最下位クラブ主将の訴え「いないほうがチームのため」 サポーターと話し合い「覚悟のあるやつだけ残ろう」

新潟のキャプテン・堀米悠斗【写真:徳原隆元】
新潟のキャプテン・堀米悠斗【写真:徳原隆元】

新潟主将の堀米悠斗が試合後に語った

 J1リーグで最下位にあえぐアルビレックス新潟が追いつめられた。キックオフ前の時点で19位だった横浜FCのホームに乗り込んだ20日の裏天王山で敗れ、残留圏の17位につける横浜F・マリノスとの勝ち点差が8ポイントに広がった。残りは8試合。ショックが残る試合後に、新潟の堀米悠斗は「覚悟のあるやつだけ(チームに)残ろう」とあえて厳しい言葉をチームへ発した。心を鬼にしたキャプテンの胸中に迫った。(取材・文=藤江直人)

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

 アルビレックス新潟というクラブにかかわるすべての人々を愛しているからこそ、キャプテンを務めて6シーズンを迎えている31歳のDF堀米悠斗は、心を鬼にしながらメッセージを発した。

「覚悟のあるやつだけ(チームに)残ろう」

 場所は横浜FCのホーム、ニッパツ三ツ沢球技場のロッカールーム。J1リーグ戦で勝ち点20の最下位にあえいでいる新潟は20日に、キックオフ前の時点において同24で19位だった横浜FCとの第30節に臨み、ともに無得点で迎えた後半41分にFWアダイウトンのゴラッソで奪われた先制点を取り戻せずに敗れた。

 裏天王山とも呼ばれた6ポイントマッチに敗れた新潟はこれで4連敗。6月15日の横浜F・マリノス戦を最後に1分け10敗と3か月以上も白星から遠ざかり、J1残留圏の17位につけているマリノスとの勝ち点差は8ポイントに広がった。残されたリーグ戦は8試合で、得失点差でも大きく後塵を拝している。

 残留へ向けた可能性がさらに縮小した文字通りの正念場で、堀米はあえて厳しい言葉を選んだ。

「選手たちだけじゃなくて監督、コーチ、フロントスタッフを含めて、もう無理だなと思っているのならば、本当にいないほうがチームのためになる。虚勢でも何でもいいから、とにかく自分がやってやると。それくらいの熱量をもった集団でないと変わらないと思うので、一人ひとりがしっかりとやれる人間が集まればと思いました」

試合後にサポーターと話し合い

 厳しい言葉に込めた思いをこう明かした堀米の脳裏には、横浜FC戦後の光景が刻まれていた。

 選手たちと一部スタッフで挨拶に向かったゴール裏のスタンド前。どれだけ負けても次につながれとばかりに、熱い言葉を介してエールを送り続けてくれたファン・サポーターから大音量のブーイングを浴びた。さらにフェンスをはさんで、前列にいたファン・サポーターが発する切実な思いに選手たちが耳を傾けはじめた。

 もっとも、その場に入江徹監督やコーチ陣はいなかった。この状況を受けてこんな指摘も飛んできた。

「本当はチームがもうバラバラなんじゃないか」

 実際には入江監督も話し合いの輪に加わろうとしていたが、中野幸夫社長が引き留めていた。

「降格が決まったわけではないので、申し訳ないと思いながらも、ここで諦めるわけにはいかないし、その意味でも頭を下げて謝る状況ではないと。むしろパワーをいただいて、次に勝つためのことを考えるべきだと」

 自らもゴール裏に向かわなかった理由を中野社長はこう説明した。代わりに寺川能人強化部長がゴール裏へ向かい、入江監督らがその場にいない理由を説明した。一連のやり取りのなかで堀米は思いを新たにした。

「サポーターは(他チームへ)移籍することはできない。いろいろな方々の思いがあって、ああいう形になったと思いますけど、あれだけの熱量を伝えてくれる人たちを大事にして、その声をしっかりと受け止めていく、というクラブの姿勢を見せないといけない。誰かしらが何かしらのアクションを起こしてしっかりと伝えていかなきゃいけないし、クラブとして出さないのならば自分が発信しなきゃいけないと思っています」

23日名古屋戦は「1勝を見せなきゃいけない」

 さらに横浜FC戦から中2日の23日に、ホームのデンカビッグスワンスタジアムに名古屋グランパスを迎える第31節を、堀米は「ちょっと切り離して臨む必要がある」と特別な一戦になると位置づけた。

「チームのみんなでゴール裏の声を聞いて、一人ひとりがそれをしっかりと理解したうえで臨むべき試合だし、リーグ戦の残り8試合のうちの1試合じゃなくて、人生をかけて応援してくれる人たちに応えるためにも、とにかく1勝を次の名古屋戦で見せなきゃいけない。残留どうこうよりも、目の前の1試合に対する思いを結果で表現しないとわかってもらえない。僕たちは頑張っているよ、じゃなくて、どんなに格好悪くても相手より1点多く取って試合を終わらせる、という姿を見せなきゃいけない。現状のままだと納得してもらえない」

 小学生年代のジュニアから所属した北海道コンサドーレ札幌から移籍した2017シーズンに、新潟は2004シーズンから所属してきたJ1から降格した。J2の舞台でポゼッションスタイルを確立させ、J1へ復帰するまでに5シーズンを要し、降格した悔しさを知る選手で、今シーズンも新潟でプレーするのは堀米だけになった。

 降格チームが味わう過酷な現実を熟知しているだけではない。カテゴリーに関係なく、新潟の黎明期からクラブの歴史と一体化してきたサポーターを「本当にありがたい存在」と位置づける堀米は、約10分間におよんだゴール裏での話し合いを終えた直後に鳴り響いた「アルビレックスコール」に感謝の言葉を忘れなかった。

「僕たちは決して恵まれた環境に置かれたクラブではないし、金銭的にもJ1の他のクラブに比べれば劣っているかもしれないけど、それでもなぜ新潟でプレーするのか。答えはやはりそこだと思うので……」

 ここまで語った堀米はちょっぴり声を上ずらせ、さらに途切れさせながら「……応えたいですね」と必死に言葉を紡いだ。そことは言うまでもなくサポーターを指す。セットプレーのキッカーを務める橋本健人が左サイドバックで先発フル出場した関係で、横浜FC戦をリザーブで終えた身長168cm・体重67kgの小さな闘将は、名古屋戦でピッチに立ったときには魂をほとばしらせたプレーで勝利に導く自身の姿を思い浮かべている。

page1 page2

藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング