森保Jに必要不可欠な”若手の台頭” 本選滑り込みなるか…アピール不足に終わったパリ世代の現在地

パリ世代は9月シリーズでアピールならず
2026年北中米ワールドカップ(W杯)の試金石と位置づけられた9月のアメリカ遠征。ご存じの通り、6日の初戦・メキシコ戦(オークランド)は遠藤航(リバプール)、堂安律(フランクフルト)、久保建英(レアル・ソシエダ)らベストメンバーを送り出し、内容的にも相手を上回って、0-0で引き分けた。彼らがフルに使えるのであれば、強豪国と互角以上に戦える。それが明確になったのは、1つの大きな収穫だった。
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しかしながら、次のW杯は48か国出場。決勝まで最大8試合を消化しなければならない。これまではグループリーグを突破すればベスト16に行けたが、次回はベスト32入りするだけ。そこから16・8・4と勝ち上がっていかなければならないのだ。
となれば、森保一監督が口癖のように言う「2チーム分、3チーム分の選手層」が必要になる。それだけの潤沢な陣容を構築するためにも、2022年カタールW杯未経験の若い世代の台頭が必要不可欠。だからこそ、指揮官はあえてこの9月シリーズに、パリ五輪世代の若手を8人も招集したのだろう。
このうち久保建英(レアル・ソシエダ)と鈴木彩艶(パルマ)はすでに主力入りしているが、残る6人はまだ不安定な立場にいる。その中の鈴木唯人(フライブルク)、藤田譲瑠チマ(ザンクトパウリ)、関根大輝(スタッド・ランス)、望月ヘンリー海輝(町田)の4人が9日のアメリカ戦(コロンバス)のスタメンに抜擢され、アピールのチャンスを与えられる格好となった。
「いつも出てないメンバーはチャンスだと思いますし、こういうところで結果を出していかないと、今、出てるメンバーを追い抜いていけないんじゃないかなとは個人的には思います」と32歳の伊東純也(ゲンク)も話していたが、そういう思いはピッチに立った全員にあったはず。彼らの一挙手一投足が注目された。
不完全燃焼に終わった関根
4人の中でまず存在感を示したのが、右ウイングバック(WB)でスタートし、後半から右サイドバック(SB)へ移動した望月。192センチの高さとスピード感は大きな武器で、立ち上がりから何度か攻撃の起点を作る。前半21分には長友佑都(FC東京)のクロスに飛び込んで打点の高いヘッドをお見舞い。7月のE-1選手権(龍仁)でも”怪物的フィジカル”が光ったが、その身体能力はアメリカ相手でも脅威になることがハッキリした。
そうやって前向きな印象だけを残せればよかったのだが、前半30分の1失点目のシーンで相手左WBのマックス・アーフステンに突破を許し、精度の高いクロスを上げられてしまった。これがアレックス・センデハスに渡り決められたのは、マークについていた長友だけのミスではない。所属の町田ゼルビアで黒田剛監督から「スキを作るな」と常日頃から言われているにもかかわらず、守備の稚拙さを垣間見せてしまったのは、非常に残念だった。コアメンバーに入れる可能性をのぞかせただけに、こういうマイナス面がより浮き彫りになったのも確か。彼は自身の課題を克服していくことに注力すべきだ。
同じ守備陣の関根も、3バック右でスタートし、後半から不慣れな4バックのセンター(CB)で奮闘。アグレッシブにプレーしていたが、後半19分のフォリラン・バログンの2失点目に関与してしまう。これは非常に悔やまれるシーンだった。
「バログンの特徴は分かっていた。あの形でゴール決めてるシーンは見ていたので。自分としては、そこを防げるうちに、走るライン取りをもうちょい外にできたかなっていうのは思います。ああなって体入れられたら、正直、PKになるような形しかなかったので、ああいう状況を作った時点で自分の負けだったと思います」と分析眼に秀でた彼らしい物言いでミスを認めていた。
「ボールを握るところで後手を踏んでいた部分がありましたし、前にプレーしようと心がけて試合に入っていましたけど、その中でミスも多かった。ムダなバックパスが多かったのは個人としてもそうですし、チームとしても相手のスイッチがかかってしまうようなバックパスの仕方というのが非常に多かった気がします」とも関根は語っており、不完全燃焼感が強かった様子だ。
彼はフランス2部にいるだけで難しい立場だということをよく理解して、この代表活動に参戦していただけに、もう少しパーフェクトに近い仕事をしたかったところ。DF陣の負傷者が多い今、所属先でもう一段階ギアを上げていくことが、次の活動に呼ばれる重要ポイントになってきそうだ。
新天地に移籍した藤田、鈴木もアピールできず
中盤の藤田と鈴木唯人も本来の輝きを放つまでには至らなかった。藤田は佐野海舟(マインツ)と組んで守備強度を引き上げ、さらに自分たちでボールを保持しながら攻撃リズムを作りたかったが、うまくコントロールできずに終わってしまった印象が強かった。
「個人のところで奪いきる力がなかなか発揮できなかった。そこはドイツに戻って頑張りたいと思います。攻撃面はボールを受けてテンポを出す働きが求められていると思うので、そのへんもやっていきたいです」と藤田はやるべきことを明確にした様子。インパクトは残せなかったものの、この試合を糧に成長できるチャンスを得たのは、ポジティブな要素と言っていい。
鈴木唯人に関して言うと、最も輝いたシーンは前半36分に相手DFからボールをカットし、前線に走り込んで伊東に出したスルーパスだった。
「大前提として、フライブルクで守備のことを細かくまとめられているので、そういうシーンが出たのかなと思います。DFが何回も中につけていく場面があったので。あそこは先読みせずに、そのまま立って、カットできる場面があるだろうなと感じていた。奪った後は必ずチャンスになるとみんなも話していたので、ゴールになればよかったですけど」と本人は持ち前の状況判断力を前面に押し出したという。
ただ、彼の持てる力が全て出たとは言い難い部分もあった。それは自分自身も認めている点だ。「僕自身も後ろ向きなプレーが多かったのかなと思います」とも発言しており、アグレッシブさが足りなかったのは事実。シャドウは得点に直結するプレーをもっと出せなければ、既存メンバーの牙城を崩すことは難しい。鈴木唯人もまたドイツで力をつけなければならないだろう。
今回出番のなかった細谷真大(柏)、佐野航大(NECナイメンヘン)含め、パリ世代の底上げはまだまだという結果になってしまった。彼らが9か月後の大舞台までの間に戦力になることができなければ、日本代表は頭打ちにならないとも限らない。アメリカ遠征での悔しさを忘れることなく、短期間で急成長する人材が1人でも多く出てきてほしい。そう森保監督も願っているはずだ。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。




















