「笛を吹くか吹かないタイプか」 ピッチ上で分析…欧州で得点量産の背景、日本代表エースの真骨頂

フェイエノールトの上田綺世【写真:REX/アフロ】
フェイエノールトの上田綺世【写真:REX/アフロ】

上田綺世はフェイエノールトで3戦連発、4ゴールをマーク

 開幕3戦で4ゴール。オランダ1部フェイエノールトで結果を残す上田綺世が9月の日本代表・アメリカシリーズ(メキシコ戦、アメリカ戦)に合流した。

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 こぼれ球からのゴールが3発、強烈な個で奪ったゴールが1発。そのいずれもが、彼がテーマとして掲げる「予測」と「準備」から生まれたものだった。例えばこぼれ球から生まれたゴールは三者三様のプレースタイルを持つMFのシュートに、上田が詰めて決めた。

 NACとの開幕戦ではセム・スタインからシュートパスを受ける体勢を取りつつ、昨季の得点王の“強引なシュート”への準備も怠らず、上田はスライディングシュートで反応した。エクセルシオール戦では万能型MFクインティン・ティンバーを活かすべく、上田は楔を受けることも、囮になることも考えつつ、ミドルシュートへの準備を欠かさず、GKが弾いたボールをダイビングヘッドで仕留めた。スパルタ戦ではルチアーノ・バレンテからのスルーパスを期待しながら、思い切ったミドルシュートも予期して、ゴールキーパーが弾いたボールに詰めた。

「こぼれ球だけでなく、実際にボールを受けられるポジショニングと、常に何個も次のことを考えて動く準備をしていくということは大事です」(8月31日、スパルタ戦後の上田)

 スパルタ戦では、ゴール正面で背負ったCBをターンで剥がし、GKと交錯しながらシュートを決めた。この“規格外の個”で奪ったゴールは、オランダで2年間、取り組んできた“CBをブロックし、自分の間合いでボールを受けること”が実ったもの。「僕なりの形作りがフィットしてきて、それがようやく数字になった」とフェイエノールトのエースストライカーは得点シーンを振り返った。

 欧州でプレーするほとんどの選手が「目に見える結果を残したい」と言う。FW、MF、人によってSBも「ゴールとアシスト、足して2桁」などと具体的に語り、CB、GKはクリーンシートという結果に意欲を示す。しかし上田は具体的な数字にこだわる様子を見せない。今季4ゴール目を決めたスパルタ戦後、「その姿勢が好調の要因なのか?」と問うと、彼は「それを言ったら、数字にこだわってなかったフェイエノールトでの1年目、2年目はパフォーマンスが良くなかったので、別に(現在好調の)原因がそれではないわけじゃないですか」と至極ごもっともな返答をした。

「いろんなことにこだわってやってきたことが、ただ今の数字につながっているだけ。僕の考え方はずっと変わってない。数字が大事なのは分かっています。別にこだわってないわけでもない。そこにこだわりつつ、試合の中で『どうやったら点を取ることができるか』というのを常に考えてプレーしています」

 ここから上田の話がディテールに進む。

「自分のスタイル」即座に相手の特徴を捉える

「相手の左と右のCB、どっちの方が身体は強いのか、特徴がどう違うのか、どう身体を当ててくるのか。その日のレフェリーは笛を吹くタイプなのか、吹かないタイプなのか――いろいろな情報が(試合のピッチの上では)あるじゃないですか。昨シーズンの終盤、左側で縦に抜け出して左足で2点取りました。あの(2つの)シーンでは、試合をしながら『どっちのCBのケアがうまいか』『デュエルに動くにはどっち側から動いたほうがいいのか』と自分で考えながらやっていました。それが必ず結果につながるわけではないけれど、そういう考え方が自分のスタイルです」

 昨季、ズウォレとRKCを相手に決めた、ペナルティーエリア内左側でトップスピードに乗ったままスルーパスを受け、ゴールを一瞥すること無く左足で決めたゴール。それが上田の“型”になりつつあり、今季開幕のNAC戦でも似たようなシーンがあった。しかし、その局面に至る過程では“左ハーフスペースを突けば、相手チームが嫌がる”という試合中の情報収集があったわけだ。

 人間にとって足でボールを扱うことは非日常的な行為だが、サッカーでボール扱いを極めるのは当然のこと。だからこの競技では偶然と必然が重なり合うことがある。スパルタ戦で上田がCBを背負ってからターンして決めたシュートは、右CBマルビン・ヤングとのデュエルだった。このことは必然として起こった現象。19歳のヤングはPSVが獲得に動いたほど、能力の高いCBだが、182cmのフィジカルはまだ発展途上である。そのことを分かったうえで、上田はヤングをゴール前で背負い、オランダで磨いた技を発揮したはず。試合後、ヤングは「上田はペナルティーエリア内で強さを発揮するストライカー。彼の足下にボールが入る前に、僕は味方をコーチングしてパスコースを消させるべきだった」と反省していた。

 このゴールで勢いづいた上田は左CBマルティンス・インディを股抜きでかわしてから、故意のファウルで倒され、相手を退場に追い込んだ。そのシーンを「たまたま僕が先にボールに触れただけ」と上田は語った。確かに8割は、たまたまだったのだろう。しかし2014年W杯オランダ3位のメンバーだったとは言え、ヤングよりアジリティーとスピードに劣るインディの足が棒立ちになって上田の股抜きを許し、故意のファウルをするしかなかったのは無意識に生まれた必然の帰結。彼をサイドに釣り出せたのも、上田が個の力ゴールを決めた直後ということもあって、警戒心が高まっていたからだろう。

感慨深い…ポストプレーは武器に

 上田はスパルタ戦の76分にベンチに退いた。ストライカーの勲章であるハットトリックを狙うには時間がたっぷり残っていた。しかし、上田の“次のゴールをいかに射止めるか、その情報処理とプレーの実行に集中している”といったニュアンスの思考を聞かされた直後だっただけに、「あと1点取ればハットトリックでしたね?」と訊くのは野暮なこと。「結果的にハットトリックが完成したら嬉しかった――。そういう感じですよね?」と質問すると「そうです。常に局面で必要だと思われるプレーをすること(が肝心)です」と上田は答えた。

 J1で得点王争いのトップに立っていた上田が鹿島アントラーズから、セルクル・ブルッヘに電撃移籍したのは記憶に新しい。得点王という履歴はストライカーにとって箔になる。しかし上田が狙うのは得点王になることではなく、次の1点を取ること。その積み重ねのうえ、もし得点王に輝くことがあれば、そのとき喜びを噛みしめれば良い。

 今から1年前に上田が語ったことを振り返ると、スパルタ戦の個の力で決めたゴールは感慨深い。

「僕は元々背後の動きとかヘディングが好きなプレーだったけれど、それではフェイエノールトでは足りなくて、今、ポストプレーが少しずつ形になってきた。だけど、僕の中でポストプレーは武器と呼べるレベルではないと思っています」(2024年10月6日。トゥエンテ戦の上田)

 今、上田にとってポストプレーは武器。そのことが3戦4ゴールという“数字”より嬉しいことではないだろうか。

(中田 徹 / Toru Nakata)



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中田 徹

なかた・とおる/1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグなどを現地取材、リポートしている。

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