試合中に突如“四つん這い”「すべてが変わった」 優勝争い牽引…取り入れた“ゆるトレ”「直感でこれかな」

京都の原大智【写真:柳瀬心祐】
京都の原大智【写真:柳瀬心祐】

京都の躍進を指せるFW原大智

 大混戦となっているJ1戦線で京都サンガF.C.のFW原大智が異彩を放っている。23日のFC町田ゼルビアとの大一番の試合終了間際に、引き分けをもぎ取る起死回生のPKを決めてチームを優勝争いに踏み止まらせただけではない。身長191センチ・体重84キロの巨躯ながら、過酷な夏場を含めて攻守両面で前線を泥臭く、献身的に走り回る無尽蔵のスタミナ。その原動力となってきた「ゆるトレーニング」とは一体何なのか。(取材・文=藤江直人)

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 Jリーグが公式ホームページ上で随時公表している選手スタッツの「空中戦勝利数」で、通算173勝をマークしてトップに立っているのが京都サンガF.C.のFW原大智だ。空中での競り合いで先にボールに触った選手が勝者としてカウントされるなかで、身長191センチ・体重84キロのサイズを誇る原のスタッツは説得力がある。

 一方で原はもうひとつの武器をその巨躯に搭載している。J1リーグ戦で左ウイングとして先発した27試合のうち20試合でフル出場。京都の攻撃陣で断トツの数字を残すだけでなく、20試合のなかで総走行距離が10kmに到達しなかった試合、そしてスプリント総数がひと桁で終わった試合がともに「2」に留まっている。

 空中戦で無類の強さを誇る高さだけでなく、無尽蔵のスタミナを駆使してチームのために攻守両面で走り、戦う献身さをも兼ね備えるプレースタイルは、記録的な暑さが続いた夏場の戦いでもまったく変わらなかった。

 たとえば、キックオフ時の気温が30.6度、湿度が67%を計測、なおかつ無風と過酷な条件下でファジアーノ岡山に5-0で大勝した8月30日のJ1リーグ第28節。FWラファエル・エリアスの2ゴールをともにアシストし、自らも1ゴールをあげた原は、疲労の有無を問われると「疲れていますよ」と即答している。

「暑さもありますし、それでもこういう試合展開だといつもより走れると思うんですよね」

 この時点で9戦連続負けなし(7勝2分)で首位を走るチームの勢いにけん引されたと笑った原は、先発フル出場したなかでチーム2位の総走行距離11.069km、同2位タイのスプリント総数15をそれぞれマーク。前半終了間際に最前線で相手のボールホルダーを2度、3度と全力でチェイスした姿がスタンドを沸かせた。

 鬼気迫るハードワークだったと問われた原は、当然のプレーだと言わんばかりにこう続けている。

「曺さん(曺貴裁監督)から求められているプレーでもありますし、何よりもいまの京都がそれをやめたらサンガではなくなってしまうので。これからも続けていきたいと思っています」

プロ2年目で取り入れたゆるトレーニング

 過酷な消耗戦と化した今夏の戦いを含めて、シーズン終盤戦までコンディションを良好に保つために何か特別な調整や工夫をしてきたのか。原から帰ってきたのは聞き慣れない言葉だった。

「自分は『ゆるトレーニング』というものをずっとやってきました」

 略して「ゆるトレ」と呼ばれる「ゆるトレーニング」に、クラブハウス内で原が取り組んでいる映像は、京都の公式YouTubeチャンネルでも公開されている。直立不動の姿勢から筋肉を弛緩させて、背骨や肩甲骨をはじめとする全身の骨をゆっくりと動かしていく原の後ろ姿からは、ちょっぴりシュールな感じが伝わってくる。

 この「ゆるトレーニング」を提唱した運動科学者の高岡英夫氏は2015年10月に、ライターの松井浩氏との共著で『日本人が世界一になるためのサッカーゆるトレーニング55』(KADOKAWA刊)を発表。目的として「通常のトレーニングの疲労を取り除きながら、体の使い方を世界基準に変えていく」と謳っている。

「僕自身、知り合いの紹介でたまたま高岡先生の本を読みました。筋トレを含めていろいろなトレーニングしてきたなかで、本当に直感で『これかな』と思ったというか、そういう運命的な出合いがありました」

 独自のトレーニングとの出合いをこう振り返った原は、FC東京の下部組織からトップチームに昇格して2年目の2019シーズンあたりから「ゆるトレーニング」を取り入れた。クロアチアやスペイン、ベルギーでプレーした2年半だけでなく、2023年7月に完全移籍で加入した京都でも継続させながらいま現在に至っている。

 昨シーズンの出場37試合、プレータイム3212分は、いずれもゴールキーパーを含めた京都の全選手で最多をマーク。今シーズンも好調を持続させ、国内組だけの陣容で臨んだ7月の東アジアE-1選手権を制した森保ジャパンにも追加招集。中国代表戦で代表デビューを果たし、韓国代表でも途中出場している。

「自分のなかでもプレースタイルを含めたすべてが変わったと思っていますし、身体の根本的な動きなど、いろいろと変わるトレーニングなので、自分の活躍を介して多くの選手に広めたいと思っています」

原のプレーからPK獲得につながった

 プレースタイルで変わった点とは、泥臭いハードワークにも筋力や体力をあてられるようになった点を指しているのだろう。いつでもどこでもできるトレーニングとあって、試合が途切れた合間に突如として四つん這いや寝転がった姿勢になり、おもむろに背骨や肩甲骨を動かす原に周囲が驚いたのも一度や二度ではない。

 チームメイトの平戸太貴が昨シーズンから原とともにトライしている「ゆるトレーニング」は、アカデミー出身の大卒ル-キーで、直近のFC町田ゼルビア戦で初先発した中野瑠馬にも最近になって伝授されている。

 その町田戦は敗色濃厚だった後半アディショナルタイム3分に原がPKを決めて同点に追いつき、そのまま1-1で引き分けた。首位の鹿島アントラーズと3位の京都との勝ち点差は5ポイントに広がったが、鹿島との直接対決を残す京都がぎりぎりで踏み止まり、勝ち点9差の5位の町田が厳しい状況に追い込まれた。

 起死回生のPK獲得につながった場面を巻き戻していくと、セーターサークル付近からボールを持ち運び、右サイドの奥深くへボールをつけた原の力強いドリブルに行き着く。それだけではない。アディショナルタイム10分にも原は左サイドからゴール中央へ果敢にドリブルで切り込み、相手のファウルを誘っている。

 MF山田楓喜の左足から放たれた直接フリーキックはクロスバーに弾かれ、3試合ぶりの白星奪取とはならなかった。それでも原は「そう簡単にはうまくいかないと思うので」とドローをポジティブに受け止めた。

「もちろん勝ちたかったですけど、大きな勝ち点1だと思って、みんなで前を向いて戦っていきたい」

 残りは7試合で、次節は28日に敵地でセレッソ大阪と対戦する。開幕直後の原のトラッキングデータを振り返れば、総走行距離10km超で、かつスプリント総数が「20」を超えた一戦が2つを数える。気温が下がる秋の陣へ突入していくなかで、豪快な空中戦にしなやかな地上戦を融合させる原の存在感がさらに大きくなっていく。

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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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