新星出現に必要な“差別化” 鍵は2つのカップ戦…日本サッカー界を加速させる方法

日本サッカー界の加速にカップ戦改革は必要か?(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】
日本サッカー界の加速にカップ戦改革は必要か?(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】

川崎と柏はルヴァンカップの準決勝でも対戦する

 J1リーグ第32節で唯一の上位対決となった川崎―柏は、互いに攻撃的なスタイルを標榜するチームらしくゴールの奪い合いとなり4-4で引き分けた。ただし「観る側は面白かったかもしれないけれど…」と、川崎の長谷部茂利監督は渋い表情を作った。結局6位までを占める他の上位5チームが全て勝利を飾っただけに、どちらにとってもリーグ制覇が遠退く痛恨の引き分けとなった。

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 実は両者は10月上旬にルヴァンカップの準決勝でも直接対決を控えているので、計3連戦となる。さらにホーム&アウェイの2試合で、どれだけのゴールが量産されるのか楽しみでもあるが、反面マンネリ感は否めない。もちろん欧州でも各国を代表するライバル同士なら、終盤にタイトルを賭けて再三戦うこともあるが、日本は戦国模様なのに3大タイトルの8強に顔を出したJ1以外のチームは、天皇杯の相模原だけだった。

 それでも柏のリカルド・ロドリゲス監督は「我々がこの時期に優勝争いをしているなどと誰が予想しただろうか。ルヴァンカップもリーグも最後まで諦めずに狙っていきたい」と語っており、川崎も合わせて両チームは現実的に狙える最後のタイトルとしてリーグカップ制覇に全力を尽くすはずだ。しかし裏返せば、カップ戦も終盤に入ると各チームともタイトル奪取に邁進するので、結果的には主力選手の過密度合が一層増すことになる。

 日本人はカップ戦が大好きだという見方もある。だが大好きなのはチャンピオンが決する決勝戦だけで、天皇杯もリーグカップも準決勝までは大きな観客動員を見込めない。また世界を見渡しても、カップ戦が2つも存在する国は、イングランド、ポルトガル、スコットランドなど少数派だ。欧州でもチャンピオンズリーグの試合が増え、他にヨーロッパリーグ、カンファレンスリーグが増設されるなど、過密化を危惧する声は少なくない。

 日本サッカーの大きな問題点は、どのカテゴリーでもチームの中核を成す選手たちばかりが試合過多で、それ以外の選手たちとの落差が大き過ぎることだ。かつて若手の登竜門的な見方をされていたリーグカップも、序盤は若いサブ組で戦い、準決勝以降に勝ち残ればベストメンバーに入れ替えてタイトルを奪いに行くようなケースも見て取れた。しかし本来、痺れるような厳しい試合経験を必要としているのは、成長過程の選手たちの方なのだ。せっかく勝ち抜いてきたなら、最後の晴れ舞台も彼らにプレーさせてこそ貴重な経験値として成長を促す。

 天皇杯優勝チームには、ACL(次回はACL2)への出場権が与えられるが、ルヴァンカップで得られるのは誇りと1億5000万円の賞金だけだ。それならこのカップ戦は、フレッシュで発展途上の選手たちのために提供する方が得策ではないだろうか。

 日本では大学、高校、ユースにも、それぞれ2つの全国選手権(カップ戦)が存在する。JFAはリーグ戦の重要性を説き新設整備してきたが、炎天下で過密なインターハイをはじめ、以前からのカップ戦を放置したままなので、育成過程の選手たちのスケジュールは過密化し、多くの中心選手たちの疲弊や故障を招いてしまっている。

 これ以上日程が過密化すれば選手たちの未来が危ぶまれるし、万全の状態でない中心選手たちのプレーを見せられるファンも不幸だ。どのカテゴリーにも2つのカップ戦は要らない。それならルヴァンカップはU-23世代に開放し、Jクラブと大学で土壌の違う選手たちが競い合う場にするなど、新しい意味を持つ大会へと改革を図って欲しい。J2やJ3にはオーバーエイジ枠でハンディをつけるなど工夫を凝らせば、新星の発掘も早まり流動性も高まるから、日本サッカーの活性化にも繋がるはずである。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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