「周りのためにしてみたら」→「やらなあかん」…Bチームで不貞腐れていた2年生に訪れた転機

ヴィッセル神戸U-18 2年DF上本佳圭「みんなのために何かしよう」
高校生たちにとって全国大会が終わったこれからが本当の夏を迎える。高体連はインターハイ、Jクラブユース選手権。覇権を手にしたチーム、志半ばで敗れたチーム、全国にたどり着けなかったチーム。それぞれの思いを抱えながら、全国各地のフェスティバルや合宿で夏以降の捲土重来を誓う選手たちの思いを描く「真夏の挑戦者」シリーズ。
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第10回は和倉ユースサッカー大会(以下・和倉ユース)を制したヴィッセル神戸U-18の2年生左サイドバック・上本佳圭について。プレミアリーグWEST前期を首位で折り返したチームにおいて、リーグ出場はゼロ。ベスト8に進出した日本クラブユース選手権でもベンチに1試合も入れなかったレフティーが和倉ユースでスタメンに抜擢されたワケとは。
「1年生の時からAでプレーする機会があまりない中で、こうやってチャンスをもらうことができて、優勝までできたのは嬉しいです」
素直な胸の内だった。和倉ユース決勝で鹿島アントラーズユースを1-1からのPK戦の末に破った瞬間、上本は全身で喜びを爆発させた。
2年生となった今年、8月までの公式戦はほとんど絡めなかった。「正直、不貞腐れていたというか、試合に出られない時期が長くなるにつれて、サッカーへの情熱が徐々に落ちていっているような状態でした」と正直に口にしたように、神戸U-15からトップ昇格を目指してU-18に進みながらも、思うように行かない状況に負けそうになっていた。
だが、所属していたBチームのコーチからのある一言で、彼は大きな意識変化が生まれたという。
「自分のためじゃなくて、周りのためにサッカーをしてみたら」
この言葉にハッとさせられた。左利きでスピードのあるウイングとしてプレーしていた上本は、自分の武器を発揮するために、自分の好きなタイミングでスピードアップをしたり、仕掛けたりと、一言で言えば自分勝手なプレーをしていることに気づいた。
さらにウイングから左サイドバックにコンバートされたことで、より守備の役割が求められた。チームのためにサッカーをするという意識を持たないと、周りから信頼されないポジションになったことも大きく影響をした。
「その言葉を言われてから、ちょっとずつ意識が変わりました。自分勝手なプレーではなく、みんなのために何かしようという発想に変わった。守備への考え方が大きく変わって、まずはチームのために守備をして、そこから自分の武器を生かしていこうと考えるようになったんです。球際とか、行くべきところでしっかりと寄せにいく。攻撃もチームとして仕掛けるべきタイミングで行くというプレーになっていきました」
「戦う部分や気持ちの面が足りていなかった」
この大きな変化を安部雄大監督は見逃さなかった。和倉ユースはAもBもごちゃ混ぜにしながら挑んだが、決勝トーナメントからはメンバーを徐々に固め、左サイドバックは上本に固定された。
「他の選手と比べて僕には戦う部分や気持ちの面が足りていなかった。サッカーに対する意識が甘かったので、チャンスをもらえなかったのだと思う。でも、和倉では監督が僕を使ってみようと考えてくれた。『ここでやらなあかんな』と思いました」
守備もしっかりとこなす左利きのスピードが武器のサイドバック。もともとスペックは非常に高かっただけに、気持ちが追いついてきたことで、彼の能力は一気に開花した。激しいアップダウンと、タイミングを見て、絶妙なコース取りをする効果的なオーバーラップとインナーラップ。
左サイドハーフのトップ昇格が決まった瀬口大翔と、1年生で2種登録を済ませているMF里見汰福とのコンビネーションは抜群で、インナーラップを仕掛ければ一気にポケット(ペナルティエリア内の左右のスペース)に侵入してチャンスを作り、オーバーラップを仕掛けると、スピードに乗った縦突破から左足で正確なクロスを供給する。決勝の里見のゴールへのアシストはまさにその形だった。
「上本選手と左サイドの連携をしてみて、上本選手は僕と瀬口選手の状況を見て、空いているスペースに入ってきてくれる。本当にいい選手だと改めて思いました」と里見が賞賛をすれば、瀬口も「初めて左サイドのコンビを組んだのですが、守備ができて、足も速いので、自分が『ここだ』と思ったところにパスを出したら必ず走ってくれる確信があった」と手応えを口にした。
「もともとウイングなので、攻撃参加をしないと僕が出ている意味もありません。守備もしつつ、攻撃はどんどん出て行く。これからも継続して試合に使ってもらうために努力をしたいし、この大会をターニングポイントにしたいと思っています」
間違いなく和倉ユースで確かな自信と周りからの信頼を掴み取った。後はここで慢心をせずに、これまで通り周りのためにプレーする意識を持って、自己研鑽を続けるのみ。
「左サイドバックには寺岡佑真選手や同い年の西岡鷹佑選手がいてライバルは多い。でも、この大会の経験を生かして、プレミア後期で試合に絡みたいし、来年はもっと大きな存在になって、このゴーゴーカレースタジアムのピッチに必ず帰ってきたいと思っています」
序列を変えるきっかけとなった大会として、より自分のサッカー人生において忘れられない大会にするために。金沢での思い出の濃度が増して行くかどうかは、これからの自分に懸かっている。
(FOOTBALL ZONE編集部)




















