異例“大混戦”の昇格争い 大宮は監督を電撃交代…直近の平均勝ち点数から見る意外な候補

佳境を迎えたJ1昇格争いを展望(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】
佳境を迎えたJ1昇格争いを展望(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】

長崎は高木監督が就任以降、脅威の勝ち点数を誇る

 J2リーグは残り8試合となり、上位クラブの勝ち点争いは一層激化している。8位のRB大宮アルディージャが、今週末の大一番である7位のジュビロ磐田との試合を前に、監督交代に踏み切るという衝撃的なニュースが飛び込んできた。

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“昇格組”の大宮は長澤徹前監督の下、夏場すぎまでトップグループを走ってきたが、ここのところ3連敗を喫していた。親会社であるレッドブル・グループで長く指導経験を積んだ宮沢悠生監督の就任はクラブの方針として、ある種、既定路線とも取れる。ただ、シーズンの最終コーナーに差し掛かるタイミングで、最終盤を前に慣れ親しんだ指揮官を切り、現場レベルでは全くの外部から新たな指揮官を連れてくる選択が、どっちに出るかは未知数だ。

 その影響も踏まえて昇格争いを展望していきたいが、現在トップを走る水戸ホーリーホックが、夏場からペースダウンしているのは気がかりだ。ここまで1試合平均1.83という高い勝ち点数で来ているが、最近10試合に限ると1.40、ここ5試合は4分1敗と勝ち切れない試合が続く。ただ、森直樹監督が率いるチーム自体はまとまっているだけに、夏場の戦いを終えて、持ち前の強度や運動量が戻れば、もうひと伸びして逃げ切りも期待できる。

 スーパーエースの渡邉新太は健在だが、鋭い仕掛けとフィニッシュで、水戸の攻撃を引っ張ってきた齋藤俊輔が、U-20W杯でチームを離れているだけに、夏に横浜FCから加入した新井瑞希の奮起にかかるものは大きい。今週末は前節、磐田との“県勢対決”に勝利した藤枝MYFCをホームに迎えるが、攻撃的なフットボールを掲げる相手に勝利して、再飛躍のきっかけを掴みたいところだ。

 その水戸に同勝ち点で並ぶ2位のV・ファーレン長崎は高木琢也監督が途中就任してから、8勝3分と一度も負けていない。勝ち点率も、最近10試合に限れば2.40という高い数字を誇る。しかし、内容面を見ると相手を大きく上回っているわけではない。ここまで16得点のマテウス・ジェズスを筆頭に、個の能力は頭ひとつ抜けているが、ホームで引き分けた前節のカターレ富山戦のように、1つ1つの試合が紙一重の勝負になってきそうだ。

 今週末はアウェーでブラウブリッツ秋田と対戦するが、ロングボールやフィジカルの強さを押し出してくる相手を打ち破って、終盤戦に向けて勢いを出していけるか。非常に大きな一戦となる。決定力の高いアタッカー陣や山口蛍とディエゴ・ピトゥカのボランチコンビに注目は行きやすいが、中盤を越えてくる局面も多くなる秋田戦で、ディフェンスリーダーの新井一耀を中心とした3バックと守護神の後藤雅明が、防波堤となれるかどうかが生命線となる。

 3位のジェフ千葉も現在の勝ち点は54で、首位の水戸、2位の長崎とは1ポイント差。J2優勝、自動昇格ともに射程圏だが、昨シーズンは最終盤に大事な試合を落とし、プレーオフ入りも逃した苦い経験があるだけに、ここからが本当の勝負であることは、どのライバルより強く感じているはず。水戸の渡邉や長崎のマテウス・ジェズスのような絶対的なエースはいないが、怪我から復帰してきた7得点のFW石川大地をはじめ、どこからでも点が取れるのは千葉の強みだ。

 その石川の古巣でもあるロアッソ熊本をホームに迎えるが、前回はアウェーで20本以上のシュートを打たれるなど、大苦戦の結果スコアレスドローで耐え抜いており、素早いパスワークで攻めてくる相手に対して、簡単な試合になることはあり得ない。しかし、次節に迎える長崎との大一番を前に、ここで躓くわけにはいかない。千葉はここまで前半に得失点差+1、後半が+13とというデータの通り、後半に強いタイプだ。スタートから積極的にくる熊本にリードを奪わせず、少なくともタイスコアで後半勝負に持ち込めれば、千葉の勝率はかなり高くなる。

