熾烈なJ1優勝争いも佳境へ 8チームに可能性?…運命を左右する「日程と残り対戦カード」

近年で最も激しいJ1リーグの優勝争い【写真:徳原隆元 & 柳瀬心祐】
近年で最も激しいJ1リーグの優勝争い【写真:徳原隆元 & 柳瀬心祐】

J1の優勝争いを展望

 今シーズンのJ1は残すところ10節となったが、鍵は日程と残りカード。J1終盤の優勝争いを展望する。アジアチャンピオンズエリート(ACLE)の関係で、上位陣では3位のヴィッセル神戸、6位のFC町田ゼルビア、6位のサンフレッチェ広島がすでに29試合を消化しているが、優勝争いは8位の川崎フロンターレまでに絞られてきたと見ていい。ただし、首位を走る京都サンガは勝ち点が54で、川崎とは9の差が開いている。2位の柏レイソルも勝ち点53で続いているので、川崎としてはかなり厳しい立場であることは間違いない。(取材・文=河治良幸)

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 ここからの優勝争いを展望する上で、少なからず影響しそうなのがカップ戦を含めた試合数と対戦カードだ。首位の京都は天皇杯とルヴァン杯で敗退しており、リーグ戦の10試合しか残されていない。もちろん、それらのタイトル獲得も目指していたはずだが、早期敗退を前向きに捉えるならば、初優勝がかかるJ1のリーグ戦に集中することができる。ただ、カップ戦を通じてチームの競争力を底上げすることはできないので、曺貴裁監督のマネージメントも問われてきそうだ。

 京都にとってもう1つ有利なのが、残り10試合のうち6試合をホームで戦えることだ。代表ウィーク明けにアウェーで広島と戦うが、そこを乗り切れば、”6ポインター”とも呼ばれる上位同士の対戦は町田、鹿島、そして最終節の神戸、全てがホームとなる。ただ、京都はここまで中位のチームを相手に勝ち点を落とすことも少なくない。特に現在10位のセレッソ大阪には5月3日のホームゲームで敗れ、さらにはルヴァン杯の3回戦でも1-4の大敗を喫している。9月28日にアウェーで行われるセレッソ戦が、一つの試金石になってくるかもしれない。

 2位の柏レイソルはルヴァン杯を残しており、準々決勝では横浜F・マリノス相手に2試合合計5-1で勝利し準決勝に進出した。準決勝は10月の代表ウィークに当たる8日と12日に入ってくるため、前後のリーグ戦が過密気味にはなるが、大きな負荷にはなりにくい。むしろ二つの大会をうまく相乗効果にしていくことも可能だろう。

 リーグ戦の再開はいきなりアウェーの神戸戦になるが、ホームで1-3と破れた相手だ。リカルド・ロドリゲス監督のもと、ポゼッションをベースとする柏にとって、ショートカウンターとロングボールを使い分ける神戸との相性は良いとは言えない。実際、一巡目のホームでも1-3と破れているが、その相手に勝利できれば、2011年以来となるリーグ優勝に向けて、さらに勢いづく足がかりになる。最終節はホームの町田戦となるが、どういう状況で迎えることになるか。

3連覇を目指す神戸【写真:柳瀬心祐】
3連覇を目指す神戸【写真:柳瀬心祐】

日程面で一番厳しいのは神戸か

 リーグ三連覇を狙う3位の神戸は日程面から見ると厳しい立場にある。現時点ではリーグ戦に加えてACLE、天皇杯を残しているからだ。もちろんJ1を初制覇した2023年から天皇杯との二冠を獲得した昨シーズンから、もう1つ上のステージに進む意味でも3つの大会を同時に戦うことはポジティブなチャレンジと言える。吉田孝行監督が日程面の不利をあまり口にしないことも、元々そうした戦いを覚悟しているからだろう。

 バルセロナとの国際親善試合を含めて、最大で年間61試合となることを想定すると、選手層の部分は心許ない。天皇杯の準々決勝で、J3のSC相模原と延長戦の末、PK戦のもつれ込んだ戦いをなんとか制した神戸は中2日で現在17位の横浜F・マリノスと対戦し、武藤嘉紀の復活弾で1-0の勝利を飾った。しかし、さらに中3日で迎えたルヴァン杯の横浜FC戦ではアウェーで2-0の完敗。しかも、ここまでカップ戦を支えてきた第二GKの新井章太が負傷交代するなど、厳しさが増している。

 ホームのセカンドレグから、リーグ戦の再開となるホームの柏戦までは中4日あるが、少なくとも10月4日のアウェー浦和戦までは12連戦となる。少なからずターンオーバーが必要な中で、若手が試合経験を積むことで成長し、チームとしてのタフさをアップさせる期待はある。怖いのはやはり主力の怪我だ。前半戦で獅子奮迅の活躍を見せた佐々木大樹を欠く状況で、武藤の復帰や大迫勇也の復調は頼もしいが、マリノス戦ではボランチとサイドバックをこなすMF鍬先祐弥も負傷交代しており、すでに中盤のやりくりに黄色信号が点ってきている。

 リーグ戦の対戦カードを見ると、神戸は柏、浦和、鹿島、京都との”6ポインター”を残している。それらに勝利していくことも大事だが、残留争いをしているチームとの試合が多いことも注目ポイントだ。下位との戦いは一見して有利だが、”窮鼠猫を噛む”という諺もある通り、この時期の残留争いのチームはある意味、上位以上に危険だ。しかも、確実に勝ち点3を取らないといけないプレッシャーもかかる中で、スタメンの入れ替えも織り交ぜながら、どう乗り越えていくのか。リーグ三連覇は難易度の高いミッションだが、それだけ偉業と言うことだ。

鹿島はリーグ戦に専念できる【写真:徳原隆元】
鹿島はリーグ戦に専念できる【写真:徳原隆元】

鹿島もリーグ戦に専念、町田は初のアジアの舞台へ

 鬼木達監督が率いる4位の鹿島アントラーズは京都と同じく、リーグ戦の10試合しか残されていない。今後の日程を考えれば、コンディション面は有利だが、それだけ1つのタイトルにかかるプレッシャーも大きくなる。天皇杯の準々決勝で、町田に公式戦7試合ぶりの黒星となる3-0の完敗を喫したことは、少なからずショックだろう。そこから中3日の清水エスパルス戦は鮮やかな攻撃から前半の早々にリードを奪われたが、後半にセットプレーから植田直通の同点弾で何とか勝ち点1を掴み取った。

 大黒柱である鈴木優磨の存在感は健在だが、ここまで15得点のレオ・セアラの得点ペースがやや下がっている状況で、夏加入のエウベルやジョーカー的な活躍を見せる田川亨介が、それだけ得点に直結する仕事で助けることができるか。昨シーズンは大卒ルーキーでベスト11に輝いた濃野公人の奮起なども7年ぶりのタイトル、9年ぶりのリーグ優勝に向けたポイントになりそうだ。まずは約2週間の中断期間にうまく仕切り直して、まずはホームで、現在18位の湘南ベルマーレに開幕戦の借りを返す形で勝利できるか。

 鹿島は浦和、神戸、京都とのアウェーを残すが、ラスト3試合はホームで横浜FC、東京ヴェルディ、マリノスという”残留争い組”との対戦が続く。もちろんシーズン最終盤だけに、その時点で相手はJ1残留を決めている可能性もあるが、逆に残留がかかるタイミングだと、J1トップレベルの勝負強さを誇る鹿島にとっても一筋縄には行かないだろう。

 5位の町田は神戸ほどではないが、やはり初挑戦となるACLEとの過密日程をどう乗り切るかが、リーグ優勝を果たすためにも避けて通れないテーマだ。ルヴァン杯はファーストラウンドで敗退したが、天皇杯でベスト4に勝ち進んでおり、11月16日に準決勝で、FC東京との対戦が決定している。前節、川崎に5-3で破れたことはリーグ戦9試合負けなしの記録を止められただけでなく、シーズン最多の5失点を喫したことが心理的なダメージになっているかもしれない。

 ハードワークをベースにするスタイルだけに、夏場の過密日程も多少パフォーマンスに影響しているかもしれないが、ディフェンスの主力を欠く試合で、守備が不安定になりやすいことも確か。黒田剛監督は川崎戦で欠場したGK谷晃生の怪我を認めたが、回復までどれぐらいかかるかは明かしていない。GKに関しては怪我を理由に、移籍期間外にも補強は可能だが、どちらにしてもリーグ優勝を目指す上で、キーポイントになる。

浦和は勝ち点差7をひっくり返せるか【写真:徳原隆元】
浦和は勝ち点差7をひっくり返せるか【写真:徳原隆元】

4冠の可能性を残す広島、勝ち点差で厳しい浦和

 広島は町田と同様に、首位の京都とは暫定で勝ち点4差だが、実質7差ある。しかも、ルヴァン杯、天皇杯を勝ち上がっており、ここからACLEも入ってくるから日程面は一番厳しい。しかも、開幕戦がアウェーのメルボルン・シティ戦となるため、オーストラリアまで長距離移動を強いられるのはプラスの負荷だ。ルヴァン杯の準々決勝は湘南を相手に、アウェーのファーストレグで3-2と破れたが、セカンドレグで快勝し準決勝に駒を進めた。守護神の大迫敬介と守備の要である荒木隼人が日本代表のアメリカ遠征に参加、新加入のキム・ジュソンが韓国代表に招集されたことも、戦いを難しくしているが、過密日程が増す今後に向けて、選手層をアップさせる好機でもある。

 ここに来て前半戦の大半を怪我で棒に振った、トルガイ・アルスランの練習復帰が伝えられることは朗報だが、同じく長期の怪我から戻ってきた中島洋太朗は9月27日にチリで開幕するU-20W杯に招集される可能性が高く、その場合、リーグ戦だけでも3-4試合を欠場することが見込まれる。スタメンを固定する傾向にあるミヒャエル・スキッベ監督だが、プライオリティをどう考えながら過密日程の戦力を配分していくか。

 7位の浦和レッズは首位の京都と勝ち点7差があり、得失点差も大きく開いていることから、残り10試合で逆転するシナリオを描くことは容易ではない。ただ、元スウェーデン代表のFWイサーク・キーセ・テリンが加入し、選手層に大きな不安のあったセンターバックも、前者は藤原優大がJ2の大分トリニータから育成型期限付き移籍を解除して、浦和に復帰した。中盤では柴戸海が1年ぶりの公式戦復帰を果たすなど、今後の戦いに向けて明るい材料は多い。

 ただ、試合の後半に全体の強度が落ち、前半のリードを追い付かれたり、逆転される試合が多く、まだしばらく暑さが続くことを考えても、難しい課題だ。もう1つ、アウェーの試合で勝率が悪いことも、解消されたとは言い難い。逆転優勝を目指すリーグ戦は鹿島、神戸、町田とホームで戦えるが、アウェー自体は6試合も残しており、最終盤には広島、ファジアーノ岡山とのアウェーもある。最終節は現在8位の川崎をホームに迎える形で、ルヴァン準々決勝からシーズン4度目の対戦となるが、そこまで優勝の可能性を残すためにも、1つ1つ勝ち続けるしかない。

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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