日本大学選抜が欧州で絶大インパクト “宝の山”にスカウト熱視線…セリエA撃破は「新しい時代の幕開け」

日本大学選抜がセリエAのフィオレンティーナに勝利した
日本大学選抜が8月4日から16日までイタリア遠征を行い、2勝1分け1敗の成績で帰国した。セリエA常連のヴェローナには0-1で惜敗だったが、最終戦では昨シーズン6位のフィオレンティーナに逆転勝ちして大きなインパクトを残した。
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日本サッカーの歴史を振り返れば、Jリーグ開幕を控えた1993年2月には、ハンス・オフト監督が率いるフル代表がイタリア遠征を行い、ユベントスとインテルに完敗。最終戦でレッチェと引き分けて1分2敗に終わっている。ユベントスは、前年の夏に来日して日本代表と2引き分けだったが、当時の選手たちは「やはりホームで戦うユーベは全然違った」と述懐していた。
因みにフィオレンティーナは1979年のシーズンオフに来日。3年後に優勝を飾るワールドカップに4人も送り込むチームだったが、主軸のジャンカルロ・アントニオーニらはイタリア代表戦の影響で欠場。それでもホームチームの日本代表は、先制点を守り切れずに引き分けた。
20世紀は世界でプロが浸透し成熟していった時代。とりわけラスト20年間はセリエAが世界最高峰だったので、簡単に今と比較はできないが、それでもリーグを代表するストライカーのモイーズ・キーンを筆頭に、ほぼ主力が顔を揃えたフィオレンティーナやヴェローナと大学選抜がアウェイで互角以上に戦ったのは、新しい時代の幕開けを示唆していたのかもしれない。
かつて大学選手たちの最大の目標は、ユニバーシアードだった。だが2019年に三笘薫、旗手怜央、上田綺世ら錚々たるメンバーを揃えた日本が優勝したのを最後に、大会からサッカーが消えた。ただし代わりにこうしてイタリア遠征が実現したのを見ると、結果的に今後は大学サッカー界に大きなメリットをもたらす可能性がある。
そもそも欧州のクラブ側には、各国の大学選抜が集結するユニバーシアードに興味を示す理由がなかった。一方で三笘、旗手、上田の3選手は、J1でも優勝を争うクラブに加入すると、いずれも即戦力として機能した。また、日本サッカーの急成長とともに長友佑都、武藤嘉紀、守田英正など大学出身で、欧州まで到達する選手が目立つようになり、最近では塩貝健人のように慶応大学2年時に休学してオランダのNECナイメヘンと契約するケースも出てきている。逆に欧州側にも、着実に日本の大学には優秀な素材が隠れていることが周知されつつある。そしてそれを明確に証明したのが、今回の日本大学選抜だった。
各国の大学選抜対抗戦では、いくら目の肥えた優秀なスカウトでも個々の質を見極めるのは難しい。だがたとえプレシーズンマッチでも、イタリアのトップチームが相手なら確かな評価が可能になる。天皇杯での快進撃を見ても、東洋大学は上位進出チームの中で、最も若くて伸びしろの大きな選手たちを抱えていた。逆にJクラブには22歳以下でこれだけ質の高いチームを作るのは不可能だろう。
一方で欧州の視点からすれば、全員がアマチュアの大学選抜は宝の山だ。日本の高校生年代への先行投資(青田買い)も進む中、オランダ、ベルギー、スイス、オーストリアなど中堅国のクラブが、俄然積極的に獲得に乗り出して来ることは想像に難くない。それは当然日本の大学選手や、彼らが所属する大学にとってもメリットは少なくない。
これまでJクラブと大学の関係は、どちらかと言えば買い手市場だった。総じて結果至上色が濃いJクラブは、平均年齢も高めでベテランを軸に完成が近い大学選手を補強する傾向が強かった。少し前までは育成費も出し渋るJクラブもあったそうで、それでも大学側は選手たちの希望を叶えるために送り出していた。しかしライバルが欧州市場になれば、今のJクラブではとても太刀打ちできなくなる。
大学生も含めて大半の選手たちのゴールは日本代表で、そこに到達するためには欧州トップシーンでの活躍が必要な時代になった。これまでは三笘のような慎重派もいたが、今後は可能な限り早く欧州に順応したいと考える選手が増えていくはずだ。そう考えれば日本大学選抜の欧州遠征は、選手、彼らの所属大学、欧州クラブの三者に大きなメリットをもたらす理に適った企画と言える。今回の大学選抜23人中で11人がJクラブ入りを内定しているが、遠征が継続されれば一気に選択肢が広がっていくはずだ。もし大学から欧州を目指す選手が増えれば、後手に回るJクラブは新しい対応を迫られることになる。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)

加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。




















