本職は大学教員も…「自分はプロの審判員」 中国人主審が体感、Jリーグで求められる2つのこと

中国からやってきたフー・ミン主審「本職は大学教員です」
今年、日本サッカー協会審判部が行っている「交流プログラム」とは別に、アジアトップクラスのレフェリーであるフー・ミン(傅明)氏が来日してJリーグで笛を吹いている。フー・ミン氏はなぜ東京都サッカー協会に所属を移したのか、そしてフー・ミン氏から見たJリーグの特徴は何か聞いた。(取材・文=森 雅史/全2回の2回目)
【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!
——中国ではどんな立場だったのですか?
本職は大学教員です。ですが自分自身をプロの審判員と思って活動しています。唯一の違いは給与明細だけですね。
プロ意識がなければ、今のレベルには到達できませんでした。自分のキャリアで最も誇りに思っているのは、トップレベルの国際大会で審判を務めたことです。アジアカップ、アジアチャンピオンズリーグ、東京五輪、U-17・U-20ワールドカップ、そして2025FIFAクラブワールドカップなど、最も貴重で忘れられない経験となりました。
——「アジアを代表する審判員の1人」と言われることについては?
それは過去の栄光です。常に次の試合で最高のパフォーマンスを発揮することに集中しています。過去の成果が未来の成功を保証するわけではないのです。
それに審判はスターではありません。審判員は単にサッカーに奉仕する労働者に過ぎないのです。そして審判業務にはチームワークが不可欠です。単独での成功はありえないですね。
——大学ではどんなことを教えているのですか?
首都体育大学で審判育成に携わって、理論と実践を融合させることで審判システムに新たな人材を継続的に送り出しています。審判を職業として選ぶ若者が増えつつあります。
また、若い選手たちにはプレーや練習の中でルールを学ぶよう勧めています。技術や戦術も重要ですが、ルールを理解することでより良い準備ができ、賢く戦い、最終的に効果的に勝利を収められるからです。
——「審判」というのはどんな役割なのでしょうか
もし審判の立場になったら、この役割がいかに挑戦的でありながら同時に魅力的であるかを理解すると思います。審判は常に難しい判断を下さねばなりません。この仕事は要求が厳しいだけでなく、個人の試練でもあります。
私が審判を務めた最初の日から、評価されることが始まりました。試合のたびに評価者が私のパフォーマンスを採点し、それが直接将来に影響します。私は何度も自分を証明しなければならなりませんでした。
幸い、私は各試験に合格し、着実に現在の地位まで昇進することができました。私がこの職業を続けたのは、審判という道を自ら選んだからというだけでなく、多くの意味でこの職業が私を選んだからだとも思っています。
——日本に活動の拠点を移したのはなぜなのでしょうか
早稲田大学のコーチング心理学博士課程に合格したので日本に来ました。私にとって研究と学問は、自己成長のための貴重な機会です。
渡日前に、この決断を家族と中国サッカー協会(CFA)と話し合いました。幸い、みんな私が日本で学問と審判の両方を追求することを支持してくれました。FIFAとAFCも私の選択を理解し、支援を表明してくれました。
そして中国サッカー協会の承認と調整により、日本サッカー協会への登録、審査を経てJリーグでの審判活動を開始できました。同時に中国出身の国際審判員として、国際大会と国内大会の両方で責任を果たしています。
——日本サッカー協会の対応はどうでしたか?
日本サッカー協会には、Jリーグで審判を務め、日本の地で笛を吹く機会を与えてくれてとても感謝しています。もっとも厳密に言えば、私は仕事でここにいるわけではありません。むしろ「留学中のアルバイト」のようなものです。
——実際に笛を吹いてみてJリーグはどんな印象ですか?
Jリーグはハイペースで、選手たちは高い集中力を維持しています。ですから審判は迅速な判断と戦術の予測が求められます。
J1の20クラブは実力が拮抗しており、J2の上位チームも非常に競争力が高いと思います。そして日本の選手は判定によって集中力を乱されることは稀で、すぐに試合に戻ります。
J1とJ2の両方の試合を審判する機会を得られたことは、日本のサッカーを内部から深く体験できてとてもうれしく思いました。審判業務以外にも、トレーニングセッションやセミナーに参加し、日本の審判員と共に教育を受けることもできて、これは私にとって非常に有益でした。
——卒業したらどうするのですか?
中国に戻り、大学教員としての仕事を続けます。加えて、大学や北京サッカー協会での審判教育にも継続的に貢献し、経験を次世代の審判員に伝えていきます。
10年先を見据えた長期計画は立てていませんが、毎年、そして毎試合、全力を尽くすことを誓います。審判員としての使命は、常に一試合一試合に全力を尽くすことです。どんな大会であれ、入念な準備と真摯な姿勢で臨み、最高水準で任務を完遂するよう努めなければなりません。それから「いつかFIFAワールドカップで審判を務める」という夢を抱いています。
(森雅史 / Masafumi Mori)

森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。





