過去10試合の勝ち点率が長崎に次いで高い鳥栖

 森山佳郎監督が率いる4位のベガルタ仙台も、もちろん自動昇格を十分に狙える位置にいるが、昨シーズンは6位でプレーオフに進出して、3位だった長崎を破って決勝に進出した経験がある。最後はファジアーノ岡山に競り負けて昇格を逃しただけに、是が非でも自動昇格という思いは強いはずだが、プレーオフに回ったとしても経験値はアドバンテージになりそうだ。

 夏にオナイウ情滋がJ1の横浜F・マリノスに引き抜かれ、ドリブラーとして異彩を放っていた名願斗哉が、育成型期限付き移籍を解除して、川崎フロンターレに復帰。サイドアタッカー不足が懸念されたが、左サイドの相良竜之介がモンテディオ山形との“みちのくダービー”で先制点をあげるなど存在感あるパフォーマンスを見せており、本職のウインガーではないMF郷家友太とFW荒木駿太が右サイドで流動的な攻撃を見せている。ここから10位の北海道コンサドーレ札幌、8位の大宮というトップハーフの戦いは続くが、森山監督の采配も勝負の鍵になりそうだ。

 5位のサガン鳥栖は現在の勝ち点が49。セレッソ大阪を3年半率いた小菊昭雄監督がソリッドな守備と多彩な攻撃を植え付けており、前半戦より明らかにチーム状態が良くなっている。過去10試合の勝ち点率も2.00と長崎に次ぐハイペースだ。キーマンは前節の熊本戦で、途中出場ながら2得点を記録した18歳の新川志音だ。また怪我から復帰してきたヴィキンタス・スリヴカの存在感も心強い。

 今週末には9位のFC今治とアウェーで対戦するが、今治が勝利すれば勝ち点が並び、得失点差で順位は入れ替わる。さらに残留争いの渦中ながら上位にめっぽう強いレノファ山口という厳しいアウェーが続くが、この正念場をうまく乗り切ることができれば、最終節に待つ磐田とのホーム決戦を前に、自動昇格の可能性を引き上げることができるはずだ。

 6位の徳島ヴォルティスと7位のジュビロ磐田はともに勝ち点48で、週末の試合結果によっては一気に4位まで浮上が可能だ。ここまでの勝ち点率は1.60だが、過去10試合に限定すると徳島は1.20、磐田が1.30とやや下降線にある。ただ、磐田は前節の藤枝戦を落とすまで、4試合負けなしで勝ち点10を積み上げていただけに、ホームの大宮戦は立て直しのビッグチャンスだ。徳島は19位の富山が相手だが、残り8試合で17位の熊本と勝ち点9差で、正念場にある。前節は長崎をギリギリまで追い詰めての引き分けだっただけに、徳島としても侮れない。

 8位の大宮は上記の通り、このタイミングの監督交代がどっちに出るか。ただ、一発逆転を狙った賭けというより、来シーズン以降まで見越したクラブの戦略に従った人事と考えられるだけに、磐田戦の結果に一喜一憂しすぎる必要もないかもしれない。監督交代と言っても、コーチからの昇格のような形ではないだけに、チーム内の目が揃うのも簡単ではないが、対戦相手の磐田としてはスカウティングが難しく、スタメン変更はもちろん、試合がスタートして、いかに変化を見極めるかが重要になる。

 9位の今治は5位の鳥栖との直接対決に勝利すれば、一気にプレーオフ圏内まで浮上できる可能性がある。マルクス・ヴィニシウスとともに、前線から攻撃を引っ張ってきた横山夢樹と右サイドの主力である梅木怜が、揃ってU-20W杯に参加することは戦力面で痛いが、前節の大宮戦は二人がいない状況で、3-2の逆転勝利を飾った。彼らが世界の大舞台で成長して戻ってくるまで、勝ち点を積み重ねて昇格圏に食い込むことができるか。キーマンは大宮戦で1得点1アシストの大活躍を見せたウェズレイ・タンキだ。

 10位の札幌は最大勝ち点が67で、水戸や長崎との勝ち点差が12あることを考えても、現実的にはプレーオフにしがみつくことが、昇格の唯一の道だろう。ただ、前節のアウェー徳島戦で見せたように、柴田慎吾新監督の積極果敢なスタイルがうまく噛み合えば、怒涛の連勝街道も夢ではない。まずは自分たちに矢印を向けて、勝ち点をできるだけ積み重ねた先で、ライバルとの位置関係がどうなっているか。4位の仙台をホームに迎える試合は札幌の命運を握る戦いになる。勝てば大きな弾みになるが、負けたらプレーオフの望みも、ほぼほぼジ・エンドだろう。

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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