吉田麻也はなぜ米国へ?「本当に来てよかった」 アイデアの宝庫…独自路線を行くMLSの“実情”

アメリカに来た理由「一言、面白そうだったから」
メジャーリーグ・サッカー(MLS)のLAギャラクシーに所属する元日本代表DF吉田麻也が、「FOOTBALL ZONE」の取材に応じた。アメリカでプレーして、3シーズン目。日本プロサッカー選手会会長を務める吉田が、MLSの魅力、そして日本サッカー発展への思いを語った。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎/全2回の1回目)
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試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、持てる力を出し切った背番号4はピッチに座り込んだ。オーランド・シティとのリーグスカップ・3位決定戦。前半9分、DF山根視来が起点となり、元ドイツ代表FWマルコ・ロイスが先制点をマークした。後半15分に一度は追いつかれたが、同22分にチームは勝ち越しに成功。キャプテンマークを巻いた吉田は最終ラインで若い選手を統率しながらフル出場し、2-1の勝利に導いた。
「とにかく今日は暑かったので。やっぱり集中力が欠けやすいんで、声を掛けてました。本当は声を掛けあって集中力を高めたいんですけど、まだ若いんで返しがないから僕だけ掛けているようになっているんですけど(笑)。ただどう考えても今日は勝たなきゃいけないホームでしたし、勝てて良かったなと思います」
2年目となった昨季はMLSカップ決勝でニューヨーク・レッドブルズを破り、優勝を経験。クラブチームでの自身初タイトルとなり、キャプテンとしてトロフィーを掲げた。だが今季はここまでリーグ最下位と低迷。そのため、3位までがCONCACAF(北中米・カリブ海サッカー連盟)のチャンピオンズカップの出場権を得られる今大会へのモチベーションはチーム全体として高かった。
「どこの国よりも連覇するのは難しいリーグだなとは思いますね。今年はレギュラー、準レギュラーの選手が何人か抜けて、スタートで躓いたのが一番大きかったですね。ようやく形を取り戻しつつあるんですけど、時すでに遅しというか。だからこそ、今回のチャンピオンズカップの出場権を取るというのは非常に重きを置いていた。正直、僕もまだ怪我から復帰したばかりでリスクはあったんですけど、でも結果的に出場権を獲得して、怪我もなかったので。本当にこの厳しいシーズンの中で、最低限の希望を繋ぎ止められたかなと思います」
8月24日に37歳になった吉田が、アメリカへの移籍を決めたのは2023年夏。ドイツ・ブンデスリーガのシャルケとの契約が満了となり、日本を含めて様々な選択肢があった中から、オランダ、イングランド、イタリア、ドイツ、に続く海外5か国目でプレーする道を選んだ。
「一言、面白そうだったから。何かしらエクストラのモチベーションというか、ブースターが必要なタイミングだったのかなと思いますね。結構早く決断したんですよ。もっと待てばヨーロッパからもオファーがあったかもしれないですけど、それよりも7月にここからオファーが来た時に気持ちが動いたというのが一番ですね」
実際にアメリカに来てみると、驚きの連続だった。移動、施設、そしてビジネス。全ての規模が想像を超えていた。
「やっぱり驚いたのは投資されている額がすごいなっていうこと。それまでオースティンとか、ナッシュビルとか聞いたことないようなチームと戦って、アウェーに行った時に施設とかを見て、すごいなと思って。ヨーロッパで僕も中堅クラブにいましたけど、これは下手したらドイツやイタリアの中堅より全然環境いいなみたいな。それがやっぱり一番驚きでした。あとは想像はしていたんですけど、移動がやっぱりこのリーグの鍵になって、かなりタフだなというのは感じました」

昇降格がないリーグだからこそのサッカー
今夏にはイングランド・プレミアリーグのトッテナムから韓国代表FW孫興民(ソン・フンミン)がロサンゼルスFCに加入。インテル・マイアミに所属するアルゼンチン代表FWリオネル・メッシなど、数々のスタープレーヤーが所属する。これまで欧州4か国を渡り歩いてきた吉田は、MLSのサッカーをどう見ているのか。
「昇降格がないので、どのチームもこうやりたいサッカーを掘り下げることが多いですね。ヨーロッパの下位チームって、結構ロングボールを多用して、フィジカル的な要素が強くなると思うんですけど、うもちいま最下位ですけど、ほぼほぼロングボールを蹴らないので。そういうレギュレーションによって色が出るなと。プラス、DP(Designated Player/特別指定選手)と呼ばれる選手たちがいるので、Jリーグやヨーロッパの5大リーグじゃないリーグと比べると、いい選手がいるなというのはありますね」
昇格、降格がないのは、まさにMLSの大きな特徴の一つ。欧州では残留争いを何度も経験してきた吉田をはじめ、選手心理にも大きな影響を及ぼしている。
「やっぱり上位プレーオフに入ることを目指すので、マインドセットがポジティブですよね。降格したくない、ではなく、上に入りたいという思考でプレーするので、気持ち的にもポジティブではありますね。もちろん経営面でも安定するというのもあると思うんですけど、選手からしたらそこはあまり関係ないので」
他にもドラフト制度や、オールスターでも試合だけでなく、クロスバー当てを競うイベントを実施するなど、欧州のサッカーシーンとは大きく異なっている。日本プロサッカー選手会会長も務める吉田にとっては、アメリカはJリーグを発展させるアイデアが詰まっている。
「観客を楽しませる演出というのは、やっぱりすごいですよね。それはもうJリーグにメチャメチャ参考になるなって。Jリーグも見せ方というか、もうちょっと面白くてもいいのかなとは思いますね。ちょうど(現地時間8月30日に)カレッジフットボールが開幕して、スタジアムに10万人以上入っているんですよ。テレビも(ギャラクシーの)食事会場に4台あるんですけど、プレミアリーグじゃなくて全部カレッジフットボールが流れている(笑)。彼らは僕らよりもお金もらっているから。そういうビジネス的な所は、やはりアメリカはすごい。日本はヨーロッパを目指すじゃないですか。代表もそうだし、それはいいことだと思うんですけど、ヨーロッパの歴史をリスペクトして学びつつも、アメリカのビジネスやエンターテインメントのいいとこ取りをするべきだなと思います」
この日、行われたリーグスカップは、MLSから予選通過18チームと、メキシコのリーガMXの全18チームが参加するカップ戦。3位まではCONCACAFのチャンピオンズカップに出場できるため、リーグ戦で最下位に沈むLAギャラクシーにとっても、モチベーションを保つことができた。観客にも、選手にも、飽きさせない工夫を凝らしている。
「例えば、このリーグスカップみたいに韓国と一緒にリーグ戦をやるのも面白いですよね。実際、日本と韓国の協会はよくコラボレーションして、今回もメキシコとアメリカと合同で試合をしますしね。協会同士がやれるんだったら、リーグごとでもやれるんじゃないかなと。こっちにいると、そういうアイデアやヒントがいっぱい詰まっているので、それもアメリカに来る決断をした理由の一つ。自分のサッカーに対する色んな目線を高めてくれるんじゃないかなという期待もあったので。本当に来て良かったなと思います」
そんな魅力の詰まった国で行われる来年のワールドカップ(W杯)。移動や気候のタフさを身をもって感じている吉田だからこそ、日本代表への期待を抱いている。(第2回に続く)
(FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎 / Shintaro Inoue)





















