ダービーとクラシコ連勝も…首都クラブに必要な我慢 鍵は恵まれた環境の“有効活用”

夏の移籍市場で戦力を大幅補強したFC東京【写真:増田美咲 & 徳原隆元】
夏の移籍市場で戦力を大幅補強したFC東京【写真:増田美咲 & 徳原隆元】

FC東京は東京ダービー、多摩川クラシコに勝利した

 FC東京が、ダービーとクラシコを連勝した。昨シーズンJ1に復帰して来た東京V戦の勝利は順当だったとしても、最近の成績を見る限り川崎は明らかに格上だっただけに、Uvanceとどろきスタジアム by FujitsuのFC東京側のロッカールームからは、通路を隔てた記者会見場まで暫く快哉を叫ぶ声が響き渡っていた。(文=加部 究)

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 率直にクラシコは、FC東京の走り勝ちだった。単純にチーム走行距離でも3.5㎞以上の差をつけ、序盤から川崎の選手たちに前を向かせない果敢な守備を継続し、それが直近のリーグ戦で3試合連続3ゴール以上を記録したホームチームの攻撃の精度を狂わせた。前半23分には、右サイドでのスローインから左サイドへ展開。ペナルティエリアに侵入したマルコス・ギリェルメのクロスが逆サイドへ抜けると、ボールを拾った長倉幹樹のクロスにフリーの遠藤渓太が頭で合わせて先制。その6分後にはVAR(わずかにオフサイド)で取り消されたものの、ゴールネットを揺すり、さらに前半37分にも右サイドを攻略して決定機を重ねた。

 後半はリードしたことで川崎の支配率が一層高まったが、本当にゴールを脅かされたのはアディショナルタイムにVARで判定が覆った幻のゴールシーンを含めても数えるほど。川崎の長谷部茂利監督は「交代カードを切るのが遅れた」と悔やんだが、現実的には後半開始からラザル・ロマニッチに代えて「100%ではない」とスタメンを回避した脇坂泰斗を送り込んだ以外に、目立った効果は見えなかった。

 ライバルへの連勝で、FC東京から降格の危機は遠のいた。しかし目の前にちらつく最悪の事態は免れたとしても、中長期的には必ずしも明るい展望が開けているわけではない。

 FC東京が夏以降多少なりとも右肩上がりに転じたのは、貪欲な補強の成果だ。浦和で実績を持つアレクサンダー・ショルツは最終ラインに格段の安定をもたらし、最前線では浦和からレンタル加入した長倉が軸になった。また、GKのキム・スンギュもビルドアップには一抹の不安は残すが、この日も防波堤として機能。左MFでスタメン出場したギリェルメも、助っ人として圧倒的な武器を持つわけではないが、前線から守備にスイッチを入れるためにフルスプリントを繰り返した。ダービーで惜敗の東京Vの城福浩監督は「選手層を言い訳にするくらいならやめた方がいい」と語ったが、FC東京の個々の経験値を見れば残留のタスクなど失敗する方が難しいくらいだ。もちろん前線からの厳しい守備は徹底されたが、チーム力の上乗せはほぼ新戦力がもたらしたに等しい。

 ただし、こうした強化方針では、FC東京がJリーグのレアル・マドリードにならない限り常勝は難しい。一方で長谷川健太体制で準優勝を果たして以来、クラブは繰り返し改革を試みてきたが、誰が指揮を執っても大筋で長所短所に著しい変化は見られない。良い時は高い強度とスピーディーなカウンターが光るが、神戸や町田のような割り切りや一貫性が見えずに中途半端な順位に甘んじている。

 それでも松橋力蔵監督は「距離感とタイミングが良ければ十分に剥がせる」「相手の出方を見ながら、長短のパスを使い分けてゲームを支配する」といった理想形を追い求める。だが残念ながら、今、手にしている成果は半ば付け焼刃で、長倉もギリェルメも貸し出し中。代わりにクラブの未来を担うかもしれない俵積田晃太らはベンチに座る。

 過去の歴史を見ても、確かにチームの改変には我慢が不可欠である。広島も柏もJ2に降格してもミハイロ・ペトロヴィッチやネルシーニョの体制を継続したし、横浜F・マリノスを超攻撃的スタイルに変えたアンジェ・ポステコグルーも初年度は12位に終わっている。だが彼らはいずれも尖った指針を愚直に貫き、独自の視点で若い芽を摘み上げ伸びしろを引き出した。

 経験豊富なベテランを補強してくるのは、一見最も即効性の高い強化方法に映る。しかし世界を見渡せば、それを過信して失敗した例は枚挙に暇がない。ましてFC東京は、最近低迷傾向が続くマンチェスター・ユナイテッドやACミランのように、過去に輝かしい栄光の歴史を刻んでいるわけではない。反面クラブからは多くの優秀な選手たちが巣立っているわけで、もう少し恵まれた育成環境の有効活用に注力する方が得策かもしれない。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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