サッカー界に衝撃与えた「32%」  時代の変化…森保ジャパンに求められる“幅”

アーセナル戦でボール保持率32%を記録したマンC【写真:ロイター】
アーセナル戦でボール保持率32%を記録したマンC【写真:ロイター】

戦い方の幅が必然的に求められる時代

 プレミアリーグ第5節、マンチェスター・シティの守備固めが話題になっていた。前半9分にアーリング・ハーランドのゴールで先制したシティは後半15分を過ぎると撤退しはじめ、同25分あたりからは「バスを置く」と言われるローブロックに専念。ロスタイムにアーセナルのガブリエル・マルティネッリに同点にされて逃げ切りは失敗したが、保持率32%というペップ・グアルディオラ監督体制では異例の低さに皆が驚いたというわけだ。

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 リーグアン第5節、マルセイユ対パリ・サンジェルマン(PSG)も似たような試合だった。こちらも5分で先制したマルセイユが早々に撤退守備。保持率32%は奇しくもシティと同じである。ただ、マルセイユはPSGの攻撃を完封して1-0でル・クラスィックを制している。

 シティは言うに及ばず、マルセイユもロベルト・デゼルビ監督になった昨季からは基本的にボール保持率の高い攻撃型のチームだ。それがいずれも重要な一戦に撤退守備で耐え抜く戦い方を選択していた。

 同じタイミングになったのは偶然だが、本来ボール保持率の高いチームが状況に応じて撤退守備に徹するようになったのは偶然ではない。

 かつてグアルディオラ監督が率いていた時のバルセロナは圧倒的なボールポゼッションで試合を支配するスタイルによって黄金時代を築いた。その後、グアルディオラ監督が率いたバイエルン、シティでも同じだった。ところが、ボールを保持し続けるだけで試合を支配するのは難しくなり、さらに保持自体が困難になっているのだ。

 アーセナルのミケル・アルテタ監督はシティではペップのアシスタントコーチだった。いわばペップ流の継承者、ボール保持とハイプレスを基調とする。そのため、シティはアーセナルのハイプレスによって保持が難しくなり、さらにアーセナルが保持するボールを奪うのも簡単ではなく、つまり保持率で圧倒することができなくなった。

 1点のリードと中2日の日程を考慮しての撤退守備になったわけだが、一方的に保持し続けるのが困難な相手だったという前提がある。

 マルセイユのデゼルビ監督もペップ方式の信奉者であり、対戦したPSGのルイス・エンリケ監督は元バルセロナの監督。こちらも同じ流派の対戦であり、格上のPSGに対してマルセイユは保持できないことを想定した戦い方をしていた。

 かつてサンフレッチェ広島を率いていたミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、ボール保持による非常に攻撃的なプレースタイルで知られていたが、ごく稀に撤退守備をすることがあった。「仕事」と称しての5バックの撤退は、「5バックならJリーグでは簡単に失点しない」という読みがあったからだが、欧州トップレベルでも5バックのローブロックを崩すのは容易ではない。

 後任の森保一監督は攻撃型のミシャ式を継承しながら、リードすると5バックの撤退で試合を終わらせる勝ちパターンで、ミシャができなかったリーグ優勝を達成した。日本代表でもカタールW杯では固い守備でベスト16入りを果たしている。

 シティとマルセイユの例のように、戦い方の幅が求められるようになっている。日本代表はカタールW杯後、保持とハイプレスのスタイルを続けていて、ローブロックはほとんどやっていないが、そろそろどこかで思い出しておく方がいいかもしれない。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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