW杯に挑んだ岡崎慎司(バサラ・マインツ監督)も、「怪我が続いて思ったようにプレーできなくなった」ことを引退理由に挙げていた。

 けれども、幸いにして矢野はフィジカル面に大きな問題を抱えてはいない。「今の環境でもできることはまだまだある」と貪欲さが増している様子だ。

「僕が栃木に来たのは2020年。36歳になった年でした。ご存知の通り、コロナ禍真っ只中でしたが、監督だった田坂さん(和昭=上武大学監督)の練習が物凄くきつかったんです。『こういう練習でも自分はまだやれるんだ』と自信を持てた。コロナ禍でリーグ戦が3か月間、中断になった後は連戦だったんですけど、そこでタフな戦いもできた。それも大きなプラスになりました。

 2022~23年は時崎さん(悠=FC東京トップコーチ)が監督でしたけど、その中でも試合に使ってもらえた。その後、2024年は最初、田中誠さん(鹿島トップコーチ)が監督で、途中から小林伸二さんに代わって現在に至っていますけど、ボールの受け方だったり、サッカーの考え方などいろいろ学ぶことが多かった。常に発見があって、探求心もどんどん増していくという日々ですね」と矢野は目を輝かせる。

 その積み重ねが、Jリーグ通算616試合出場・74ゴール(9月23日現在)なのだろう。J1で600試合以上の出場記録を持っているのは、遠藤保仁(ガンバ大阪トップコーチ=672試合)、西川周作(浦和=653試合)、楢崎正剛(名古屋GKコーチ=631試合)の3人だけ。矢野の場合はJ1~J3まで幅広いカテゴリーの数字ではあるが、彼らと並ぶくらいの価値があるのは確かだ。

 加えて言うと、40代まで現役を続けること自体、簡単なことではない。2025年Jリーグで40オーバーの選手は10人以下。J1は矢野と同じ84年生まれの中島裕希(町田)と85年生まれの千葉和彦(新潟)、チョン・ソンリョン(川崎)の3人のみ。J2も現時点での最年長プレーヤーである45歳の山本英臣(甲府)、83年生まれの川島永嗣(磐田)ら数人だけだ。

「中島裕希や菅野(孝憲=札幌)は同い年ですけど、そういう選手が頑張っている姿を見ると、本当に励みになりますし、大きな刺激を受けています。

 少し年下になりますけど、一緒に南アW杯に行った長友(佑都=FC東京)なんかはまだ代表に居続けている(笑)。そういう異次元の選手もいますし、負けられないなという気持ちが高まってきます。今はできる限り、サッカー選手であり続けたいと思っています」と彼は偽らざる胸の内を吐露した。

 そのためにも、栃木SCのJ2復帰に貢献することが最優先。残りカードを見ると、10月19日には首位・ヴァンラーレ八戸とのアウェー戦が控えているし、プレーオフ圏内に位置しているFC大阪や鹿児島ユナイテッドFCとの試合もある。この段階になれば、全ての試合が難しくなるが、それを乗り越えるしか、彼らの1年でのJ2復帰、そして矢野貴章の2部返り咲きはあり得ない。ここからが本当の勝負になるのは間違いないだろう。

 ストライカーである以上、もちろん求められるのは得点だ。取材日だった9月17日も35度越えの猛暑の中、矢野は全体練習が終わった後、真っ先にボールを持ってゴール前に向かい、自主的に何本もシュートを打っていた。それが終わった後には筋トレも入念に実施したというから驚きだ。

 そんなひたむきな姿勢を目の当たりにする同僚の棚橋尭士は「貴章さんは根本的なフィジカルが違うのか、本当にタフですね。僕は徳島(ヴォルティス)からレンタルで来ましたけど、栃木SCの練習はメチャクチャキツい。僕は何度か怪我でリハビリを強いられましたけど、貴章さんは今季一度も離脱していない。そのうえ、ああやって自主練までこなすんですから、本当に信じられないです」と目を丸くしていた。

 矢野にしてみれば「そのくらいやらないと上のカテゴリーには上がれない」ということなのだろうが、そういう40代プレーヤーがいれば、栃木SCの若手選手は誰もサボれない。高度なプロ意識を示し続け、在籍6年目のクラブを再び引き上げられれば、彼のキャリアも充実したものになる。2025年シーズンの終盤戦は、栃木SCの背番号29から目が離せない。(第3回に続く)

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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