W杯まで8か月、選手も危機感「バラバラに」 ブラジル戦へ急務の守備改善「全く達していない」

W杯出場国相手に勝利できず
冨安健洋(無所属)、町田浩樹(ホッフェンハイム)、伊藤洋輝(バイエルン)ら主力級DFが相次いで離脱している日本代表。9月のアメリカ遠征では、メキシコ戦(オークランド)は何とかクリーンシートを達成したが、続くアメリカ戦(コロンバス)は2失点完敗。守備改善が急務の課題となっていた。
【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!
迎えた10月10日のパラグアイ戦(吹田)。森保一監督も本気で勝ちに行くため、GKには正守護神の鈴木彩艶(パルマ)を抜擢。ボランチにもボール奪取力とデュエルの強さに定評のある高い佐野海舟(マインツ)をスタメン起用するなど、意識的に守備力向上に取り組んだ。
最終ラインも瀬古歩夢(ル・アーヴル)と渡辺剛(フェイエノールト)というメキシコ戦で堅守を見せた2人を右と中央に配し、左DFには新進気鋭の22歳・鈴木淳之介(コペンハーゲン)を起用した。指揮官の中では「この3人なら守り切れる」という信頼があったのかもしれない。
ところが、前半の日本はプレスがハマらず、いい守備からいい攻撃を思うように繰り出せずに苦しんだ。そして前半21分にはいち早く失点してしまう。
このシーンを振り返ると、相手ボランチのアンドレス・クバス(14番)と左サイドバック(SB)のジュニオール・アロンソ(6番)のパス交換を経て、中央にいたもう1人のボランチ、ダミアン・ボバディージャ(16番)にボールが渡った。その際、日本は誰もプレスに行くことができず、ボバディージャは狙い済まして日本の5バックの背後に浮き球のパスを供給した。
次の瞬間、2トップ気味の位置に陣取っていた左MFミゲル・アルミロンが瀬古と渡辺の間に侵入。瀬古はオフサイドだと判断して手を挙げたが、レフェリーはプレーを流し、そのまま絶妙トラップから左足シュートを決めるに至った。
「あれはもう自分がついていかないとダメだった。ラインを止めたので、そこは悔やまれるシーンですし、自分の責任。本当にチームに迷惑をかけたなと思います」と瀬古は猛省していたが、W杯常連国とのゲームでセルフジャッジが厳禁だということを、彼はアンダー世代からの代表経験を通して分かっていたはず。しかも、今は欧州5大リーグでプレーしているのだから、1つの判断ミスが命取りになるという緊迫感の中で戦っている。その経験を代表戦で還元してほしかっただけに、本当にこれは残念だった。
1失点目から5分後、日本は小川航基(NECナイメンヘン)の強烈シュートで1−1に追いつき、前半が終了。後半も攻撃のギアを上げようとしていたが、その矢先に2失点目を献上してしまう。
そのシーンは後半19分。中盤でボールを受けたディエゴ・ゴンザレス(7番)に鈴木淳之介がアタックに行ったところを裏に通され、ディエゴ・ゴメス(8番)が前にグイグイと持ち込んだ。ここではいったん田中碧(リーズ)が戻って体を当て、シュートを阻止したが、右サイドに上がっていたファン・カセレス(4番)がボールを拾い、精度の高いクロスを中へ供給する。そこに飛び込んだディエゴ・ゴメスがピンポイントヘッドで合わせ、見事なまでにゴールをもぎ取ったのである。
「ガチャっと抑えられればよかったですけど、股を遠ったところも含めて、距離感の問題だと思うので。1メートルのこだわりとか、その辺はもっとやっていかないといけない」と鈴木淳之介が反省すれば、ヘディングで競り勝てなかった渡辺は「もうちょい相手に体を当てるなり、完全にヘディングをさせないような対応すべきだったなと自分は思っています」と改善点を口にした。
渡辺はヘッドに至る前のところにも言及。「自分の前に選手がいたところで、自分としてもクロスのタイミングでつぶしに行こうと思ったんですけど、まず、ボールホルダーにプレスをかけられなかった。1失点目もそうですけど、ボールホルダーがフリーになると、あのレベルの選手だったらクオリティの高いクロスを上げてきますから」と語っていて、フィニッシュの1つ前、2つ前、3つ前から修正していかなければいけないという自覚を示していた。
2失点はもちろん彼ら3バックだけの責任ではないが、最終ラインは最後の砦。彼らのところで防ぎきるだけの力をつけることが極めて重要になってくる。本大会まで8か月。その間に冨安や町田、伊藤が戻ってくる保証はないし、板倉滉(ボルシアMG)でさえも万全かどうかは分からない。だからこそ、パラグアイ戦に出た渡辺や瀬古らは一瞬のスキを見せないような対応力を磨くしかない。さしあたって次戦・ブラジル戦は高度な集中力を持って挑むことが肝要なのだ。
DF陣の読みや駆け引きはまず大切だが、それと同時にプレスのかからなかったチーム全体の問題点をしっかり再確認し、短期間で修正を図ることも必要不可欠なテーマだ。
「今日は全然プレスがハマっていなかったですね。相手が少し余裕を持ってボールを持つようになった時は結構バラバラに行っちゃってた感じがある。今日の感じだと、次のブラジル戦は大量に失点してしまうと思う。攻撃ももちろん大事ですけど、やっぱりいい守備からいい攻撃をしないと。失点していたら勝てる試合も勝てなくなる。まさに守備は自分たちの土台。今日はアベレージに全く達していなかったんで、そこを戻してしっかりやっていかないといけないと思います」と鎌田大地(クリスタル・パレス)もかなりの苦言を呈していた。
彼ら主力メンバーの中では「9月以降のW杯出場国相手のゲームで3戦未勝利」という厳しい現実が重くのしかかっているのだろう。「こんなに勝てなかったら、W杯優勝はもちろん、8強入りも難しい」という危機感が募ってきたからこそ、必死になって目の前の課題と向き合おうとしているのだ。
そういう真っすぐな姿勢は好感が持てるが、結果が出なければ、自信にはつながらない。次戦・ブラジル戦で白星を挙げるのは非常に高いハードルではあるが、果敢にアタックしていくしか、苦境打開の道はない。
ブラジル相手に大量ゴールを奪うのは簡単ではないとしたら、やはり失点をゼロに抑えるしか勝ち目がない。そのことを今一度、チーム全員で自覚して、14日の大一番に挑むべきだ。森保監督体制スタートから7年間、積み上げてきた日本代表の真価が問われるのはまさに今。今度こそ浮上のきっかけを掴んでもらいたい。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。




















