海外主審が主張「日本の審判は優しすぎる」 判定に不満も…交流プログラムの“意義”

バルトン主審の主張には「日本ですぐには馴染まない」との考え方を示した
今年も「審判交流プログラム」で多くの日本人審判が海外に派遣され、また多くの外国人審判が日本を訪れている。(取材・文=森 雅史)
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この制度が始まったのは2008年。最初はポーランドサッカー協会と3人ずつの審判員を派遣し合い、それぞれの国の国際試合やリーグなどを担当した。2009年からはさらにイングランド、パラグアイ、オーストラリア、カタール、アメリカ、ドイツ、メキシコ、サウジアラビア、インドネシアと交流する国を増やしてきた。
派遣された審判員は現地の試合を裁くだけではなく、インストラクターとして現地の審判員に知識を伝えている。日本の審判員がインストラクターとして招かれる場合もあれば、海外の審判が日本に知識を伝えるために来てもいる。そうやって審判員の技術向上を図っているのだ。
2024年に日本から海外に派遣された人数は審判員として16人、インストラクターとして3人が海を渡った。海外からは13人、1人のインストラクターが来日し、日本の審判員と交流している。
2025年も約20人の日本人審判が海外に派遣され、またここまでにさまざまな国からの審判15人が招かれており、さらに11月にはアメリカからも1人が来日予定だ。来日した審判員はドイツ1人、イングランド2人を除いて全員国際審判員。今後日本代表の試合で名前を見かけることがあるかもしれない。
このプログラムの目的は「日本サッカーの向上」。日本サッカーのレベルアップのためにいろいろな国の審判と交流することで技術を上げ、それが試合に反映されることによってプレーも国際基準になることを目指している。日本の審判はこれまで多くの国に受け入れてもらって、研鑽を積んできた。
また、ルールは世界共通でもやはり世界各国によって適用の仕方には差がある。その差を認識し、また相手の審判にも認識してもらうことも行われている。たとえば今年来日したドイツの審判は「日本はヨーロッパに比べてリスタートが早い」と、注意しなければいけない点を語っていたという。
他にもイバン・バルトン主審(2022年カタールワールドカップの日本vsドイツを担当)は、日本の審判は優しすぎると、もっと審判に対して異議を唱えたときはすぐに警告を出すべきだと主張した。ただ日本側は意見を理解しつつも「日本ですぐには馴染まない」と今までのように対話に時間を割く考え方を示したそうだ。
お互いの国のサッカーを審判員が理解することは、日本の選手たちが海外あるいは国際試合で活躍するために間違いなく必要となる。日本の中ではファウルにされる反則が流されることもあれば、その逆の可能性があるのを知っておくのは重要だろう。それに、たとえば日本チームが素早くリスタートしたとき、日本サッカーを理解している審判なら、その次のプレーにきちんと備えられるし、そのため正しい笛が期待できる。
そして理解しなければいけないのは、海外の審判だったとして、両チームが全て納得できる判定ができるというわけではないことだ。どんな審判でも、審判が主観によって判定を下していいサッカーでは不満が出ることはある。ルールどおりに笛を吹いても全員が心の底から納得することはないだろう。
たとえば9月23日、柏vs広島の試合で、広島が後半アディショナルタイムのCKを蹴る前に笛が吹かれた。広島のファンは納得できなかっただろうが、1978年アルゼンチンワールドカップを思い出した人もいたのではないだろうか。
1978年6月3日、優勝候補のブラジルは初戦でスウェーデンと対戦し、1-1でロスタイムにCKを得る。キッカーのネリーニョがボールをセットすると線審がコーナーアークを出ていると置き直した。だがネリーニョは納得せずもう一度自分でボールを同じような位置に置くと右足で蹴り、これをジーコがヘディングシュートで決めた。
ところがクライブ・トーマス主審はボールが空中にある間にタイムアップになったとしてゴールを認めず、結局試合は1-1の引き分けとなった。イングランドで笛を吹いていたトーマス主審はヨーロッパでも名高い一人だった。(※)
主審は時間が来れば笛を吹いて試合を終わらせる権限を持っている。そこで「さっき、さらにアディショナルタイムがあったからこのワンプレーだけ」と考えるのもサッカーだし、そう考えないのもサッカー。微妙なラインだが、そこは主審に委ねられている。
各チームは審判団に「依頼して来てもらっている」という立場である以上、その判断に従うことが前提だ。もちろん審判のいろいろな判定には間違いもあるだろう。だがそれを国籍を元に批判するようになってはいけない。昨シーズン、トルコ・フェネルバフチェのジョゼ・モウリーニョ前監督がトルコ人レフェリーに対する問題発言を繰り返し、何度も問題になった教訓を忘れてはならない。
【2025年に審判交流プログラムで来日した審判】
■ベルギー:ネイサン・フェルボーメン
■イングランド:エリオット・ベル、ハリソン・ブレア、メリッサ・バーギン、ロバート・ジョーンズ
■ポーランド:ウーカシュ・クジュマ、ダーヴィッド・ゴリス、ヤコブ・ヴィンクラー
■エルサルバドル:イバン・バルトン
■ドイツ:フロリアン・バドストゥーブナー、マルティン・ペーターセン
■カタール:モハメド・アハメド・E・E・モハメド
■サウジアラビア:ファイサル・スライマン・A・アルバラウィ、ファイサル・ナセル・R・アルカフタニ、イブラヒム・アブドゥラ・M・アルダヒル
※ブラジルはその後も低調な試合が続きクラウディオ・コウチーニョ監督の人形が燃やされたり、2次リーグでアルゼンチンに得失点差で敗れて進んだ3位決定戦では、1次リーグでアルゼンチンを破っていたイタリアに逆転勝利して少しだけ溜飲を下げたり、アルゼンチンはペルーに6-0で破るとブラジルを逆転して決勝戦に進出し、大会得点王とMVPに輝いたマリオ・ケンペスの活躍で初優勝したりといろいろあった大会だった。
(森雅史 / Masafumi Mori)

森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。





















