3人包囲網を突破→衝撃ミドル “ワンマンショー”を生み出した20歳逸材の思考「意識していた」

水戸の齋藤俊輔【写真:徳原隆元】
水戸の齋藤俊輔【写真:徳原隆元】

水戸FW齋藤俊輔が仙台戦で衝撃弾

 J2で空前絶後のスーパーゴールが生まれた。首位に立つ水戸ホーリーホックのFW齋藤俊輔が13日のベガルタ仙台戦の前半17分に、敵陣左サイドで3人に囲まれる苦境を単独で突破。そのままペナルティーエリア内へ侵入し、対角線上のゴール右隅へ今シーズン7点目を突き刺した。FIFA U-20ワールドカップ(W杯)チリ2025に臨むU-20日本代表に選出された20歳のホープが、眩い輝きを放つまでの思考回路に迫った。(取材・文=藤江直人)

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 わずか数十秒にゴールが生まれる雰囲気は、ピッチ上からはまったく伝わってこなかった。J2リーグの首位に立つ水戸ホーリーホックが、J1昇格プレーオフ圏内の6位につけるベガルタ仙台のホーム、ユアテックスタジアム仙台に乗り込んだ13日のJ2第29節。両チームともに無得点で迎えた前半17分だった。

 自陣左サイドの中央から水戸の左サイドバック(SB)大森渚生が縦へ放ったロングフィード。仙台のセンターバック(CB)井上詩音がジャンプするもわずかに届かず、ボールは井上の後方に走り込んでいた水戸のゲームキャプテン、渡邉新太の足元で弾み、そのまま左タッチライン際へと転がっていった。

 仙台のゲームキャプテン、CBの菅田真啓を左サイドへ釣り出した渡邉は必死にボールをキープしながら味方のフォローを待った。そして、視界のなかに白色のユニフォーム姿の味方をとらえた。FIFA U-20W杯チリ2025に臨むU-20日本代表に選出されたばかりの齋藤が、2トップを組む渡邉に感謝した。

「相手のセンターバックを食いつかせるところへ、しっかりとランニングをしてからパスをくれたので」

 相手ペナルティーエリアの左外で渡邉の横パスを呼び込んだ直後から、20歳のホープによる異次元のワンマンショーが幕を開けた。まずは左足の軽やかなトラップで、後方から間合いを詰めてきた仙台の右SB真瀬拓海とボールとの間に自らの身体をねじ込んだ。このプレーを選択した意図を齋藤がこう振り返る。

「相手にボールを取られないためのトラップをした、という感じです」

自身のゴラッソを解説

 しかし、目の前には新たな敵が2人も迫ってくる。左側にボランチ松井蓮之、正面には渡邉のマークから回ってきた菅田が迫ってくる状況で、齋藤はあえて松井に身体をぶつけ、その反動を利用して狭いエリアで巧みにターン。さらに対峙した真瀬の背後にボールを通しながら、自らは真瀬の正面を強引にすり抜けていった。

「このときも一番は相手にボールを取られないプレーを意識していました。相手の逆を突くというか、そういうプレーを考えてやっていたなかで、シュートを狙える位置にうまくボールを運べたと思っています」

 真瀬としても齋藤がいきなりターンしてきて、自身と対峙するとは思ってもいなかったのだろう。しかも、小刻みなステップを踏んだ齋藤のボールタッチはわずか3回。真瀬の対応が後手を踏む間に3人もの包囲網を、技と力を融合させながら単独で突破した背番号8が、仙台のペナルティーエリア内へ侵入していく。

「そこからはもう迷いがなかったですね。相手のゴールを見る余裕はあまりなかったので、思い切って右足を振りました。芝生(の状態が悪かったの)もあってアップからいい感じでシュートを打てていなかったので、ちょっとびっくりしました。でも、最近は自分の感覚な部分がすごくよくて、それがゴールにつながったと思います」

 実はゴール右隅の対角線を狙ったコース上には井上、ボランチの武田英寿と仙台の選手が2人いた。それでも齋藤は右足を一閃。強烈なシュートを彼らが届かない空間へ、しかもカーブしながら落ちる軌道を描かせながら、身長195センチのサイズを誇る仙台のGK林彰洋の必死のダイブをも無力化させた末に一番上へ突き刺した。

 5月のJ2月間ベストゴールに選出された、レノファ山口戦で決めた今シーズン初ゴールは相手ペナルティーエリア内で3人をかわしてから右足を振り抜いた。8月23日のサガン鳥栖戦では自陣左サイドからドリブルでカウンターを発動させ、右へ旋回しながら約50メートルを突破した末にゴール右隅へ強烈な一撃を突き刺した。

水戸監督も絶賛「日の丸を背負う選手だと思った」

 過程がまったく異なる今シーズン7ゴール目は、現在進行形で急成長している証。齋藤が声を弾ませた。

「今シーズンは今日のようなゴールがなかったので、新しい形を見せられてよかったと思っています」

 神奈川県の強豪・桐光学園高校から加入した昨シーズンは出場16試合、プレータイム429分で1ゴールだった。ルーキーイヤーの背番号「38」を、チーム側から託される形で「8」に変えた今シーズン。期待に応えるようにここまで出場21試合、プレータイム1150分と大きく伸ばしているなかでゴールも量産している。

 後半に追いつき、そのまま1-1で引き分けた試合後の公式会見。仙台の森山佳郎監督は齋藤を要注意選手にあげていたと明かした上で、それでも決められたスーパーゴールを脱帽気味に振り返った。

「齋藤選手のシュートは、打てば入りそうなボールがかなりの確率で飛んでくる。人数はそろっていたし、警戒しようと選手たちの頭にも入っていたなかで、そこを上回られるシュートを打たれてしまった」

 3試合連続ドローでV・ファーレン長崎に勝ち点で並ばれ、得失点差で上回って首位をキープした水戸の森直樹監督は、齋藤を「本当に素晴らしいゴールだったし、日の丸を背負う選手だと思った」と称賛した。そのうえで仙台戦を最後にU-20代表の活動に専念するホープへ、笑顔を浮かべながら意外な言葉を残している。

「彼の性格的に、離脱した後にチームが減速してしまうと、(代表から)帰ってきたときに『やっぱり俺がいないとダメじゃん』という感じになってくると思うので。そこは選手たちにハッパをかけていきたい」

 仙台戦後のロッカールームで行われたミーティングを締めた、最大で4試合にわたってチームを留守にする齋藤へのエールを込めた指揮官の言葉。そこからはちょっぴり生意気で、それでいて10歳年上の渡邉をはじめとする先輩選手たちや首脳陣から可愛がられてやまない齋藤の素顔が浮かび上がってくる。(後編に続く)

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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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