高校日本一→大学で迷走 J複数クラブに練習参加…目指すべき先輩の背中「到底行き着かない」

筑波大の心臓・徳永涼に脚光
9月3日から大学サッカーの夏の全国大会である第49回総理大臣杯全日本大学サッカートーナメントが開幕する。
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昨年度の大会では準決勝で新潟医療福祉大学の前に0-0からのPK戦で敗れた筑波大学は、今季の関東大学サッカーリーグ1部で2位の好位置につけている。過去3回の優勝を誇る大学サッカーの名門が挑む夏への決意を、プロ注目選手の6人に話を聞いた。
第3回は筑波大の心臓・徳永涼について。前橋育英高時代にキャプテンとしてインターハイ優勝に導いた闘将は、筑波大でもずば抜けたリーダーシップを発揮している。彼にとって総理大臣杯の価値は非常に大きなものだった。
「去年の総理大臣杯は『自分の武器はこれだ』というものが明確に見つけられた大会でした」
昨年の大会で徳永は加藤玄(名古屋グランパス)と1回戦、準決勝とダブルボランチを組んで攻守を安定させた。ただバランスを取るのではなく、セカンドボールを回収してからや、相手との球際を制してから、そのまま鋭いターンをして前にボールを運んで行くなど、攻撃の起点としても機能。このプレーこそが、彼にとって大学サッカーでやっていく上での大きな光明となった。
「高校の時にある程度培われたサッカー観を、筑波大でもう一度見直さないといけませんでした。プレー強度、判断スピードの違い、何より加藤選手や竹内崇人(SC相模原)選手、高山優(ヴェルスパ大分)選手など、偉大な先輩たちに囲まれた環境で、『どうしていけばいいんだろう』と悩んでいた時期が続いていて、その悩みが一気にスパンと晴れた気がしたんです。自分はただスペースを埋めたり、展開をしたりするだけでなく、前へのダイナミズムを発揮していくべきだと」
Jクラブ練習で感じた「まだまだだな」
自分が大学サッカーにアジャストできたと確信できた大会となったことで、彼の能力は一気に向上をしていった。選択肢のプライオリティーは常に1つ前。プレスバックやスペースを埋めるために相手ゴールに背を向けた状態でアプローチに行っても、その前に前の状況を確認しておいて、ボールをかっさらった後のプレーイメージを持ち続けた。
最初は引っかかるところもあったが、リーグ終盤になると彼のドライブはチームにとってベクトルを前に向け、全体を押し上げる最良の手段となり、今年はより強烈な武器となっている。
昨年までは動きながら前を向くことが多かったが、今年に入ると静止した状態でボールを受けてから一気に90度~180度のターンで加速をしたり、相手のプレスが来ている状況でも身体で背負いながら一気に相手の矢印を折るターンをしたりと、スピード、タイミング、強度すべての質が向上した。
凄みを増した彼には多くのJクラブが熱視線を送っており、アミノバイタルカップ終了後の7月、8月でJ1とJ2の合計4クラブの練習に参加。複数のクラブからは高い評価を受けている。
「すべてのクラブで感じたのは、今の自分は『まだまだだな』ということでした。もちろん、卒なくこなすことできましたし、強度に慣れれば十分にやっていける手応えは感じたのですが、僕の目標はあくまで『プロで即戦力として活躍する選手になる』ことなんです。ただ、その組織の1ピースになるのではなく、もっとプラスの影響をチーム全体に与えられるような選手にならないといけない。前橋育英の先輩である中村草太(サンフレッチェ広島)選手、稲村隼翔(セルティック)選手のように1年目から強烈なインパクトを出していかないといけないと考えると、もっとやるべきことはたくさんあるし、大学サッカーで違いを出さないと、そこには到底行き着かない。自分の中で明確な目標があるからこそ、『まだまだだな』という悔しさと同時に、これからの努力次第でどうにでも変わることができるなという、自分自身への大きな期待もあります」
「自分が大学の中で無双できるか、違いを出せるか」
自信と課題、そして期待感。高校時代から頭脳明晰で情報収集能力、分析力、実行力を兼ね揃えている彼は、今自分がやるべきこともしっかりと言語化できている。
「今は守備で言えば、自分の守備範囲を広げること。多少遠くても、瞬間的な予測とスピードで埋めて、そこからより寄せにいくのか、パスコースを限定するのか、味方の背後のスペースをケアするのかなど、その場に適した判断をし続ける。攻撃面では守備の時点で常に周りの状況を見て、前を向いてからパスだけではなく、自分が何人も交わして運んで行くつもりでチャレンジをしています」
今大会への最終調整試合として行われた拓殖大学とのトレーニングマッチでも、徳永が落ちてボールを受けてから、一気に2、3人ドリブルで交わしていくシーンが見られた。驚きだったのが、完全に相手のプレスに喰われている状態で彼はボールを受けて、バチンと音を立てながらプレスに来た相手をブロックして、180度のターンから前を向いてボールを運んだシーンだった。
力強さ、スピード、技術とインテリジェンスは昨年の総理大臣杯とは比べものにはならない。
「チームとしてはもちろん優勝を目指すのですが、今大会でどれだけ自分が大学の中で無双できるか、違いを出せるか。自分に期待しています」
筑波大の心臓はターニングポイントとなった大会に向けて心を踊らせながら、その鼓動を熱く鳴らしている。
(安藤隆人 / Takahito Ando)
安藤隆人
あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。




















