コーチの一言で大きな変化「そこを出せれば」 10戦6発…覚醒の万能ストライカー「カメレオンのよう」

流通経済大柏の金子琉久【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】
流通経済大柏の金子琉久【写真:FOOTBALL ZONE編集部 】

流通経済大柏のFW金子琉久「どのチームにも圧倒して勝てるようにしたい」

 ユース年代における夏の全国大会は高体連のインターハイ、Jクラブや街クラブは日本クラブユース選手権。覇権を手にしたチーム、志半ばで敗れたチーム、全国にたどり着けなかったチームが、それぞれの思いを抱えながら、全国各地のフェスティバルや合宿で夏以降の捲土重来を誓う選手たちの思いを描く「真夏の挑戦者」シリーズ。

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 第13回は優勝候補筆頭と言われたインターハイで、無念のベスト4敗退を喫した流通経済大柏のストライカー・金子琉久について。2位につけるプレミアリーグEASTで10戦6ゴールを叩き出しているFWの覚醒の理由とは。

 ずば抜けたアジリティーと運動量を駆使し、前線でボールを受けてサイドへの展開やスルーパスが出せて、裏抜けやドリブル突破からシュートを狙うこともできる。万能型ストライカーとして一気に頭角を表してきた金子は、昨年まではゴールよりも周りを生かすことに美学を持ったアタッカーだった。

「中学時代からドリブル突破は武器でしたが、ボールを持った時の攻撃のアイデアを周りから評価してもらっていました。高校に入ってからも仕掛けるドリブルというより、運びながら周りを生かすための選択肢を探して、ラストパスやつなぎのパスを出すプレーを得意としていました」

 FC多摩ジュニアユースから複数の選択肢の中で、サッカーの質が高く、プレー強度も高い流通経済大柏を選んだ金子は、チャンスメーカーとして強豪校の中で活路を見出そうとした。

 転機が訪れたのは昨年だった。金子の主戦場はセカンドチームのプリンスリーグ関東2部。そこでコンビを組んだ1学年上のFW山野春太(流通経済大)の急成長を目の当たりにした。

「チームとして勝つためには山野くんをどれだけ生かせるかがポイントだと思っていたので、彼のスピードをいかに引き出せるかを意識してプレーしていました。自分が落ちてボールを受けて、相手DFを引きつけてから背後のスペースに落とせば、山野くんが後はやってくれる。その質を上げることを意識していました」

 結果、山野はリーグ終盤で爆発してゴールを量産。そのままトップへと駆け上がって、選手権準優勝の原動力の一人となった。一方で金子はノーゴールに終わった。

 今年はトップチームの2トップのレギュラーの座を掴んだ。そのなかで、コンビを組む189センチの大型FW大藤颯太の持ち味を最大限に引き出すプレーを頭に描いていた。

「大藤は一瞬の背後の抜け出しに最大の武器があるので、彼が前を向いて1発でシュートを打てるようなところにボールを落とすことは意識しました」

コーチの一言で変化、10試合6ゴールで自信を深めた

 だが、その意識のなかに大きな変化が生まれた。きっかけは山根巌コーチの一言だった。

「昨年に山根さんから『アシストよりも点が一番評価につながるよ』と言われていたのですが、なかなかそこが表現できなくて。昨年を振り返ると、山野くんの良さは引き出せたけど、肝心の自分の結果を生み出せなかった。自分も結果を出したい気持ちと、これまでと変わらずに周りの力を引き出したい気持ち。両方あるなかで、山根さんから『ボールを受ける前にどこにボールを止めれば、1発でゴールを決められるかを考えた方がいい。その上でゴール前でどれだけ落ち着けるか。そこを出せれば、プロでも十分に通用すると思うよ』と言われて、周りを生かして、かつ自分も点を取るスタイルを持とうと思うようになりました」

 この意識変化がこれまで培ってきたものとプラスの化学変化を起こした。周りを生かすプレーを継続した結果、金子には高い洞察力、プレーの連続性や連動性が備わっていた。攻撃の際に常に周りを見渡してスペースや味方の飛び出しやサポートの位置を把握する力に加え、味方の特徴を把握してタイミングを合わせていたプレーの質を、生かす側から生かされる側に切り替えて活用するだけだった。

「仲間の特徴、武器を知っているからこそ、どこを狙っているのか、どこを見ているのかが分かって、ゴールを決めるというプレーもスムーズにできるようになりました。周りを知れば知るほど、自分のプレーに直結するようになったんです」

 結果、金子はプレミアEAST開幕戦でいきなり2ゴールを叩き出して勝利に貢献すると、10試合で6ゴールをマーク。得点ランキング1位タイを走る大藤へのアシストも2をマークしている。

 そしてインターハイ予選では会心のプレーも飛び出した。準決勝の習志野戦、右サイドを突破したMF安藤晃希のクロスに対し、DFを背負ってロックした状態からターンしながらボールを受けて前に出すと、そのまま相手と入れ替わる形でGKと1対1に。飛び出してきたGKを冷静に見て、ゴール左隅に流し込んだ。

「安藤からどんなボールが飛んでくるかは、練習から分かっていたので、ボールを受ける前に素早くターンができるように体の向きを作って(スペースに)入った。ゴールまでの流れはもう感覚でした」

 理想とする形でのゴールを決め、自信はさらに深まった。流通経済大柏の躍進のなかで、存在感は日に日に大きくなっている。

「プレミア後期はどのチームにも圧倒して勝てるようにしたいです。山野くんは後期から活躍をして、今、大学でも関東1部でゴールを決めるなど活躍を見せている。僕も負けたくないですし、より結果を残せるようにプレーしたいと思います」

 周りとつながって、状況に応じて生かす、生かされる立場をカメレオンのように巧みに変化させる。分厚い攻撃を最前線で牽引しながら、陰でも周りを操る金子の本領発揮はまさにこれからだ。

(FOOTBALL ZONE編集部)

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