低迷クラブ→優勝争いへ 曺貴裁監督が明かした”秘訣”「そんな練習ばっかりやってない」

京都が優勝争いできている理由を曺貴裁監督が明かした
2021年の指揮官就任1年目で京都サンガをJ1へと導き、そこから4シーズン続けて最高峰リーグの地位をキープしている曺貴裁監督。過去をひも解くと、99年のJリーグ1・2部制導入以降で、京都がJ1に連続在籍したのは、2008~2010年の3年が最長。朴智星や松井大輔を擁し、天皇杯制覇を成し遂げた02年シーズンのチームでさえも、03年にはJ1最下位に沈んでJ2降格を強いられている。そんな紆余曲折の歴史に現体制のチームはピリオドを打ったと言っていいのだ。(取材・文=元川悦子/全8回の7回目)
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「今、京都で5年目ですけど、正直言って、山と谷しかない(苦笑)。平地なんてない。山登ってるか、谷に下がってるしかない。平地なんて監督にはないし、平地で走ってると思えば、絶対にチームは上向きにならないもんなんです。
監督業でハッキリしているのは、『やめてくれ』と言われたら、できなくなる職業だから。日立製作所(柏レイソル)時代の後輩の達磨(吉田=大田ハナシチズン戦術コーチ)にしても、2022年の天皇杯タイトルを獲ったのに契約延長にならなかったりしている。こっちから『やらせてください』と言ったところでできるもんじゃないんです。
自分がなんで任せてもらえたのかという部分はフロントの人に聞かないと分からないけど、何とか期待に応えようと思って、ここまで必死にやってきたというのが正直なところですね」と曺監督はベストを尽くしてきた4年半に思いを馳せた。
実際、2022年のJ1再昇格からの3年間はボトムハーフに沈んでいる。特に2022・23シーズンは「夏場以降、失速する」と言われてきた。しかしながら、2024年はすでに触れた通り、指揮官自身のマインドの変化と原点回帰、ラファエル・エリアスら決定力のある選手の加入によって後半から一気に浮上。8~9月と10~11月に2回の4戦無敗も含めて、手応えのある終わり方をしていたのだ。
オフを通常よりも多く与えている
そして今季も夏場を含めての8戦無敗・4連勝である。猛暑の時期でも走行距離が低下することなく、強度をアグレッシブさで維持。トランジションの部分でも鋭さに磨きがかかっている印象さえある。
この現状を問うと、指揮官は「今年何かを変えたのかというその質問はちょっときついんだよね」と苦笑いしつつ、口を開いた。
「京都のサッカーは全部タテに行ってるわけじゃない。そういうイメージが強いのかもしれないんだけど、そんな練習ばっかりやってるということはないし、幅と深さを作って攻める練習もたくさん取り入れていますよ。
『相手陣内に人数多く攻めに行って、人数多く守る』という幹を具現化できるのであれば、左右を使いながらゆっくり攻めるのもありだし、アクセントをつけてもいい。それが今年は例年よりできるようにはなったのかなという気はしてます。
(奥川)雅也みたいにテクニカルな選手もいますし、彼に『ワンタッチではたけ』だとか『ボールを持つな』とは言ったことはない。選手の個性を理解しつつ、その場その場でアドバイスをしているくらいです」
曺監督自身は特別な変化を加えたという意識はない様子。選手たちの臨機応変な判断力の向上、チーム成熟度の高まりによって、効率的な戦いができているというのが現実なのだろう。
ただ、酷暑の2025年は休みを多く取るという工夫はつけている様子だ。
「今年は暑さが異常なんで、やる時と休む時を明確にしています。いつもだったら1日休みのところを2日休みにしたり、2日のところを3日休みにしたりというのは増やしています。そうしないと回復しないので。オフの比率は1・3倍か1・4倍くらいかな。シーズン中も家族で旅行に行ったりできるくらいの余裕は生まれたかなと思います。
この先もまだまだ暑さは続くだろうし、10月くらいまでは暑いということなんで、選手のパフォーマンスや疲労の具合を見ながら、対応策を考えていくことが重要ですね」と指揮官は言う。
優勝へアドバンテージのある京都
9月からはいよいよシーズンも佳境に突入するが、J1上位にいるヴィッセル神戸、町田ゼルビア、サンフレッチェ広島がAFCチャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)との掛け持ちを強いられ、柏レイソルはルヴァンカップを消化しなければならない状況にあるのと比較すると、J1・1本に集中できる京都にはアドバンテージがありそうだ。
「我々は残り10試合中、6試合がホームゲームなんですよね。4試合がアウェーで、かなりホームが多い。僕は実はラスト9試合だと思っていて、なぜかというと、12月6日の最終戦は神戸とホームで戦うんですけど、その時にチャンピオンに手が届く勝ち点であれば、初めて優勝を狙える状況になる。そこに至る9試合をどう戦うのかがすごく大事なんです。
夏の暑さとか、秋になったら涼しくなるというのは、両チーム同じ。暑いなら暑いなりに走力が求められるし、暑さが和らいだら走力をより前面に押し出す戦い方にすればいいだけ。暑かろうが、寒かろうが、相手より多くスプリントしてゴールに向かっていくという強みは常に念頭に置かないといけない。それが京都の肝なんで、自然にそうなっていくのがベストですね」
京都はタイトル争い経験がないという意味で未知数な部分は少なくないが、曺監督は全く動じていない。逆にこの状況を楽しんでいるようにも見受けられる。そのくらいの懐の深さで戦い続けていけば、偉業達成も夢ではないだろう。ここから最終盤のマネジメントを興味深く見守りたいものである。(第7回に続く)
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。





















