町田が遭遇した新たな問題「落ちてしまう」 チームの武器に”弊害”「情報は入ってた」

FC町田ゼルビアの林幸多郎【写真:西村尚己/アフロスポーツ】
FC町田ゼルビアの林幸多郎【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

町田DF林幸多郎のロングスローは大きな武器に

 J1戦線で優勝争いに加わっているFC町田ゼルビアが未知なる戦いを経験した。ホームの町田市立陸上競技場でFCソウル(韓国)と1-1で引き分けた、9月16日のAFCチャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)のリーグステージ初戦。町田が武器のひとつに掲げるロングスローが直面した、クラブ史上で初めて臨むアジアの戦いだからこそ生じた問題の数々を、昨シーズンからスロワーを担う林幸多郎の言葉をもとに探った。(取材・文=藤江直人)

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 スタジアムは変わらない。それでも、いつもの戦いとちょっとだけ光景が違う。FC町田ゼルビアがクラブ史上で初めてアジアの戦いに挑んだ、16日のACLEのリーグステージ初戦。FCソウル(韓国)戦のキックオフを告げる笛が鳴り響いてから17分後に、国内公式戦との“違い”が浮き彫りになった。

 町田が敵陣の右サイドで獲得したスローイン。左ウイングバックの林幸多郎がピッチを横切りながら右タッチラインの外へと移っていく。次の瞬間、相手ゴール前へ林が投じたロングスローの流れから韓国代表FWオ・セフンがヘディングシュートにもっていったが、ボールは相手ゴールキーパーに難なくキャッチされた。

 この間の流れをあらためて振り返ってみると、ロングスローを投げる前の準備が抜け落ちているのがわかる。いつもは敵陣のタッチライン際の数か所にあらかじめ置かれ、投じる際に滑らないように、スロワーがボールの表面を入念に拭くためのタオルがない。ACLEのレギュレーションで禁止されていたからだ。

「(ボールを)拭けなかったので、投げづらさといったものはありました」

 横浜FCから完全移籍で加入した昨シーズン。明治大学時代からロングスロワーだった実績を買われ、町田が武器のひとつにすえる飛び道具の担い手に指名された24歳は、タオルの配置および使用禁止を「試合前の時点ですでに情報は入っていました」と位置づけたうえで、前半は一度だけに終わったロングスローをこう振り返った。

「前半は投げるタイミングというか、特に拭けないから、というわけではなく、いつも通り、という感じです」

Jリーグでは昨季よりロングスローが減少

 今シーズンの町田は国内の戦いでもそれほどロングスローを多用していない。ソウル戦でも前半30分に右サイドの深い位置でスローインを獲得した。林が右タッチライン際へ近づいていった矢先に、右ウイングバックの望月ヘンリー海輝が普通のスローインからボールを林へ供給。相手の裏を突く形から林がクロスを放っている。

 そして、両チームともに無得点で迎えた後半。アジアの戦いで初めてとなるゴールを奪おうと、町田はロングスローを選択する回数を増やした。最初のチャンスとなった同6分。新たな問題が浮き彫りになった。

 バックスタンド側には、タッチラインから2メートルほどの距離にACLEのスポンサーを務める企業の看板がずらりと並んでいる。助走が十分に取れない状況も、国内公式戦とはまったく異なる光景だった。

 6分に続いて8分、さらにアディショナルタイム4分と右サイドからロングスローを投じた林は、助走の有無に関して「確かに距離があったほうが投げやすいですけど」と前置きしながらこう語っている。

「それでも、あれくらいの距離があれば狙ったポイントには届くかな、という感じでした。ACLのレギュレーションを聞いたときから『看板があって(助走は)これくらいしか取れない』というのもわかっていました」

 対照的に試合中は中継映像がほとんど映らない関係で、メインスタンド側には看板の類がほとんどない。必然的に陸上トラックの中ほどから、5メートルほどの助走をへてロングスローを投じられる。林も前半17分に続いて後半31分、33分と3回にわたってメインスタンド側からロングスローを投じる機会を得ている。

 しかし、ここでもうひとつの問題が頭をもたげてくる。ACLEの公式使用球であるスペインのKELME社製のボールは、不慣れという点でキッカーだけでなくロングスロワーをも困惑させていたと林が苦笑した。

「何となくボールが伸びていかずに(途中で)落ちてしまう、といった感じはありました」

初のアジアの舞台で感じた違い

 もちろん林の武器はロングスローだけではない。身長170cm・体重70kgの体に無尽蔵のスタミナを搭載。衰えを知らない運動量は相手ペナルティーエリア内における神出鬼没のポジショニングを生み出し、左ウイングバックを主戦場としながらJ1リーグ戦でチーム4位の4ゴールをマークする原動力になっている。

 12日の横浜FCとのJ1第29節から、中3日で先発フル出場したソウル戦後にはこう語っている。

「夏場の連戦に比べたら、それほどきつくなかったと(個人的には)感じていました」

 試合は後半15分にソウルに先制された町田が同35分に望月のゴールで追いつき、そのまま1-1で引き分けた。左サイドでボールを受けた林がキープしながら、ペナルティーエリア左のポケットへスプリントしてきたボランチ下田北斗へ通した以心伝心のパスが、同点ゴールの起点になった下田のクロスを生み出した。

 プロになって3年目で、海外のクラブと初めて対戦した90分間を通じて林は何を得たのか。

「日本のチームと違って、ちょっと雑ですけど、それでもグッと前に来る感じがありました。躊躇なくクロスをあげてくるところなど攻撃をやり切る姿勢がすごく多くて、チームとしての戦い方がちょっと違いました」

 30日には敵地マレーシアでジョホール・ダルル・タクジムとの第2節が待つ。サッカー専用のスルタン・イブラヒム・スタジアムでは、ロングスローの助走面で新たな問題と遭遇する可能性もある。未知なるアジアの戦いで経験するすべてをポジティブに受け止めながら、町田のダイナモは成長への糧に変えていく。

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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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