エースでキャプテンの苦悩「本当に難しい」 重なった元日本代表の存在「全く僕と同じ」

興國高の3年生FW芋縄叶翔
エースストライカーでキャプテン。この2つをこなすのは非常に難しい。なぜならばストライカーは常にゴールを欲し、ゴールをイメージしながらプレーをして、一瞬の隙をものにしないといけない。だが、キャプテンは試合中に常に目と気を配り、プレーだけではなく、仲間を鼓舞する声や叱咤する声、そしてコミュニケーションが必要になってくる。
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この相反する仕事を同時にやろうとすればするほど、どちらかに影響が出る。興國高の3年生FW芋縄叶翔はまさに今、このパラドックスの前で葛藤をしている。
「本当にたくさんの部員(300人)がいる中でのキャプテンなので、全体に気を配ることが本当に難しいです。僕はFWである以上、ゴールを奪うことが1番の仕事なのですが、キャプテンとしても、このチームを引っ張っていかないといけないという立場なので、プレーだけではなく、言動、行動で周りに示さないといけないと思っています。ただ、ピッチではどうしても言葉や態度で引っ張るというより、ゴールを目指す背中で示していくしかないと思うので、FWとしての責務を全うしたいと思っているのですが、それだと伝わらないところも出てくるので、そこでも本当に難しさを感じています」
近年はこうした負担を減らすためにダブルキャプテン制を敷いたり、キャプテンと部長を分けてピッチ内外でのまとめ役を分けたり、工夫をするチームが出てきた。興國では副キャプテンなどが一緒になってリーダーシップを張ってくれている。
責任感の強い芋縄は今、いかに周りに頼りながらも、自分なりのリーダーシップを発揮し、ピッチではFWとしての責務をきっちり果たすための力の発揮の仕方を試行錯誤している。
「任せるところは任せて、ピッチ内外でやるべきところはやる。そこのメリハリは意識しています」
大事な一戦で決勝弾
9月23日に行われたプリンスリーグ関西1部・第14節の東山戦。第13節の近江戦から中2日の連戦という影響で、芋縄はベンチスタートとなった。そして、1-1で迎えた後半頭から投入されると、前線からの激しいプレスと、足元で受けてからのターンやテクニックを生かしたボールキープとパス、そして裏への抜け出しを駆使して攻撃を活性化。
2-2で迎えた87分には左サイドのポゼッションに関わりながらも、バックパスをした瞬間に中央のハーフスペースに潜り込んでから、MF樺山文代志が深い位置でボールを持った瞬間、一気にペナルティーエリア中央のスペースに走り込む。ここに樺山からゴールに向かっていくクロスが届き、頭でコースを変えてゴールに突き刺した。これが決勝弾となった。
「前半はキャプテンとしてメンバーを信頼しているので、全員に声をかけて、1-1で戻ってきた時は『後半は任せろ』と言いました。その上で前半見ていて感じたもっと前でボールを収めて落ち着かせないと、攻撃のリズムは生まれないと思ったことをプレーで実践しようと。収める力は僕の武器だし、収めて周りに散らした上で、最後は僕がゴール前に入って仕留める力も武器なので、そこを45分間でフルに発揮しようと思いました。ゴールシーンは樺山と目が合ったので、相手の死角に入りながら『ここしかない』と思って飛び込んだら、あとは触るだけのいいボールが来たので、樺山に感謝です」
この試合、ストライカーとしての仕事とキャプテンとしての仕事をきちんとやってのけていた。「まだ悩んでいる部分はあります」と口にする彼を見て、岡崎慎司の高校時代を思い出した。
岡崎慎司もエース、キャプテンとしてチームを牽引
岡崎も滝川第二高時代にエースストライカーとキャプテンの両方を託されていて、どんな隙をも見逃さないストライカーとしての本能と、全体を見て気を配らないといけないキャプテンの責務との間に葛藤を抱えていた。
だが、彼は最終的に「ピッチでは誰よりもゴールを狙って、『どんなボールでも決める』という気持ちを持って背中で示すプレーして、ピッチ外では誰よりも周りを見て、盛り上げたり、時には厳しく言ったりと、立ち振る舞いで示していく」と2つの大役を最後までやり抜き、プロのステージまで駆け上がって行った。
その話を彼にすると、「全く僕の抱えているものと同じです。逆にいえば、ここで整理してプレーや立ち振る舞うことができたら、絶対に成長できるということですね」とこれまでの少しこわばっていた表情からようやく笑顔があふれた。
「僕は試合中に常に中盤以降の選手に自分の動きを見てもらえるように、顔を出し続けるプレーを意識しているんです。出し手と目を合わせたり、味方が出しやすい場所にいたりすることで、立ち位置を合わせられるし、自分が欲しいタイミングでボールが来る。仮にそこで受けられなくても、相手は僕を意識してくるので周りは空くし、3人目の動きで関われたりするので、そこは常に連続してプレーし続けることは大事にしています。だからこそ、そこで変な雑念を入れずに、『このプレーをやり続けることが、結果としてチームを引っ張ることになる』と信じてこれからやっていきたいと思います」
東山戦は彼にとって大きな手応えを得ることができた一戦となった。翌第15節では神戸弘陵に2-1で勝利を収め、これでチームは首位・阪南大高と勝ち点差3の5位に浮上し、プレミアリーグ昇格プレーオフ圏内(2位以内)も見えてきた。
「ここからです。僕は大学進学しますが、大学経由でプロになるために今、この成長できるチャンスを大事にして、残りのリーグ、選手権予選を戦って、参入戦、選手権の本戦に出場できるようにFWとしてもキャプテンとしても全力でやっていきたいです」
岡崎慎司のようにピッチではとてつもない貪欲さを持ちながら、ピッチ外では冷静にチームファーストで動く。これはサッカー選手としてだけではなく、人としても彼を大きく成長させていくだろう。
(FOOTBALL ZONE編集部)



















